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宮下 倖さん

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フッセージ!

18/09/22 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:3件 宮下 倖 閲覧数:325

時空モノガタリからの選評

「伏字」のお題をとてもうまく生かしていますね。検索してみると伏字アプリというのは実際に存在するようですが、「フッセージ」のユニークな点は伏字部分を自分で選べないところと、相手も伏字を解除できないというところでしょうか。ジョークツールとして、これは結構リアリティがあるのではないかと感じました。告白文を送信してしまうというハプニングと緊張感に溢れたラストで終わるまとまりの良さは、二千字という掌編の良さを生かしたものだ思います。

時空モノガタリK

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 りんろんという澄んだ電子音に、ぼくは行き詰まった数学問題集から顔を上げた。スマホを引き寄せて画面を覗き込む。
<ハルカさんからフッセージが届きました!>
 明るく灯る小さな画面には見慣れた通知が光っていて、ぼくは思わず頬をゆるめた。
 トンと画面をたたくと文章が現れる。
<□の課題やった? □分□分わかんなーい!>
 今日はわかりやすい。
 塾の課題やった? 微分積分わかんなーい!……かな。
 同じくフッセージで返信するか、確実に伝わるようにLINEにするか。ぼくは少し迷ってそのままフッセージを使う。
<いまやってるとこ。数学ヤバい、むずかしい!>
 送信を押すと、文章はしゅるんと画面に吸い込まれるように消えた。
 これが春香のスマホに表示されるときには、文字列のどこかが伏字になっている。どこが伏字に変わるかは、送ったぼくにはわからない。勝手に変わってしまうのだ。
 また、りんろんと通知音が鳴った。
<だよ□ー。お互□がん□□ー!>
 よかった、伝わったみたいだ。たまにオール伏字になるときがあるから困る。
 短いやり取りだったけれど何だか肩の力が抜けた。詰まっていた問題に目を落とすと、すうっと一本、道が通ったように解き方が見えた。
 ぼくはスマホを目の前に置くと、猛然とノートにペンを走らせ始めた。

 フッセージサービスが始まったのは半年ほど前だ。
 文章のどこかが勝手に伏字にされてしまうからきちんとしたやり取りには使えない。ジョークツールとして、またはゲームアプリのように楽しむ感覚だ。
 どんどんメッセージがつながるうちに、伏字のおかげで何を言っているのかわからなくなり、しまいには腹を抱えて笑ってしまうような状況になったりする。
 友だちとの待ち合わせにフッセージを使って、うまく現地で会えるかどうか試してみたりもした。
 頻繁に使うものではないけれど、気分転換や息抜きにはなかなか楽しいツールである。
 春香とフッセージでつながったのはつい最近だ。
 というか、高校進学のとき離れてしまった幼なじみの彼女と、同じ塾に通いだしたことで再会したのが最近なのだ。もともと仲もよかったし、懐かしさも相まって会話が弾むうちにぼくは春香を意識するようになった。
 高校二年生の秋である。来年の受験へ向けて少しずつ息苦しいと感じることが増えている。そんな中で春香とのやり取りは、ほっと一息つける楽しい時間だった。
 LINEでもつながっているのだけれど、彼女はすっかりフッセージをおもしろがって嬉々として送ってくる。自分の綴った言葉が、どこかしら伏字に変換されて相手に届くこのツールを使うようになって、ぼくは言葉についてけっこう真面目に考えたりしている。
 何か意図があって隠すわけだけれど、それは名誉棄損にあたる語句だったり、あからさまに言ってはいけない言葉だったりするからだ。でも隠されれば隠されるほど人間の興味は惹かれてしまうもので、隠された言葉を想像して何とか真実を知ろうとする。
 ぼくたちがフッセージで送り合うのは他愛もない言葉たちばかりだ。でもそれらの一部が伏字になることで、意味深なものに変わった気になる。それが、フッセージサービスをおもしろがる理由なのかもしれない。

 数学問題をひとつ解き終わったら急に集中が切れた。ぼくはまたスマホを手にフッセージの画面を開く。
 たとえば今ぼくが、春香に「好きだよ」とフッセージを送ったらどこが伏字に変換されて届くだろう。気もちを伝えたいくせに断られて傷つくのが怖いから、ワンクッションを置くみたいにフッセージを使えば、気まずくなったときもうまく誤魔化せるんじゃないか……なんて姑息なことを考える。
 ぼくはメッセージを打ち込む枠に「好きだよ」と入れてみた。しばらく眺める。
 これが伏字になったら果たして自分の言葉といえるのかなと苦笑して、消去しようとしたそのときだ。入力して送信、という手順が沁み込んでいた指が自然に動いて「送信」に置かれた。
 あっ、と息をのむ間もなく春香への「好きだよ」はしゅるんと消えた。
 氷の棒をさし込まれたように背中が冷える。全身が心臓になったようにあちこちが脈打つ。
 りんろん
<ハルカさんからフッセージが届きました!>
 震える指先で画面をたたく。
<□□□□>
 こんなときにオール伏字とは!
 ぼくは伏字になってしまった四文字を凝視する。さまざまな可能性を孕んだ四文字だ。
 ゆっくりと大きく深呼吸する。フッセージの画面を閉じ、電話帳を開いた。ぼくにはやっぱり自分の言葉で伝えたい想いがあって、彼女の言葉で聞きたい返事がある。
 スマホの小さな画面に春香の電話番号を表示させる。「発信」をトンとたたいた指はもう震えていなかった。


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このストーリーに関するコメント

18/09/22 クナリ

さすが宮下さん……という発想と展開でした。
シンプルな感情のやり取りがこんなにもやきもきさせられるとは……という感じです。

18/09/24 待井小雨

拝読させていただきました。
実際にありそうなアプリ、そして起きてしまいそうなやり取りですね。彼の送ったメッセージのどこが付されていたのか、返ってきた四文字は何だったのか……色々と想像ができ、楽しめました。

18/11/10 浅月庵

遅ればせながら拝読させていただきました。
発想も面白いですし、ラストの展開も甘酸っぱくてとても好みです。
良作でした!

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