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文字のない手紙

18/09/24 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 ハナトウ 閲覧数:96

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伏字。
広辞苑第六版で調べると、「印刷物で、明記することを避けるために、その箇所を空白にし、また〇や×などのしるしで表すこと。」と記載されているそれ。
君はそんな伏字だらけの手紙を受け取った事があるだろうか?
買い物から帰宅した私が、悪戯っ子のように笑う彼女から受け取ったのがそれだった。
空白だらけの伏字の手紙。
初めに宛先、つまり私の名があり 「 で本文が始まったと思えば、長い長い空白の後 」 と鍵括弧が閉じられる。そして最後に差出人である彼女の名。
思わず「なにこれ?」と聞けば、
「〇とか★ばっかりにしようかと思ったんだけど、気持ち悪くなっちゃって。」
と、照れたように笑いながら質問に対して答えになっていない答えをくれた。
彼女の真意を探るため、戸惑いながら手紙を見つめていると、
「ま、頑張って。」
彼女は私の肩をポンポンと叩くと、楽しそうに鼻歌を歌いながらソファに腰掛け本を開いた。
呆気に取られて彼女を見ても、素知らぬフリ。
……これは自力でどうにかするしかないようだ。
彼女に聞こえないように小さくため息を吐き、まず、買ってきたものを冷蔵庫の中にしまった。

キッチンに置かれている椅子に腰かけ、改めて彼女からの手紙を見る。
「」の間、空白の部分は少なく見積もって十行程度の余裕がある。
これは十行を埋めるだけの言葉が入るのか、それとも彼女が適当に空けたのか。
恐らく、後者だろう。
十行も埋められるほど彼女のボキャブラリーは豊富ではない……はずだ。
では、私に埋めさせるために空欄にしたのか?
それも違うだろう。
もし、そうなら宛名と差出人が逆になっているはずだから。
何か手掛かりはないかと思って彼女を見るが、本を読んでいるだけ。
……本?
彼女が持っているのはマンガではなく小説。
確か、彼女が読んでいる小説は文通のやり取りが題材になっていなかったか?
そう思ってよくよく彼女を見てみると、最後の方を開いたまま頁が進まず、どことなくソワソワしていた。
あの本の最後の方に出てくる手紙は……
ああ、そうか。そういう事か。
彼女の考えが分かった私は、パソコンの横に置いてあるコピー用紙の束から一枚取り、彼女の目の前に立った。そして彼女が本から目線を上げ、私のそれと合ったところで、
ビリッ!
私は持っていたコピー用紙を二つに破いた。
「君に、書き出して突きつけるような嫌なところなんてない。……ま、イライラするところはあるけどね。でも、直してもらいたいとかは思わない。」
あの小説の最後は、思いのすれ違っていた男女が手紙に嫌なところを書きつけ合い、それで誤解が解けるというもの。
彼女はきっと自分に直して欲しい事があるなら。と、こんな事をしたのだろう。
自分の思いをきちんと伝えるべきだと思い、紙を破り言い切ったが少し気恥ずかしい。
そんな私の思いに気がついたかは分からないが、気恥ずかしさに見合うだけの笑顔を彼女は零してくれた。
「私も。だから鍵括弧だけにしたの。ちょっと嫌なときもあるけど、ほんのちょっとだから言うほどでもないな〜って。」
えへへーと笑う彼女。
もしかしたらこの先、お互いのちょっとが大きな問題になってしまうかもしれない。
でも、それを考えるのはその時で良い。私はそう思う。
今はただ、彼女の笑顔を一番近くで見続けることさえできれば……

私は彼女の頭に手を置き、思いっきり撫でまわした。
思わず零れた笑みを彼女に見られないように。


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