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或る未完の原稿

18/09/07 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:4件 みーすけ 閲覧数:183

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 これは、私が見つけた、書きかけの小説もどきである。
 原稿は、とある図書館の机の上に放置されていた。
 ここに内容を紹介させて頂く。なお、人名は、伏字とさせて頂いた。

   *

 ひと月以上前だった。バーで飲んでいると、僕の前に一人の男が現れた。痩せている、というより、やつれ果てて見えた。
 男は僕に、ある品物を買わないか、と持ち掛けてきた。
 その時の僕は、かなり酔っていた。面白半分、というのもあった。それに――見た目より安かったのだ。それ。
 だけど結局、僕は高い代償を支払うことになった。とんでもなく高い代償を。
 男が僕に売りつけたもの、それは万年筆だった。
 男によると、その万年筆で名前を書くと、人を消せると言う。
 僕は笑った。まるで漫画だ、と。
 しかし男は大真面目に言った。これは、人間を殺すのではない。初めからいなかったことになるのだ、存在自体を抹消するのだ、と。
 一瞬、背筋に冷たいものが走った。急に恐ろしくなった。万年筆から、何か禍々しいオーラが発せられているようにさえ感じた。
 しかしその感じもすぐに消えた。そんなたわごとを本気で信じる程、子供じゃない。それに、とても良い万年筆に見えた。
 煙草三箱が買える程度の金を払い、僕はそれを手に入れた。

 翌日目が覚めた時、手元にある万年筆を見て不思議な感じがした。夢ではなかったのか。
 どちらにせよ偽物には違いない。前述したとおり、僕はもう子供ではない。が、やはり、試したくなってしまった。
 馬鹿馬鹿しいと思いつつも、万年筆を手に取り、僕はメモ帳に、ある名前を書いた。
 書き心地はとてもよかった。いや、最高といってよいだろう。ある種のエクスタシーをすら感じた。こんなにも滑らかにすべる万年筆を僕は知らない。
 それだけ。その他に何も起きた気配はなかった。あたりまえだ。
 だが、何故か胸騒ぎを覚えて、もう一度メモ帳を開いた。今書いた名前を確認する。
 知らない名前だった。
 見たことも、聞いたこともない。
 僕は、自分が何故、こんな名前を書いたのかわからなかった。残っていた酒のせいで、でたらめを書いたのだろうか。
 いや、そんなはずはない。僕は完全に素面だった。
 もう一度、今度は間違いなく知っている名前を試してみよう。
 僕は、今でも交流のある、死んでも構わない人間の名前を書いた。
 つもりだったのだが――やはり、知らない。知らない名前だった。
 そんな馬鹿な! ……まさか、この万年筆……。
 僕は、万年筆を投げ捨て、二度と使うまい、と心に誓った。

 一か月後。僕のメモ帳には、四十八人の名前が並んでいた。どれも知らない名前だ。
 知らないのだから、気に病まなくてもよさそうなものだが、やはり、僕は罪の意識に苦しめられた。
 ――四十八人。
 名前を書いたときに感じる、大きな快感が曲者だった。数字や意味のない文字を書く分には何ともない。人の名前を書いたときにだけ、それは起こるのだった。
 つまり? ――この万年筆は、誘っている。さあ、書け、人の名前を書け、と。
 僕は、今度こそ絶対に、万年筆を捨てる覚悟をした。

 それからまた何日か経った。
 僕は今、恐ろしい考えに苛まれている。
 なんだか、とても大事な人を消してしまった気がするのだ。
 僕が住んでいる家。一人暮らしにしては、広すぎる。僕はずっと一人で住んでいたのか?
 メモ帳を開いて確かめると、僕と同じ苗字の人間が、三人並んでいる。
 もしかして、もしかして。
 いや、そんなはずはない。僕がそんなことをするはずはない。家族を消したりするわけがない。……いや、消すだって? 馬鹿言うな! そもそも僕は信じちゃいない。この万年筆にそんな力があるはずはないんだ。
 僕は昔から一人暮らしだった。確かだ。
 ――でも、最近、無性に心寂しい気がするのは何故だろう。
 くそ、混乱してきた。僕は一体何を書いているんだ。(注・一部読めない箇所あり)
 そうだ。確かめてみればいいじゃないか。四の五の言わずに、書いてみればいいじゃないか。確実に確かめられる方法がある。
 やってみるしかない。
 そう、これしか方法はないんだ。

 僕の名前は、〇〇 ××

   *

 ここまで。
 原稿用紙のほかに、机には、多くの人名が記されたメモ帳が残されたままだった。一体持ち主は、どこへ行ったのか。
 後半は殴り書きに近い筆跡だった。相当慌てていたようだ。おそらく、図書館を飛び出して、そのまま家へ帰ってしまったのだろう。
 以上が、私の拾った原稿の全てである。お時間を割いて頂いた読者にお礼を申し上げる。

 ――そうそう、それと、机の傍らに、一本の万年筆が落ちていた。良い万年筆らしく、手にとても馴染む。
 さて、これを一体どうしたものか。


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このストーリーに関するコメント

18/09/16 hayakawa

デスノートっぽい感じがしましたが、凄く読みやすく展開もありました。

18/09/16 みーすけ

はやかわ様

やはりそう思いましたか。作中の「まるで漫画だ」は、デスノートについて触れたセリフです。
展開がある、とは嬉しい言葉。どうもありがとうございます。

18/11/02 光石七

拝読しました。
原稿を書いた人はどうなったのか? そして主人公の今後は――?
読みやすく、とても面白かったです!

18/11/03 みーすけ

光石七さま

コメントありがとうございます。
面白いと言って頂けて光栄です。

この後も、万年筆は持ち主を変えていくのかもしれません。
書き心地がよく、病みつきになるので危険です。

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