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小峰綾子さん

性別 女性
将来の夢
座右の銘 笑う門には福来る

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禁断の果実に手を伸ばす

18/09/25 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 小峰綾子 閲覧数:140

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リリカは、震える手で生物室をノックした。中から「どうぞ」という、男性の声が聞こえる。

高校の図書室で借りた本の中に1枚の紙きれを見つけたのは2日前のことだ。

「アダムとイブからの伝言。あなた方は騙されている。この世界は大事なことが隠されている。恋や愛は美しい感情であり行為である。決して禁止などできるものではない。もちろん扱いには気を付けなければならないものではあるが。これを読んで興味をもったのであれば×××@△△△に連絡を」

この国では、50年ほど前から男女が個人的に、エージェントの介入を無しに個人的な交際関係をもつことが禁止されていた。理由は、知識や経験もなしに男女がかかわると様々なマチガイや非倫理的なこと、非効率なことが起きるからと教えられている。

一方で、禁止されているから故、それがかえって魅惑的に見えるのが人間の性というものであろうか。思春期の青少年であればなおさら。

リリカはその日の夜にさっそく、自分の部屋からこっそりメールを出した。すると、返信はすぐにあり

「2日後の放課後、生物室で待つ」
という差出人不明の一文が送られてきた。

深呼吸をして扉を開けると、生物教師の土屋がいた。

「ああ、君か」

土屋が立ち上がり、近づいてくる。

「扉を閉めて、すぐに」

二人の顔が近づく。土屋はこんな顔だったのか。リリカは思った。今まで意識をしたことがなかったが、整った顔立ちをしている。澄んだ目でじっと見つめられる。

良いのだろうか。この学校はもちろん生徒は女子しかいないが、教師には男性もいた。男性の教師と生徒が部屋の中で2人きりになることは何故か禁止されていた。リリカにはその意味はよく分からなかったが、おそらく「マチガイや非倫理的なこと、非効率なこと」が起きる可能性を排除するためであろうか、と考えていた。
一方で、土屋は時々特定の生徒を呼び出して密室で2人になり「個人指導」を行っているという噂も生徒内で出回っていた。とはいっても噂はそこまでで、実際に「指導」の内容がどんなものなのかは誰も知らなかった。

それにしても、どうしてだろう。心臓の音が大きく聞こえる。

「君は、禁断の果実に手を伸ばす勇気はある?」

土屋が耳元でささやく

「先生、なんだか、息苦しいです。体も熱い気がします。ここに来るまでは何ともなかったのに。急に、体調が、悪くなったような」

土屋はくるっと背を向けて、奥の準備室の方に歩いていく。どうしてだろう、緊張が解けてホッとしてはいる一方で寂しい気もする。もっと近くにいてほしい、もっと顔を見ていたいし、声を聴いていたい。

「大丈夫、君はおかしくない。体の具合が悪いわけではない。おいで」

リリカは吸い込まれるかのように準備室に近づく。土屋に促され、中に入り、あらかじめ用意されていたかのようにそこにあった椅子に座る。土屋は椅子の前にあるデスクに手をつく。

「この先を、知りたい?なぜ、呼吸が苦しいのか、今まで知らなかった感情について」

なぜか、いけないことをしているような気がする。でもリリカは知りたかった。自分の体に、頭の中に、今まで知らなかった自分がいるような気がしている。

「知りたいです」

「では」

一呼吸おいて土屋は話を始める。

「人間が、どのようにして生まれてきたか、なぜ、いま君の呼吸が苦しいのか。過去の、僕たちの祖先や先輩たちが何を営んできたのか。なぜ、大事なことが隠されているのか。僕は、秘密裏に、恋や愛の秘密を伝導している組織の一味だ」

そうだったのか。だから図書室の片隅の、古い本に紙切れを挟んで。

「先生、もし、見つかったらどうなるのですか。恋愛が法律で禁止されているのであれば、それについて教えることは罪にはならないのですか」

「今のところ、世に出されている恋愛に関する記述がある文献を読み解くことは禁止されていない。しかしそれもいつ禁忌とされるかは分からない。」

恋愛が禁止されてから、それに関連する文献の出版もだいぶ厳しくなった。しかし、すでに出回っている文献に関しては全て規制することまではされていない。

土屋が再びリリカの目を見つめる。なんて、まっすぐな眼差しだろう。この人のことは信頼できる。本能的にリリカはそう思っていた。

「引き返すなら、いまだ。そもそも、君と一人でこの部屋にいること自体、校則違反だ」

今さら、やめますといって出て行くことなんかできない。リリカはもともと勉強好きで好奇心の強い性格だ。

「引き返しません。先生、教えてください。私も、仲間に入れてください」

決心したようにリリカが言う。土屋が静かにうなずく。

「では、これより、授業を始める」


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