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笹峰霧子さん

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贈るよろこび

13/01/15 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:4件 笹峰霧子 閲覧数:2144

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 星子は自分以外の人間と心を通わせることなく生きていた。
 家族もいたし友人もそれなりにいた。日々の家事をこなし、友人とおしゃべりもした。星子を知る人はみな、星子のことをふつうの人間だと思い、相対していたのだ。

 けれど、星子にはもう一つの心があった。その心で生きている星子は他人から見える星子より、脆く純真で温かいこころを持ち合わせていた。星子のこころの世界には穢れがなく、優しい人ばかりの世の中のような気がしたし、この世に醜い人間などいないとさえ思われた。

 世間ではバレンタインデーという日があるということを知ったのは、星子が『このこころ』で生き始めてからである。
 星子の知るすべての人達が寿命を終えてこの世からいなくなり、星子ただ一人がこの世に生き残っていたのだ。星子にはこれまで持ち合わせていた世間的な心はもう必要でなく、もう一つの心だけで充分な世界に安らかな気持ちで生きていた。


 星子にはバレンタインデーにチョコをプレゼントしたいと思っている人がいた。星子がもう一つの心で生き始めたときに出会った恋人だ。
 
 これまで何十年間もバレンタインのチョコを買ったこともなく生きて、店の売り場で並べられているチョコを横目に素通りしていた星子は、彼の喜びそうなチョコをあれこれ念入りに選んだ。
 自分自身が酒が好きだったので、ブランデー入りのチョコをプレゼント用に買った。彼に贈り物をすることで、ひとにプレゼントすることが自分の喜びだと気付かされたような気がした。


 これまで付き合ってきた世間知のおくりものでは、相手の喜ぶ顔など期待もせず、世話になったからとかのお礼として送り物をしていたにすぎなかった。

 でも星子が恋人にチョコをプレゼントをする気持ちは純粋だった。彼が届けられたチョコをみてうれしそうな顔をするのを想像しただけで、星子はワクワクした。

 翌年からバレンタインデーが来る度に、星子は彼にチョコを贈った。
 そのたびに年に一度だけ、星子はワクワクする気持ちを味わった。

 星子の寿命は尽きることはなかったが、星子の恋人は寿命が来て、星子より先に死んでしまった。彼が死んで、初めてのバレンタインデーがきた。星子は店に並べられたチョコを横目に見ながら通りすぎた。

――贈る人がいるということのありがたさをしみじみ感じながら……。

 そして、自分におくりものをしてくれる人もまた、あのようなワクワクした気持ちで贈ってくれているのかもしれないということに気がついた。

星子が再びワクワクして贈り物をすることができるのは何十年か先のことだろう。



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このストーリーに関するコメント

13/01/17 石蕗亮

笹峰霧子さん
拝読いたしました。
贈る時って相手のことを強く想いますよね。
大切な人なら尚更。
今自分にはそんな人が何人いるのかと考えてみました。

13/01/17 笹峰霧子

石蕗亮さん

贈り物をすると自分がとてもわくわくしているのを感じます。
旅先で土産を買うときも同じで、まるで自分の物を買うみたいに時間をかけて選んじゃいます。
私は贈る相手はごく少数でほぼ決まっています。
ありがとうございました。

13/01/28 鮎風 遊

確かにそうですね。
気付かしてもらいました。
贈るよろこびですね。

いい話でした。

13/01/28 笹峰霧子

鮎風さん

贈り物をしてもらったとうれしそうに言う友人の話はよく聞きます。
今の年齢では子供が主な送り主ですね。

私は子供にも今贈り物をするときがありとてもわくわくしますが
先方はそれほどでもなさそうです。
自分があまり贈り物をしない者には贈る喜びはわからないようです。

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