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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

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そのイロはハルヲ夢見る

18/09/27 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:130

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 アパートの一室。彩瀬イロは真っ赤な液体にまみれて倒れていた。紅色に染まる白いワイシャツ。散乱した描きかけの絵。イロは身動き一つしない。凄惨な殺人事件の現場か。
 そこにイロの友人である尾屋ハルヲがやってきた。イロが倒れている一室を見るなり、ハルヲを眉間にシワを寄せる。イロの胸ぐらをつかみ立たせると「起きろ起きろ起きろ」と目覚まし時計のように繰り返した。すると先ほどまで動かなかったイロが大きなあくびを一つ。眠そうに目をこすりながらも、無事起床した。
「その血まみれにしか見えない格好はなんだ」
「あっ、本当だ。インクでもこぼしたかな」
「まったくのんきだな。とりあえずこれでも食え」
 ハルヲがイロの口にアンパンを放り込む。イロはもぎゅもぎゅとアンパンを咀嚼した。
「牛乳が欲しい」
「うるせえ。それより一週間も学校来ないでどうした?」
 イロとハルヲは同じ美大に通っている。天才肌のイロと秀才のハルヲ。二人は学校でも有名だった。
「……スランプなんだよ」
「スランプ? おまえが?」
 天才イロから放たれた、まさかのスランプ発言。しかしイロが真剣に悩んでいることを察したのだろう、ハルヲは話の続きを静かにうながした。
「最近気づいたんだがな、芸術とは人生の伝言だと思うんだよ」
「それだけだとよくわからんね。くわしく」
「芸術作品、中でも名作と呼ばれる作品には、作者の強烈な想いが込められている。つまり名作からは作者の強い想いが、伝言となって心に届くんだ」
「それとイロのスランプになんの関係が?」
「オレの絵には人を感動させる強い感情、届けたい伝言がないんだよ」
 頭をボリボリとかきむしるイロ。その表情からは、イロが本気で苦しんでいることがうかがえる。
「オレが今まで描いてきたのは、全部テクニックだけで作られた、心の入ってないまがい物だよ。それに気づいたらいても立ってもいられなくなって」
「倒れるまで一人部屋で絵を描いてたと」
 ハルヲの問いに頷くイロ。すっかり弱り切ったイロを見て、ハルヲはどうしたものか考えているようだった。
「……でも、あの絵からはおまえの想いが伝言のように届いたぞ」
「どの絵だ?」
「オレがモデルになった絵」
 ハルヲの言葉に目を見開くイロ。ハルヲは構わず話を続ける。
「あの絵を見た時、グッと胸に来たんだよ。イロはこんな細かいところまでオレを見て、こんな優しい表情をしているオレを描いてくれるんだなって。あの絵からはおまえの強い感情がメチャクチャ伝わってきたよ」
 語り終えると、ハルヲはポケットからタバコを取り出し火をつけようとした。その間「なっ、なっ、なっ!」と壊れた機械のように繰り返すイロ。
「なあ、タバコ吸っていい?」
 ハルヲの問いかけに答えないイロ。そのままハルヲがタバコを吸おうとした、その時だった。
「我が家は禁煙だあああああ!」
 そう叫ぶなりタバコを取り上げ、ハルヲを家から追い出すイロ。玄関のドアにカギとチェーンをかけると、そのままハルヲを無視する。
 一人になり、イロはハルヲの言葉を思い出した。
「……そりゃそうだよ。好きな人をモデルに描いたら、想いだって込められるさ」
 ハルヲには明かすことのできない秘められた想い。だがそれこそが自分の求めていた、伝言として届けたい強い感情だと知り、イロは大きくため息をつく。
「……スランプ、簡単に脱出できそうだ」
 一人キャンパスに向かうイロ。描く絵はもちろん決まっている。
 イロの筆がきらめく。新たに描かれる絵、それは満開の桜の中でたたずむハルヲの姿だった。
 その筆が描く色は春を夢見る。
 イロの想いを伝言として届けてくれる、そんな絵がこの世に生まれた。

 余談。無事絵を描き上げ、食料を買いに行くべく外に出たイロ。玄関のドアに貼られた貼り紙を見て、イロの顔は真っ赤に染まった。
『伝言。そこまで想いを込められたらオレだってさすがに気づく。今度は伝言ではなく、言葉で直接伝えて。ハルヲ』


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