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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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さよなら、名前を呼べない妹

18/09/24 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:106

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 十月の満月の晩に生まれた子は、「××」と名付けられるのがこの村の習わしだ。
 なぜならば、その子は山奥にある泉に住む、龍神に生贄にされる運命だから。だから、名前など不要なのだ。
 生まれてきた子供は、額に大きく星型のあざを持って生まれてくる。私の妹のように。
 妹が生まれた時、両親は生まれた日付をごまかそうとしたらしい。でも、それは無理な話。だって、一目見ただけでわかってしまうのだから。
 だから、妹の名前は「××」。生贄の子供の名前以外では、決して口にしてはいけないマジナイの言葉。子供の魂が帰ってくることを望む、言葉。いずれまた、生まれてくるために、生まれた時からかけられるマジナイの言葉、それが「××」なのだ。

 十五になった妹は、十月の満月の晩、生贄となった。
 両親は毎日祈っている。妹の魂が再び我が家にやってくることを。
 そうはならないことを、私だけが知っている。
 私は妹を恨んでいた。妹が生まれたその時から、私の人生はかわいそうな妹に捧げるためだけに費やされてきた。いずれ死ぬ、かわいそうな妹のために。
 美味しい食事も、綺麗な衣服も、おもちゃも、両親の愛も全て妹が持って行った。妹と喧嘩することすら、私には許されなかった。
「××はかわいそうな子なのに、どうしてそんな意地悪をするの!」
 たった二つしか違わないのに、両親は私に大人と同じ振る舞いを求めた。
 妹は私を下僕のように扱うを当然だと思っていた。妹のわがままを叶えるために、暑い日も寒い日も、私はあちらこちらを走り回った。綺麗なままだったあの子の腕と対照的に、私の腕は痩せ細り、日に焼け、傷だらけだ。
 そんな状況で、どうして私があの子を愛すると思ったの?
 生贄の儀式の時、私も泉へ付き添った。一人の肉親と、三人の青年。それが生贄の儀式につきそう決まりだった。妹が心配だから私が行く、と私は言い張った。泣いてばかりの両親は、これ幸いと私に権利を譲ってくれた。
 妹は泉にたどり着いたところで喚きだした。
「お姉ちゃんが死ねばいいのに! お母さんたちだって私の方が好きなのに!」
 そうだろうな、と思った。私よりも妹のことが好きなのだろう。だから、私が死んだ方がいいのだ。でも、
「××はあなたでしょう? 辛くても、お役目を果たしなさい」
 彼女の額を指差して、告げる。
 喚く彼女を青年たちが、強引に小舟に乗せると、乱暴に蹴り出した。誰も漕いでいないのに、風もないのに、自然と泉は波立ち、妹を泉の中央へ連れていく。
 妹はまだ、何かを言っているようだった。
 役目を終えた青年たちは、逃げるように戻ろうとする。私もその最後尾に着いた。
 妹の声が、すすり泣きに変わる。
 私は足を止めると、少し悩んでから引き返した。
 泉に片手をつけると、つぶやく。
「妹をよろしくお願いします。龍神様。その子の本当の名前は、凛です」
 それだけ言うと、走って逃げた。
 言うかどうか、直前まで悩んでいた。でも、妹のあの姿を見たら言わずにいられなかった。また生まれてきては困るのだ。
 「××」で通していたけれども、妹にも親が考えていた本当の名前があった。
 その名前を、龍神に教えてはいけなかった。
 魂まで食われてしまうから。
 「××」という仮称が与えられているのは、マジナイの他にもう一つ意味がある。それは、魂の死を避けるためのもの。魂が生き残れば、また生まれてくるから。
 でも、龍神に名前が知られてしまっては、妹の魂は食われ、二度と生まれてくることはない。
 それでいい。もう生まれてこないでほしい。これ以上、私の幸せを奪わないでほしい。
 生まれて初めて口にした妹の本当の名前は、呪いの言葉だ。

 儀式の三日後、空の小舟が発見された。
 私はもうすぐ、この村を出て行く。妹が生まれ変わることを願って祈り、子作りをやめない両親を残して。
 叶わない夢を抱いたまま、夫婦二人で老いていけばいいのだ。


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