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妄想シネマさん

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トワイライトカフェ

18/09/02 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 妄想シネマ 閲覧数:190

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「ねえ、本当のこと話してよ。ヨッシーってなに」
彼女は真剣だった。
今、緑の恐竜について熱弁することもできる。赤い帽子を被った配管工を背に乗せ、長く伸びる舌で敵を丸呑み。卵も投げられ、レーシングマシンに乗せれば加速は随一。すごいよね、ヨッシー。
もしそう説明したのなら、彼女は立ち上がり、短い言葉を残して去るだろう。最悪ビンタの一つや二つは覚悟すべきだ。そしてこのカフェに残された僕は、店内から注目を浴び「いや、全然大丈夫っすよ」と平然を装い、限界を超えた吸引力でアイスコーヒーを啜り、むせて鼻からコーヒーを垂らす。
願わくば回避したい。そもそも嘘をつくつもりも、騙すつもりも無いのだ。
そう考えながらコーヒーをブクブクしていると、彼女から追撃の言葉を頂いた。
「ヨッシーだけならまだいいの、その後のアイランドってなに、もう意味がわからない」
泣きそうになる彼女を尻目に、僕は周りのお客さんを心配していた。
意味がわからないのは周囲の方だ。
彼女は激情のあまり、声の音量調整機能が壊れていて、静寂を消す程度に流れたジャズ風のBGMではプライバシーを守るにはいささか頼りなかった。
きっと皆ヨッシーアイランドの話をしてると思っている。
しかもその話をしている女は今にも泣きそうで、男は何故か困った顔をしながら考え込んでいる。
こんな状況があるだろうか、ゲームの話ならもっと楽しくしよう、攻略について二人頭を悩ます場面もあるだろう。しかしそれは達成の喜びを二人で味わう為、善良な苦悩では無いだろうか。なにも泣かなくてもいいのに。
彼女をなだめるのは簡単だ。しかし僕はこの話を明らかに聞いている十余名の方達にもできれば誤解を解いておきたい。この子はそんなオカシイコじゃ無いんですと。
もうスクリーンとパワーポイントで説明してもいい、今までのことの事情を解説するのでメモを取ってほしい。
僕は思う。男の腕の見せ所とはこういう場では無いだろうか。
「わかった」
小さく僕が呟くと、店内の目線が集まるのを感じた。腹をくくって口を開く。
「そういう風に、混乱すると思ったから地元に連れて行くの止めたんだよ。君がいう通り僕は昔ヨッシーだったし、同時にアイランドだったんだ」
客の何人かは既に首をひねっていたし、後ろの席のカップルの女の方が「え?どういうこと」と彼氏に聞いて、黙るように指示されたのも背中で感じた。
僕は続ける「僕の名前は知ってるよね」
彼女の声量ダイヤルは未だ壊れていて、今度は蚊の鳴くような声で「おか、はじめ」と僕の名を呼んだ。
だめだ、そんな声量じゃオーディエンスに伝わらない「そう!僕の名前は岡一!」ここで元気な自己紹介。
「僕の名前にヨッシー要素はないし、アイランド生まれでもない、昔両親が離婚したって話はしたよね。僕は中学に上がる時母親側に引き取られた。同時に隣町に転校することになった」
「アイランド生まれて」と窓際に住む学生風の男二人が苦笑するのを僕は見逃さなかったが、今はこのプレゼンに集中することにする。
「君が僕の小学校を見たいって言って向かった先で出会った奴らな、小学生の時の同級生なんだよ。当時の僕の名前が吉岡。ヨッシーって呼ばれるには十分な苗字だろう」
観客たちのウンウンという同意につられ、彼女も頷く。
「中学は母の旧姓を名乗った、その時が岡島。狭い田舎だから隣町に越したくらいじゃ
親の離婚はすぐ噂になるんだよ。元の吉岡って名前も結構早めにバレたし、ヨッシーって呼ばれてたこともどこからか情報が入ったみたいで、嫌な奴が僕のことをアイランドって呼びはじめたんだよ。『おまえ吉が島になっただけじゃーん、ヨッシーアイランドじゃーん』って鬼の首とったような顔してさ。そのセンスのカケラもない奴が、夜ご飯食べてた時に話しかけてきたあの店の店長」
僕の舞台は熱量が上がってきて、身振り手振りはもちろん、同級生の発言はもちろん声色を変えて演じる。
「だからね、高校から地元を離れて一人で生活してさ、ずっと岡って名乗ってきたんだ。今では戸籍上も岡になったし、身寄りもない。本籍だってあの賃貸アパートだ。両親のことはどちらも嫌いじゃなかったけど、それでも僕はどちらかの苗字を名乗る気にはなれなかった、だから僕は「吉」も「島」も消して「岡」の字だけでいい。そう思ったんだよ。これでこの話はおしまい」
僕のフォロワー十余名、ご静聴ありがとう。店内を見渡したが皆満足しているようで、僕は改めて彼女に視線を戻した。
彼女は未だ暗い表情で、荷物をまとめはじめ、席を立ち上がり僕に言う
「けど私、やっぱり結婚だけは無理。名前が、絶対耐えられないの!」
店を出る彼女の背中に向かって、僕が名前を呼んだ後、3秒ほど皆考え込み「あぁ⋯⋯」と口から漏らした。

「待てよ!椎子しいこ」


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