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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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伝言、頼んだよ

18/09/24 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:230

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 駅まで車で十五分。つまり、家を出るまであと一時間しかないという計算になる。
「それにしても東京かあ……いいなあ、都会」
 沙理が今日何度も言った台詞を口にして、ため息をついた。沙理も友美も地元の大学に受かってこちらに残ることになった。それを考えると、私だってこっちに残りたかったが、苦笑いを浮かべてその言葉をぐっとこらえる。ただ手を動かしてナポリタンをフォークに巻き付ける。
「ねえ、せっかくだからパフェ食べない?」
 ポークカレーを食べ終えた友美がメニュー表を手に取り、「季節のパフェ」の文字を指さしている。いいねえ、とさっそく沙理が同意し、私もうんうんとうなずいた。うちの店のパフェは近所でも評判になっている。フルーツがふんだんに使われているのが特徴だ。
「おばさん、パフェ三つお願いしまーす」
 友美がカウンターに声をかけるとすぐに、母の「はーい」という返事が聞こえた。
 私がナポリタンを食べ終えたころやってきたパフェに、友人二人が感嘆の声を上げる。小さなグラスにいちご、ゼリー、バニラアイスなどが整然と詰められている。つやつやと光を放つそれは私たちにとってとても豪華なデザートだ。スプーンを入れてしまえばその輝きが失われてしまうようで、なかなか手がつけられない。でも、私に残された時間はあと五十分。あまりのろのろとしてはいられない。
「やっぱりパフェと言えばいちごだよね」
 沙理がてっぺんに乗ったいちごをすくいあげて言う。
「私は秋のパフェも好きだよ」
 友美がバニラアイスを丁寧に崩しながら対抗する。秋のパフェ、とは栗をベースにしたパフェのことだ。九月から三か月間、期間限定で提供するこちらも、もちろん評判が良い。
「でもさ、東京に行ったら、もっと豪華なデザートいっぱいあるんだろうな」
沙理がいちごをつんつんとつつきながらまたもやため息をついた。
「インスタ映えってやつ?」
 友美が苦笑しながら首をかしげる。うなずきながら同意を示す沙理が「憧れちゃうな」と目をきらきらとさせるけど、私はなぜだか息をするのが苦しくなった。友美が「インスタなんてやってないくせに」と沙理の頭を小突いているのが見えた。
 確かに、都会にはもっときれいでカラフルなデザートなんてたくさんあるんだと思う。私は今日からそれらに囲まれて生活することになるのだろうか。それはわからないけど、沙理や友美が期待する気持ちもわかる。でも、うちのカフェと比較するようなことは言ってほしくなかった。結局私はその本心を二人に言うことはできないのだけど。
「はるか、そろそろ準備しろよ」
 いつの間に店に来ていたのか、兄が私に声をかけた。「お邪魔してまーす」と沙理と友美が声をそろえても兄は一瞥しただけで、時計を指さして「出かけるまであと十分」と冷たく言うだけだった。

 車に乗った瞬間「さっきの話題は良くない」という兄のとがった声が聞こえた。わかってる、と反論しようとして、なぜか口が開けない。今、感じているのは父や母へのうしろめたさだけだった。
「まあ、東京の方が立派なデザートがあるのは事実だろうけどさ」
 シニカルに笑う兄の声は依然として私をとがめるようだった。
 兄は決してこちらを向かない。運転しているのだから当然なのだが、たとえ向かい合って話していても、兄は私の顔を見ないはずだ。私が泣きそうになっているときや落ち込んでいるとき、兄はいつも気づかないふりをする。
 ごめん、とここで兄に謝ってしまうのは簡単だ。でも、それはなんだか違うし、意味がない。赤信号が青に変わる。駅のロータリーに入ってしまえば、もう時間はない。
「お父さんとお母さんに伝えて」
 震えそうになる声にぐっと力を入れて、次の言葉を準備する。
「私が一番好きなのは、うちの店の味だから」
 車が止まったのとほぼ同時にドアを開け、逃げるように車から降りた。あ、駅まで送ってくれてありがとう、くらい言うべきだった、と思ったが、開いた窓に向かって叫んだ言葉は違ったものになった。
「伝言、頼んだよ!」
 遠ざかっていく兄が軽く手を挙げたのがわかった。


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