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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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ハッピーラグタイム白かりんとう

18/09/24 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:241

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「ハッピーアイスクリーム!!」
「なぁに、さっちゃん。今日のおやつどら焼きよ? まだボケないでよ。くわばらくわばら」
「ちーがうよ。がっこで流行ってんの。今みたいに二人の声がダブった時に言うの。ハッピーなんちゃらって。先に言った方が勝ちで、お菓子奢って貰えるのよ」
 私とお婆ちゃんのハッピーごっこのスタートは「生地が美味しい」だった。芦原家のくいしんぼシスターズに似つかわしい。
「ふぅん。じゃー、私は白かりんとうにしましょう」
 お婆ちゃんと私のハッピータイム遊びはお婆ちゃんが死んじゃうまで続いた。スタート時私が13歳。お婆ちゃんが70歳。終了時、私が25歳で、お婆ちゃんが82歳。通算成績、48対48。アイスクリームと白かりんとうの押し合いは胸が合ったまま。
 私が大学に通うので実家を出た18の時、お婆ちゃんは言ったな。「白かりんとうは食べんでおくから」だから私も大好物のアイスクリームを食べなかった。「そんな我慢せんで。わかった、お婆ちゃんもかりんとう食べます」電話でそう言ってもらえるまで。「白かりんとうは?」「そこは妥協点」「んー、じゃ、私も一等好きなアイスモナカは食べないことにする」「もー。頑固娘」「頑固孫やもん。遺伝遺伝」
 白熱したのはクイズ番組を見ている時間だった。家族で競うように正解を言い合うから、ハッピーが起こりやすかった。
「ちょーっと、ちょっと、私の勝ちよ」
「いいえぇ。じゃぁ、ビデオ判定ね。ケンちゃん」
「白かりんとうの勝ち」
「えー。お兄ちゃん贔屓! お小遣い貰う気でしょう」
「公正ジャッジだ。サチのは声が大きいだけ。早かったのはお婆ちゃん」
 あれのお陰だ。お婆ちゃんがビデオ判定ってオシャレなこと言ってくれたから。
 私はラジカセでクイズの時間を録音した。自分で判定するために。お兄ちゃんじゃ、公正かどうか怪しいんだから。
「あー。お婆ちゃん正解わかってるのに、わざと言わなかったでしょう」
「そんなことないよ。ホントにわからなかったの」
「えー、中大兄皇子わからんのー」
「わからんでええの。私の王子はケンちゃんだけでええの」
 あの日白熱し過ぎて、やっぱりクイズ番組中のハッピーごっこは休戦にしようとなったから、テープは一本っきり。お婆ちゃんが亡くなって聞き返したテープを私はデータ音源にしてパソコンに取り込み、CD−Rに焼いた。繰り返し繰り返し、私とお婆ちゃんと、父さん母さん、お兄ちゃんの幸せがパックされた時間を懐かしんだ。
「ハッピーアイスクリーム!!」
「ハッピー白かりんとう!!」
「うっへっへー、中学生の反射神経の勝ち―」
「ひー、50年若かったらねー」
「アイス、ハーゲンダッツにしてね」
「はーい。贅沢ね」
 賑やかな声。懐かしさと、郷愁。もう帰れない時間に、胸が溢れてあったかい。25歳からの私の辛い時、しんどい時、寂しい時をお婆ちゃんと中学生の私が癒してくれた。そして、その声に気がついたのは、私が30歳で漫画家に転向した時。
「ま? まから始まって、んー、聞こえない。父さんの声が被さってる。おかわりって」
 お婆ちゃんの声。ま、から始まって、ごにょごにょ。
 私は漫画にしてみた。家族団らんの晩御飯と、テレビのクイズ。祖母と孫の遊び。そして、お婆ちゃんが多分テレビに応えるように言った「ま×××××」
 伏せた言葉が一層の思いを呼ぶ。声を、言葉を寄せる。あれかな、これかな、ええ。ま、ま。漫画のレビューに星一つの酷評をみつけた時、編集さんに叱られた時、私は傘を開くように、お婆ちゃんの言葉を探した。私が答えにたどり着いたのは……。
「孫はカワイイですよ」
 だったのね。
 私に初孫ができた今。私、55歳。
 テレビの中で歌手の泉山茂男が言った言葉だ。録音には音が小さくて、忘れていた。
「孫なんかカワイくねーよ。小遣いせびるばっかりだ」
 そう、この言葉に、お婆ちゃんは返したんだね。思い出した。孫は、カワイイですよ。そう、私が今日旦那に言った言葉。
 私は録音を流す。さぁ、今こそ。49勝目。積年の勝ち越し。アイスクリームは天国でね。タイミングを計って。
「孫はカワイイですよ。ハッピーアイスク……」
「ハッピー白かりんとう!!」
 え? 私は驚いてイヤホンを外す。そんな、漫画にしたってでき過ぎで、読者は信じてくれないじゃない。こんなこと。あれ?
 プレイヤーのタイムが進んでいた。録音の中の声だ。音飛び? ええっと。
 私の悩み、苦しみ、悲しみを傘になって守ってくれた私の御守り、お婆ちゃんの「ま×××××」これからは、この不思議を御守りに替えたらいいんだ。お婆ちゃん。ずっとずっとやさしい。
 やさしいお婆ちゃんに49勝目をあげる。
 白かりんとうはデパートで買おう。お墓に供えるね、お婆ちゃん。
  
  


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