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笹岡 拓也さん

文章でササオカタクヤの世界を伝えられたらいいなと考えてます。 キャラクターたちがイキイキとした物語を書いて、読んだあと何か残れるような作品にしていきます。

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父からの手紙

18/09/14 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:1件 笹岡 拓也 閲覧数:281

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結婚式を明日に控えた私のもとに一通の手紙が届く。その手紙の差出人は父からだった。普段堅物で言葉数も少ない父からの手紙に私は胸を踊らせ、バタバタとしている忙しい中、手を止めて手紙を開く。

アイスランドに壊れた
劇を隠してみる。
理由がゴマ、餅と罰。
無地布、酒はよせ。
備えず葱、フグ、蛇で
ほぼお披露目だぞ。

私はこの手紙を感動するような言葉が書かれていると思ってワクワクしながら読んだ。なのにまったくと言っていいほど意味の分からない内容に落胆する。こんな忙しい時に意味のない手紙を送ってくるなんて。呆れた私は意味不明の手紙をポケットに入れ、明日の準備に取り掛かる。
明日は私にとって最高の1日にしたい。だからこの残り少ない時間も貴重なのだ。
そんな時間のない私に今度は父からメールが届く。

ぜんぶひらがなにしてくれ。

短文すぎるメールに私は苛立ちを覚えたが、普段こんなことをする父じゃないのは分かってる。だから私は先ほど送られてきた手紙の漢字やカタカナをひらがなにする。

あいすらんどにこわれた
げきをかくしてみる
りゆうがごまもちとさけ
むじぬのさけはよせ
そなえずねぎふぐへびで
ほぼおひろめだぞ

父の言う通りすべてひらがなにしてみたけど、より意味が分からない文章になる。実は縦で読むのかな?しかし縦では言葉になっていなかった。ただよく読んでみると、すべてのひらがながひとつずつしかないことに気づく。これって何かの暗号なの?そう思っている私に今度は父から電話が掛かる。

「もしもし?メールは読んだか?」
「なにこれ?よく分からないんだけど」
「まだ言葉にしてないからな」
「どういうこと?」
「これから私が言った通りに読んでみてくれ」

父の声はいつもより高かった。こんな父の声は聞いた事がない。それにこんなに会話が続くことなんて小さい頃しかなかった。なんだか懐かしい気持ちになってくる。

「一行目の一文字目」
「あ」
「二行目の六文字目」
「し…?」
「一行目の十一文字目」
「た」

なるほど。私はここでようやく父が送ってくれた手紙の意味を知る。直接言葉を手紙に書くことすら恥ずかしいから、暗号のように言葉を伏字にして送ってきたんだ。

「一行目の二文字目」
「い」
「二行目の二文字目」
「き」
「一行目の十一文字目」
「た…?」
「二行目の五文字目」
「く…?」
「五行目の二文字目」
「な…」
「一行目の二文字目」
「い」

父が伝えた言葉は「あしたいきたくない」だった。明日というのは私の結婚式のことだろう。私の人生で一番の晴れ姿を見たくないなんて。

「どうして?どうして行きたくないの?」
「一行目の三文字目」
「…す?」

父はこの続きも暗号のように話す。よっぽど直接言葉にしたくないんだろう。

「三行目の五文字目」
「ご」
「二行目の五文字目」
「く」
「四行目の五文字目」
「さ」
「五行目の十文字目」
「び…」
「二行目の六文字目」
「し…」
「一行目の…二文字目」
「い」

父は最後の暗号を言う時、鼻を啜りながら言っているのが分かった。「すごくさびしい」から私の結婚式に行きたくない。私は今まで父の気持ちをちゃんと考えたことがなかったんだ。ただ私の結婚を認めてくれていないのかと思ってしまった私はとても申し訳ない気持ちになった。

「ごめんね。いつでも顔出すからさ。これからもパパはパパだよ?」
「う…っ」

電話の向こうから父が涙を堪え切れない様子が伺えた。私の目からも一筋の涙が流れる。父はいつだって私の父。結婚したって私の父。それでも娘が自分のもとから居なくなる感覚なのかもしれない。少し間が空いて、父がまた暗号を言い始める。

「六行目の三文字目」
「お」
「六行目の六文字目」
「め」
「五行目の十一文字目」
「で…」

私はこの言葉の続きを聞かずに涙が溢れ始める。そういえば結婚をする時にも言ってもらえなかった言葉だ。父はどれだけ薄情なんだと思ったこともあった。でも昔から私のことを一番に考えてくれる優しい父だった。それを忘れていたのは私の方だった。

「三行目の九文字目」
「と」
「三行目の三文字目」
「う」
「…パパ」

涙は止まらず流れる。きっとこの涙を私は一生忘れないんだろう。鼻で息を思い切り吸うとズルズルっと音を立てた。そして私も父の手紙に倣って暗号を伝える。

「一行目の一文字目」
「あ」
「三行目の一文字目」
「り」
「三行目の四文字目」
「が」
「三行目の九文字目」
「と」
「三行目の三文字目」
「…う」

父は電話の向こうで「うんうん」と言っているのが聞こえた。電話越しだから分からないけど、多分すごく泣いてるし笑っているんだろう。
明日のことなんて考えもせず、私はしばらく嬉しくて涙が止まらなかった。


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このストーリーに関するコメント

18/09/17 文月めぐ

拝読いたしました。
なかなか自分の気持ちを伝えられない父親の寂しさ、嬉しさが込められた物語でした。

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