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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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D氏の伝言

18/09/24 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:114

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 アーヤは窓をいっぱいにあけると、静寂につつまれた夜の中に、耳をすました。
 どこかから、蝙蝠のはばたきがきこえてこないかしら……。
 その蝙蝠は、D氏からの伝言を運んでくるはずだった。
 ――夜が更けるのを待って、我が館をたずねられよ。
 それが伝言に書かれている文言だということは、村にすむ娘ならだれもがしっている。
 娘のいる家に、D氏の伝言が届けられるのは、いまではこの村の習俗にさえなっていた。D氏が吸血鬼で、村に住む若い娘の血を好むことは、年端のいかない子供たちの間でも常識だった。
 家の入口や窓に、ニンニクの房がつり下がっているのをみたら、まちがいなくその家には娘がいるはずだった。
 アーヤの家にももちろん、扉にも窓にも、いくつものニンニクがつり下げてあった。
 にもかかわらずアーヤが、夜な夜な窓を開けて、D氏の伝言をまちわびるのは、どうしてだろう。だれもが恐れる吸血鬼に、わざわざ生き血を吸ってくれといわんばかりに窓から顔をつきだすのは、なぜなのだ。
 アーヤの両親は、夜になると娘が窓をあけるのを、ちゃんとしっていた。娘の辛い胸のうちを、しらない親があるだろうか。
 アーヤにしても以前は、D氏を心から恐怖する娘だった。そのときはじっさい、家のあちこちに強烈な刺激臭を発散するニンニクをたくさんつっていた。
 いま、窓枠を飾るニンニクは、じつは無臭ニンニクで、それはニンニクでもなんでもないただの西洋ネギだった。
 西洋ネギにかわったのは、それはやはり近所にすむマリヤのところにD氏の伝言が届いたことが原因していた。
 小さなときから、アーヤはいつも、マリヤといっしょにすごしてきた。周囲には二人の仲睦まじさは、まるで姉妹のようにもみえたことだろう。しかしそれはとんでもないまちがいだった。アーサはいつもマリヤのことを、自分より容姿でおとる、醜い娘とみなしていた。彼女の存在はいわば、アーサの引き立て役以外のなにものでもなかったのだ。
 そのマリヤに、D氏の伝言がとどいた。このことはアーサの自尊心を著しくきずつけずにはおかなかった。どうしてあんな子にきて、私にはこないのよ。理不尽すぎると、夜空に怒りのこぶしを突き上げたのもこのときだった。
 家からニンニクが取り払われ、かわりに西洋ネギが飾られてからはや、三月がすぎさった。
「なんとかしてやれないものか」
 両親にはアーサが不憫でならなかった。
「おまえ、D氏にたのんで、伝言をもらってきたらどうだ」と、夫は妻にうながす始末だった。
「あたしなんかがいったって、くれるわけがないでしょう」
 それもそうだと二人はそれから知恵をだしあい、どうせ文言はわかっているのだからと、にせの伝言を書くことにした。
 アーヤは、その夜いつものように窓をあけると窓枠に、一枚の紙切れがおいてあるのをみとめた。
「まさか、そんなはずが――」
 心ははやくも躍りあがらんばかりで、辺り一帯に響きわたるような大声で、
「父さん、母さん、きたわよ。D氏の伝言が」
「え、ついにおまえに――」と両親はわざとらしくうろたえてみせた。

 アーヤは翌日の夜になるのをまってさっそく、D氏がすむ丘の上の館をめざしてでかけた。
 こちらからでむいていったら、D氏といえども、アーヤの生き血を吸ってくれることだろう。
 と彼女の両親はたかをくくっていた。ところが、館にたどりついた彼女が、いくら扉によびかけようが、たたこうが、何の返答もかえってこなかった。そのようすを、後ろの茂みからうかがっていたアーヤの両親は、血を吸われないことには、娘の面目がたたず、あとで近隣のものにどう申し開きしたらいいんだと嘆いた。
「あなた、吸血鬼になったつもりで、あの子の血、吸ってやって」
 妻にけしかけられて、やむなく夫は、闇にまぎれて娘の背後にしのびよっていった。
 悲鳴のあとに、アーヤの倒れる音がつづいた。
 首すじにくっきり、噛み跡をこしらえて家にもどってきたアーヤをみて、近所の者たちは、これはまちがいないと確信した。
 そのことがあってからというもの、これまでにまして多くの娘たちが、吸血鬼の毒牙にかけられるようになった。それも、まえのように伝言もなく、夜道をあるいているだけで、だしぬけに襲われるようになったのだ。
 このところアーヤの父親は夜になるとひとり、家をでていくことがよくあった。このまえアーヤの血を吸ったときに感じたゾクッとする快感がわすれられずに、村の娘とみると、見境なしに襲いかかっては、その生き血をむさぼるようになっていた。
 本家のD氏が、アーヤを皮切りにして娘ならだれでもいいといわんばかりの無差別吸血行為に、いたく美意識をきずつけられて、遠くはなれた村をめざして逃げるようにとびたったのは、それからまもなくのことだった。
 




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