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肝試しはお勉強の後で

18/09/21 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 新世界 閲覧数:110

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「山本君、一つ聞きたいのだが」
 日も落ち始めた夕暮れの山道を、僕らは登っていた。夕陽が渾身の力を込めて、ロクに高くない筈の僕の影をとんでもなく長く伸ばしている。足元はぼんやりと暗く、心許無い。
「なにかね、中村氏」
 小一時間何度か繰り返された内容を、他に話題も無いので、また繰り返す事になる。
「この道は本当にあっているのだろうね?」
 はあっと、誰からともなく溜息が漏れる。あるいは只の息切れかもしれない。僕たちの運動能力は中の中だ。

 腐れ縁でだらだらつるんでいる僕たち三人は、周囲から『平凡トリオ』と呼ばれている。平凡とは、勉強も運動も、挙句に容姿もそこそこ普通という意味だ。中学一年の夏休み、最後の一日をいかに有意義に過ごすか話し合った僕等は、人として男としてレベルアップする為に、手っ取り早く度胸試しを決行する事にしたのだった。しかしこの山はついこの前、小学生までは子どもだけで入ってはいけないと言われていた場所だった。

「ねえ、誰かここ登った事あるの?」
 黙々と足を動かしていた岡崎君がついに口を開いた。声音は静かだが眼鏡が反射して表情が上手く読み取れない。彼の問いに、僕等は沈黙した。
 
 この山には天狗が住んでいて悪い子どもをさらって食うんだとか、てっぺんに古いお寺があって、夜な夜な生霊が徘徊しているだとか。この辺に住む子ども達は皆、そういう話を聞かされながら育つ。だから普段は誰も近寄らないし、登ろうとなんてしない。だけどなんとか『平凡』のレッテルを返上したかった僕達は、無謀にも誰にも告げず入山し、こうして迷っている訳なのである。
 辺り一面、五月蠅いくらいひぐらしの声が響いている。それは、山全体が別の生き物になってしまった様な、得体の知れない巨大生物の腹の中にでも居る様な不気味さで、冷や汗が額を伝った。

 道なりに進み、やっと看板を見つける。しかしそれは折れて地面に落ちていて、道案内にはなりそうもない。
 【こ■さき ■けん ごく】
 所々かすれて読めない。僕等は知恵を出し合いながら解読した。
『この先 危険 地獄…………?』
 まさかとか、そんなワケないじゃんとか、平凡らしいコメントを掛け合う。心臓に冷たいものがよぎった気もするが、今更戻るのも格好悪い。僕達はそのまま進み続けた。
 その後も横倒しになった石柱や傾いた道標を発見したが、欠けていたり難しい漢字だったりで兎に角文字が読めない。僕たちは日頃の行いを悔い、もっと漢字の勉強をしておけばよかったと嘆いた。いつ供えられたか分からない枯れた花やお賽銭を見つめる石仏、砕けた湯飲みが転がっていて如何にも不吉だ。反対側には丸い石を積み上げた物も並んでいて、それが三途の川で積むというアレに思えたので、見なかった事にした。
 【○■かえせ あし■○ わるい】
「返せ……足……?」
「味 悪い……?」
「『引き返せ』じゃない……?」
 さっきから風で葉がこすれる音や、枝をぱきりと踏む音でさえ気味悪い。認めたくないが僕等は完全にビビっていた。譲り合いの精神宜しく互いに先頭を押しつけ合いながら歩いていると、突然開けた場所に出た。やっと山頂に着いたのかと三人顔を見合わせて、ほっと安心した瞬間、
『バキバキバキバキッ!!!』『メリメリメリ……』『ズドォォォォォン』
 突然始まった轟音に山鳥が一斉に空へと飛び立ち、カラスの群れはけたたましい声を上げながら旋回している。音がした方を見やると、森の奥から黒い波がざわざわと押し寄せて来る様に見えた。ネズミサイズの小動物が目を光らせながらすごいスピードで僕等の方に迫って来る。
『うわあああああ!! きゃああああああ!!!』
 十三歳男子にあるまじき声音を上げて、僕等は元来た道を疾風の如く駆け下りた。
 はぁはぁと荒い息を吐き出しながら座り込むと、見慣れた場所まで来ている事に気付く。互いに顔を見合わせ、三者三様言い訳はあったが、すでに満身創痍だったので「じゃあな」と言ってトボトボと別れた。

 翌朝、ぼーっとしながら朝食をつついていると中村君と岡崎君が迎えに来た。「お前まだ食ってんの?」とか言っていたが、昨日のダメージが抜けきらない僕は曖昧な相槌を返した。そこにおばあちゃんが勢いよく入って来てこう言った。
「おめえら、昨日隣の五来さんとこの裏山さ入ったべ!!」
「寺の修繕工事中で危ないから、入んなよって言ったっぺさ!!!」
 すごい剣幕で真っ赤な顔のおばあちゃんとは裏腹に、血の気の引いた青白い顔の三人が居た。向かいに座る妹が、ぼそりと「ばぁか」と言ったのがやけにハッキリ聞こえた。度胸試しで男を上げようと画策したハズなのに……。僕らは気まずさとやるせなさと恥ずかしさで溜息をつきながら登校した。新学期、いつもと変わらぬ僕等が、また始まる。


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