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せーるさん

クリエイティブなことは、なんでも好きです。

性別 男性
将来の夢 学校をつくりたい
座右の銘 八百万の国らしく、八百万の方法論を持ちたい。

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伏字のラブレター

18/09/24 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 せーる 閲覧数:120

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駅のホーム。誰かが手を振っている。
どうせ、僕に向けてではないだろう。
高校に入るために上京したはいいが、半年たっても上手いこと友達を作れずにいる。クラスでも馴染めているか微妙なとこだ。小学校では活発な人間だったが、中学の3年を間に入れれば性格も変わってしまう。
上京して出来るようになったことと言えば、電車通学。小中では歩きか自転車だったので、初めは電車での通学でガチガチに緊張していた。しかし、利用していくうち、それも日常の一コマになり、足が勝手に動くものだ。

ある日、そんな日常を大きく揺るがす出来事がおこった。
いつものように電車を乗り換えて、家に帰りつき、部屋で宿題のプリントを出すためにバッグを開けると、そこには馴染みのないものが。
ワンポイントかわいい柄が入っている白い封筒。
いかにもな手紙のやり取りをするための封筒だった。鼓動が大きく脈打つ。
学校の誰かか?
封筒の表には、僕の名前が宛名として書いてある。裏返してみると住所はしっかりと書いてあったが、名前のところは『〇〇 〇子』と伏字になっていた。相手の名前が分からずガックリきたが、それと同時に興味を惹かれた。封筒を丁寧に開けて、中の便箋を取り出す。
『こんにちは、ひとめぼれしました。あなたと文通したいです』
最初に飛び込んできたその文に、面食らう。
えっ? ぼくにひとめぼれ? 文通?
手紙の内容を読んでいくと、彼女は電車通学の路線が重なっている他校の女の子らしい。
騙されているんじゃないかという考えも最初のほうにはあったが、手書きで書かれている文字を読んでいくと、どうしてかその一つ一つに強い気持ちを感じて、すぐに信じてしまった。そして手紙の最後の文──
『よろしければ、この住所に返信してください。意外と名前は適当でも届くらしいですよ?』
すぐに返信文を書き、封筒に入れてポストに投函した。
ドキドキが止まらなくて、その日は眠れなかった。

次の日から、電車での登下校がただの日常の一コマではなくなった。
電車で隣り合った女性にいちいち、この人かも? とドキッとしたり、わざとバッグのファスナーを半分ほどあけて登下校してみたり。帰ったら帰ったで、バッグの中を掻き出したり、ポストの奥まで手を入れて手紙が来てないか確認したりするのが日課となった。

ある日、とうとうポストに手紙が入っていた。
心臓が跳ね上がった。部屋に入るやいなや、封筒をあけて中身を確認する。
『君、かわいいよね。電車の中で挙動不審になってるよ?』
瞬間、顔が赤くなるのを感じた。
『文通したいって言ってくれて、嬉しかったです』
『でも、もうバッグに入れたりしないから、普通にしてて笑』
恥ずかしさと嬉しさがごちゃまぜになって、ベッドに倒れこみ足をバタバタさせる。

それから、伏字な女の子との幸せな文通が始まった。
いまの学校のこと、上京する前のこと、小学生のころのこと。色んなことを手紙を通じて話した。
『へぇ〜。小学生のころの、その女の子以来、ちゃんと話した女子っていなかったんだね』
「そうそう、だから君が文通しようって言ってくれて、すっごく嬉しかったんだ」
『その女の子のことはどう思ってたの?』
「正直言うと、そのときはなんとも思ってなかったけど、中学にあがってからよく思い出してたりしてたね。結構恥ずかしいことだとは思うけどさ」

何通か文通のやり取りをして、分かったことと分からないことが出てきた。
──なぜ『彼女』が正体を隠して、僕と話しているのか──

帰りの電車の中でスマホを操作するふりをして、『彼女』を確認する。気づいてから、もう一週間が経つ。
彼女が降りるホームで、同時に降りる。そして彼女の方向を振り向く。
電車から降りた人たちは次々と階段を下り、少しすると駅のホームには静けさだけが残った。
向かい合う、僕と彼女だけの空間。
「ねぇ、なんで気づいたの?」
「小学生のころに言及されたときの違和感。それと、電車の中でチラチラこっちを見てたから……ね」
「そっかー、私も挙動不審になっちゃってたかー」
「なんで、直接話しかけなくて、手紙をバッグに入れたりしたの?」
「私、君に覚えてもらってる自信ないもん。……それに、私、東京で初めて君を見かけたとき、手を振ってたんだよ? 気づいてなかったでしょ」
かわいく、はかなげに彼女は笑う。
「私は、中学で離ればなれになっても、ずっと覚えてたんだよ」
「それにさぁ、君って小学生のころから言ってたじゃん、ミステリアスな女の子好きって。だから、名前出さないほうがいいかなーって」

「……こっちだって、忘れたことなんてなかったんだからな」
「おれは君が、涼子が好きです。付き合ってください!」
 深々と頭を下げ、そこから僕と涼子による、本名入りの文通と、お付き合いが始まった。


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