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こうさん

江戸川乱歩先生とレイ・ブラッドベリに触発された、不思議な世界を旅する冒険活劇ストーリー創りが身上です。

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将来の夢 電車内で読んでにやにや笑いされるような 小さな物語本の作者になりたいです。
座右の銘 とりあえず 突きあたるまで 進みましょう!

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甘いささやき

13/01/16 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:1件 こう 閲覧数:1531

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 2月13日。ぼくは、突然にパラレルワールド=別次元の世界に、移動してしまった。だから今日ぼくがいる世界は、ほんのちょっとずつ、違うのだ。たとえば、知り合いの女性全ての髪の分け目がみんな反対分けになっていたとか、あらゆる自動車がすでに電気自動車化されていて街が異様に静かだとか。それで、ぼくは別世界にきたんだと気づいた。みんなぼくにとってはささいな違いだった。ほかにかわったことはない。ただ一点を、除いては…。
「ど……どういうことなんだ?」ぼくは思わず絶句した。転送から一夜明けて今日は14日。お馴染みのバレンタインデーである。だから男子生徒は学校で女子からチョコレートをもらう。女子達は、既成のや手作りのや、様々なチョコレートを手に、お目当ての男子に攻勢をかけている。男子達は、チョコを差し出されると、みんな照れたように、困ったように頭を下げている。中には、泣きながら土下座しているやつもいる。そういうやつに限って、机の上には色とりどりのチョコが、山と積まれていたりする。一個ももらえなかった奴は、むしろ気楽そうに晴れがましい顔をしている。
 ぼくは今日、3個のチョコをもらった。普段からかわいいな、と思っていた愛実からももらった。そしてなにより驚いたのは、ぼくの母さんが、出掛けにチョコをくれたこと。

 前日、この世界のことを知ろうと新聞を読み漁り、「事情」を知ってしまったぼくには、衝撃的な出来事だった。
「ど…どういう意味さ?」ぼくは思わず母に問いただした。母はただにっこりと微笑んで、「別に。ただ、そういう意味さ」と言った。
 そしてあと2個、学校に着くなり、ぼくは追いかけてきた女子に、もらってしまった。
 母も含めて3人とも、ぼくに、しっかりと念まで押した。「ちゃんと、食べてね」と。

「すごいな…」ぼくは思わず息を吞んだ。優等生でクラス委員長のヨシタケは、ぼくが確認しただけで、20個はもらっているだろう。35人学級だから、驚異的な実績だ。(あいついったい、なにをやったんだ?)
 そしてまた、休憩時間となり、ヨシタケのチョコいただき記録更新となった時、彼は、真っ青になり、立ち上がって叫んだ。
「もう……許してくれよっ。女子にミツマタかけてた僕が悪かったよッ だから…だから…」泣き出した。
 すると、その姿に打たれたのか、女子達が動いた。彼に渡したチョコを引き取り始めたのだ。彼の周りから、ひとつ、またひとつと、チョコレートが消えていく。
「あ…ありがとう。ほんとうに、ありがとうみんな…」
 だが、全部、ではなかった。最後にひとつ彼の机の上に、赤い包み紙のチョコが置き去りになった。ヨシタケはそれをぼんやりと見つめていたが、なんとなく、納得したように、微笑した。
「ぼくも…」ぼくは立ち上がって、頭を下げてみた。「勘弁してください。掃除を何回もさぼったことでしょ? 今度から、ちゃんとやります。ですから、あの…」
 すると、愛実と、貴代が、ツカツカと僕に近づいてきた。
「いいのよ」と、愛実は言い、ぼくの頬に、ちょっとだけ、キスをくれた。
 ぼくはぽうっと、赤くなってしまった。
(よ…よかった……。でも、問題は…)

 放課後になった。ぼくは、たったひとつのチョコレートをかばんに入れたまま、帰宅の途についた。
 家に…着いた。玄関に鍵をさしこんだが、鍵が、合わない。
「ここまで…するのか?」ぼくは絶望感で崩れ落ちそうになった。帰宅したとたんに家の塀に貼った、紙に書かれた文字も痛々しく、ショックだった。
「UZAいんだよ、おまえ!」そう書かれていた。
 ぼくはそのまま公園に行った。すると、そこにヨシタケがいた。
 ぼくらはしばし、お互いのたどってきた青春について語り合った。パラレルワールドなので、少し食い違いもあったが、二人は心から交流しあえた。
 そしてふたりは、運命のチョコレートをひとつずつ、ぱっくりと食べたのだった。

 そう、もうわかっただろ? 

 この世界においては、チョコレートの原料のカカオマスは、致死性の猛毒の一種なのだった。そして年に一度バレンタインデーの日、女達は、恨みに思う男に、心からチョコを渡す習慣になっていた。
 ぼくが母から殺されるほどの恨みをかった理由はなんなのだろう? わからない。わからないまま、ぼくはそのチョコを、一気に口に押し込んだ。
 そして、あまりの苦しさに吐き戻して、気がつくと、元の世界の病院に、寝かされていた。
 ぼくは生きていた。心配そうに覗き込む、母の顔。「大丈夫?」

 そして母はそっとぼくにチョコを渡して「食べてね…」と言った。


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このストーリーに関するコメント

13/01/21 クナリ

面白かったです。
元の世界に戻って、チョコレートの示す意味合いも元通りのはずなのに、最後のお母さんの顔にはつい、何とも言えない毒気を感じてしまいそうになります。

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