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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
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プロのメッセンジャー

18/09/24 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:68

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 内戦状態が続いて長い。迫る大国は未だ隣国攻略に手こずっているが、時間の問題だ。その前に自国統一を成し、備えねば、この国に未来はない。
 統一が成されない要因のひとつは、各勢力の位置関係だった。国を単純に分割しているのではなく、敵地の中に拠点が点在する、といった格好をそれぞれに取っている。大合戦を一気にして決着とはいかない。じわじわと拠点作りやその排除をやり合っている状態だ。
 こうした状態だと、各拠点での状況を本拠地へ報告する仕事は欠かせない。
 大事な役割だ。兵士の多くは、普段は一般の百姓であり、職業軍人ではないため、そうした者には任せられない。伝達をただのお使いと考えていたのでは、この戦乱の世を生き残れないだろう。
 さて、一拠点からとある伝言を預かったのも、その道のプロフェッショナルだった。
「武運を祈る」
「ハッ!」
 馬に飛び乗り、駆け出す。
 百姓は馬自体に乗れないが、たとえ軍人でも皆が馬術に長けているわけではない。このメッセンジャーは非常に長けており、早馬の名に恥じぬ早さで山道を通り、本拠地へと近づいていった。
 伝令の重要性は敵対勢力も重々承知。伝令の通るような道には、待ち伏せ役が常時監視していた。常時である。彼らも離れた位置の戦況など知る由はないのだから、自分たちへわざわざ伝令が来てくれてから敵の伝令係を待ち伏せることは不可能。事情はわからずとも、味方ではない早馬があれば、それは討つ対象となる。
 馬が通れる道は限られているとはいえ、敵の拠点は幾つもあり、また、何時馬が通るかなどわからず常時監視体制であるため、その分待ち伏せ役も多く必要になる。更には、メッセンジャー同様、プロフェッショナルでなければ務まらない仕事だ。とはいえ、実際には人材など数を確保できないため、数人はプロが混ざっているという程度ではあるのだが。
「早馬です!」
 監視役から仲間たちへ報せが入る。
 一刻の猶予もない。悠長に構えていたのでは、せっかく待ち伏せているのに、通り過ぎてしまう。全員が機敏に動き、配置に着いていた。
 メッセンジャーに矢が降り注ぐ。
(やはりここにもいたか。だが!)
 矢の雨あられとまではいかない。待ち伏せ役がそう大人数なわけがない。そして、矢を放っているのは素人同然の、数合わせの連中がほとんどだ。一撃必殺で命中などありえない。
 自身に当たりそうな矢を器用に弾き、あるいは、矢など食らっても放置して、本拠地へとまい進する。この程度の攻撃で臆するのはプロのメッセンジャーではない。
 しかし――。
 木陰から瞬足で現れた影。人だ。回避する間もなく、馬の脚を鋭利な武器で斬り潰された。馬は速度を付けたまま転倒、激しく地面に体を打ち付けている。脚をやられたのでは、もう走れない。
 斬りつけた待ち伏せ役は、まさにプロフェッショナルな仕事をこなした。わずかの狂いも許されないタイミングで、疾走中の馬を失わせたのだ。
「今の落馬で逝ったかもしれないが、確かめぬわけにもいかん」
 もし伝令役が生きていればトドメを刺すということだ。
 苦しむ馬の元へと寄ると、
「いない、だと?」
 いない。誰もいない。馬の下敷きにもなっていない。
 まさか馬だけが走っていたはずもなく、メッセンジャーは突如姿を消したことになる。
「ど、どこだ!」
 焦りを感じながら叫ぶ。仲間たちへ只ならぬ状況を報せる意図もあった。
 馬を失ったメッセンジャーは、森の中に隠れていた。正確には、馬を失うよりも前に判断し、馬を諦めて、樹々の中へと飛び込んだのだった。
 たとえ馬を失ったとしても、そして怪我を負ったとしても、役目は果たさねばならない。統一を成し、国を守るのは我が主君だ。そのために自分は使命を全うする!
 人間とは思えないほどの脚力と体力で、野山を駆け続けた。待ち伏せ役など、とうに背の向こうである。
 馬より遅いとはいえ、本拠地の主君のもとへ素早く到達したメッセンジャー。しかし出血と疲労で、意識を失う寸前だった。
(まだ倒れるわけにはっ!)
 主君は丁度おり、直接伝令を受け取るため、出向いて来た。主君は待つのが普通、異例な対応である。
「ご苦労だった。して、用件はなんだ」
「海の向こうから技法が伝わった、菓子があります。甘党の殿のお口に合うかと……」
 サンプルも大事に抱えてきていた。
 言い終わると同時、意識を失う。
「ゆっくり休むといい。疲れた時は甘い物が一番らしいぞ」
 命懸けで届けられたサンプルを大切に受け取った。
 その後、菓子は主君が美味しくいただいた。……一人で。それはそれ、これはこれ。

(了)


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