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hayakawaさん

大学院生、塾講師、家庭教師。織田作之助青春賞1次選考、文芸思潮「現代詩賞」2次選考に通過したことがあります。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 天才とは、彼らの世紀を照らして光輝くべく運命づけられた流星である。(ナポレオン)

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記憶の中の彼女

18/09/15 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:164

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 僕は高校三年生で季節は冬で、文芸部に所属していた。同じ部活の玲奈は学校に来ていない。彼女は病気で入院していたのだ。冬、辺り一面に雪が降った。そんな日、僕は玲奈のお見舞いにいった。
 クラスでは人気者でクラス中の男子の目線が彼女に向いていた。そんな彼女がもうじきこの世を去ろうとしていた。
 僕は雪道を歩き、バスに乗って、玲奈のいる病院に行った。バスは雪を踏み、先へと進む。僕も久しぶりに会う玲奈の顔を見たかった。そしてもうじき美しい彼女が死ぬという事実を僕は上手く理解できずにいた。
 病院へ入り、玲奈のいる病室へ向かう。玲奈はいつものようにベッドの上に横になっていた。
「来てくれたのね」
「うん。これお見舞いのお菓子」
「残念だけど、もう食べられないの」
「そう」
 玲奈は以前よりやせ細っていた。そしてこの美しい美女がもうじきこの世から消えるという事実はなんだろうと思う。
「ねえ、死ぬって怖くないの?」
 僕は玲奈のベッドの隣りの椅子に座りそう聞いた。
「そりゃあ、怖いよ」
 辺りは暗くなり、夜になった。病室の中は静かだ。死ぬ間際でさえ僕と玲奈はふざけた話をして笑いあっていた。
 ずっと○○だった。そんな言葉にできない伏字にした思いを抱えながら彼女のことを見ていた。彼女と過ごしてきた。彼女を愛してさえいた。
「星が見たい」
 彼女はそう言った。
「見に行こうか」
 僕はやせ細った彼女を車椅子に乗せ、エレベーターで屋上まで向かった。屋上には冬の星と冷たい大気が覆っていた。
「寒いね」
 彼女はそう言って笑う。
「寒いね」
 僕も合わせてそう言った。
 こんな彼女が死の病を抱えてしまったことが残念で仕方がない。彼女は死んでいく苦しみを多くは語らなかった。
「これで会うのも最後かな?」
 玲奈は僕が帰ろうとするとそう言った。
「最後なの?」
「うん。きっともう会えなくなると思う。最後に君と二人で綺麗な空が見えてよかった」
 玲奈はそう口にした。
「寂しいよ。君と会えなくなるのは」
「私だって怖いわ。それに悲しすぎるじゃない。でもね、私の中ではちゃんと整理をつけたのよ」
「整理?」
「そう。もう死ぬんだって。受け入れがたい事実を何度も受け入れようとしたの」
「そんなの死ぬまで受け入れなければいいさ。もしかしたら助かるかもしれない」
「そんなこと言わないで。私はちゃんとあきらめをつけたのよ」
「本当にもう会えないの?」
「うん。だから永遠のさよならね」
 彼女は僕に手を振った。僕は目から流れ出る涙を隠そうと手を振ることができず病室を後にした。
 帰り道の夜のバス停はやけに静かだった。

 あの日、二人で見た最後の星空。玲奈は死んだ。僕はまだ彼女の残像をあれから十年経った今でも思い出す。本当に美しく優しい人だった。
 僕は今、大学を卒業し、就職して同じ大学で出会った彼女の由衣と同棲していた。
「私のこと好き?」
 僕の部屋にいる彼女は僕にそう問いかける。
「好きだよ」
 もう心の文字を伏字にすることもなくなった。
「昔、玲奈っていう美しい女がいたんだ」
「他の女の話?」
 彼女はおどけてそう言う。
「違うよ。とにかく今でも彼女のことを思い出すんだ。本当に悲しい別れだった。でも最後に二人で見た冬の景色はとにかく美しかった」
「そう」
 そう言いながら彼女は鼻歌を歌っている。
 僕は部屋にあるノートパソコンを開き、文字を打った。玲奈が死んでから僕は時間ができると小説のようなものを書いていた。

 玲奈。今でも君がいたらこうして僕たちは二人でいることができたのかな。僕は君のいない世界で頑張って生きているよ。そりゃあ苦しいことも辛いこともあるけれど、君が失った時間を僕は生きている。今でも君のことを思い出す。君は本当に特別な人だったんだ。そして僕は君の代わりはいないんだと知った。
 今でも寂しいんだよ。君がいない世界が。もう十年経ったんだ。それでもまだ僕は君の愛してさえいるんだ。
 玲奈。君がもう高校の頃の僕らの記憶の中にしかいないことはわかっている。それでも、僕は伝えたかった。君のことが好きだった。ただそれだけでも、何かの励ましになったのかな。僕は僕なりに十分幸せな時間を過ごしている。
 でもね、僕は今でも思うんだ。君が生きていたとしたら、きっと僕の人生は、そしてあの頃君の周りにいたやつらの人生も違ったんじゃないかってね。

 僕はそう書き終えるとノートパソコンの電源を落とした。今年も冬がやってきた。今見る星空よりもあの頃見ていた星が一番輝いて見えた。


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