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クナリさん

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沖田総司の三段突き

18/09/24 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:3件 クナリ 閲覧数:122

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 幕末の剣人、新撰組の沖田総司の代名詞となっている技がある。
 三段突きと呼ばれ、その名の通り、一呼吸で三度突く。
 沖田の学んだ天然理心流では、二段突きはできても、三段を突ける者は現代に至るまで沖田総司ただ一人であるという。

 新撰組は創立期を過ぎると、京の不逞浪士の取り締まりだけではなく、内部粛清にも明け暮れた。
 特に組の脱退は厳しく禁じられ、死罪である。
 その新撰組の壬生屯所。局長近藤勇、副局長の土方歳三と山南敬助が顔を突き合わせていた。
「脱走の予兆だ」と土方がうめいた。
「誰々」と近藤が訊く。
「酒井兵二と川島篤」
 予兆だけならば、この頃では珍しくもなくなってきていた。その疑心暗鬼が本当の脱走を生んだこともある。山南は胸中で嘆息した。
 多くの組織がそうであるように、新撰組もまた、内憂に揺れる時期を迎えていた。

 沖田が命令を伝えられたのはその日の夜、土方からだった。
「お前が討手だ。二人とも斬れ」
「私ですか。二対一とは、意地悪な」
「不意を打てば問題あるまい」
 問答をしているようでも、既に二人の間では胎が決まっている。
 山南は、そのやりとりを物陰で聞いていた。
 酒井と川島は共に二十五六歳の血気盛んな隊士で、なかなかに剣は使える。
 山南を慕う平隊士は多く、この二人も例外ではない。どうにか逃がしてやりたい気持ちが、山南にはある。
 山南は静かに屯所内を歩き、菊池東太のところへ向かった。
 菊池は若干十七歳の若い隊士で、山南は勿論、酒井と川島とも仲が良い。
「菊池君、あの二人に伝えなさい。いいか……」
 この三人が新撰組に辟易していたのは、山南も感じていた。ついでに菊池も一緒に、京から逃がしてやろうという腹積もりだった。
 菊池は顔色を失い、この夜は非番で外で飲んでいた二人に山南の伝言を告げるべく、三人分の荷物をまとめて屯所を出た。

 同時刻、酒井と川島はなじみの店を後にした。しかし、酔っていない。
 脱走の企てを土方に感づかれぬよう、極力屯所から離れつつ、常にしらふでいなくてはならない時期だったのである。
「粛清は、沖田さんがよくやるらしい」と酒井。
「俺たちも剣士だ。勝てんかな。沖田さんが三段突きで来るのなら、勝算がある」と川島。
「何?」
「稽古で数度見、理心流を調べて知ったことだ。三段突きといっても、全力の神速突きが三度来るわけではない」
「ほう」
「一突きめが牽制の威(おどし)、これは体重を乗せずに速く突いて相手の動きを止める。そこで二突きめが本命の貫(ぬき)、これで決める。三突きめは残心――とどめだ。つまり実質、二突きめだけが脅威というわけだ。刀が三本ある訳ではない、二突きめを弾けばとどめは来ない。それが勝機となる……」
 川島がそこまで口にした時、二人は、これまで気にしたことはなかったが、随分暗い路地を歩いていることに気付く。周囲に建物が切れ、竹藪に囲まれていた。
 そこに、闇よりもなお暗い黒装束――既にだんだらの羽織は廃止され黒一色――の男が、佇んでいる。
 沖田は、土方の指示を聞いてから、その足で屯所を出ていた。沖田の武装は菊池東太の身支度よりも早い。
 事情を察した酒井と川島の、腕に覚えのあることと、二対一であることが災いした。二人は剣を抜くと、左右から沖田に切りかかった。
 沖田が踏み込む。まずその速さが、二人の意識を遥かに上回っていた。
 一突きめの威が、正眼に構えていた酒井の剣を叩く。酒井はそれで初めて沖田の踏み込みに気付き、己は死んだと思った。文字通りの死に体で、動きが止まる。
 二突きめの貫は方向を変え、剣を擦り上げ切れてもいない川島の首を打ち抜いた。即死した川島の額を、三突きめがついでのように割る。
 沖田が刃を返して薙ぐと、酒井の生首が、きれいに宙を舞った。
 しかし、沖田はまだ剣を納めない。
「そこ」
 声をかけると、藪の中から菊池の悲鳴が上がった。
「菊池君だね。この二人のところに?」
 問答に見えて、既に胎は決まっている。
「じ、自分は、ことづてを……伝えに」
「へえ。何て」
「た、戦うな……と」
「誰から」
 菊池は震え上がって口をつぐんだ。
「言えないのか」
 そう凄む沖田とは距離がある。背を向けても逃げ切れると、菊池は振り向いて駆け出した。
 その距離を一足飛びに潰して、沖田が、菊池の無防備な背中に打ち込む。竹林の中に死体が転がった。
「ああ」
 嘆息する沖田には、脱走をそそのかした者の見当がついてしまっている。
「土方さん、私たち、ちょっと速すぎるかもしれません」
 黒い羽織は、夜の暗さもあり、返り血が見えない。
 しかしその鮮血は確かに沖田にへばりつき、闇の中ではぬぐいようもない。
 沖田はようやく剣を鞘に納め、さらさらと竹藪の中を歩き出した。


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このストーリーに関するコメント

18/09/24 クナリ

この作品は史実をもとにしたフィクションであり、実在の人物・事件・三段突きとは全く関係ありません。

18/10/05 秋 ひのこ

実際のエピソードを小説に膨らませたのかなとどきどきしながら読みましたが、フィクションでしたか(^^)
2000文字でここまでお書きになるなんて、相変わらず素晴らしいです。
それにしても、こういったあそび(?)ができるのはネット小説の掌編ならではですね。
「時空モノガタリ」では時代小説はなかなか出てこないので、読んでいて嬉しくなりました。

18/10/06 クナリ

秋ひのこさん>
池田屋はじめ有名な戦闘もいいんですが、どうも夜の闇で行われる粛清の方に執筆意欲を掻き立てられるようです…するとフィクションばっかりに(^^;)。
天然理心流では二段突きまでは実現されたが三段突きはまだ沖田さんだけ、とは昔聞いたことがあったので、それをもとに組み立てました。
おほめのお言葉うれしいです…平安末期と幕末が少し分かるくらいなんですが、日本史ものはまた書きたいです!

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