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本宮晃樹さん

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裁かれた言葉

18/09/01 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:2件 本宮晃樹 閲覧数:207

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◎今月の要注意ワード
 財団法人 日本語適正化機構より公表する〈望ましくない日本語〉(九月度分)は次の通りです。漏れのないよう目を通していただき、極力使用を控えるようご配慮願います。

スリッパ 語感が悪い。窃盗の俗語であるスリとかかるため。→アタリッパなら許容。
おまんま 幼児語として不適切。女性器の俗語と混同しやすい。→代替用語なし。原則使用不可。
だるま 四肢欠損を想起させ、そうした障碍を持つ人に不快感を与えるため。→代替用語なし。選挙当選時に目を入れて祝う風習があるが、それらも含めて廃止する方向で検討されたい。

 言葉はコミュニケーションツールであるとともに、不用意に使用すれば相手を傷つける諸刃の剣でもあります。当機構がこれまでに公表した〈望ましくない日本語〉については、本ページの別リンクにて随時更新しております。
 またそれらを見やすく編集した商品〈望ましくない日本語便覧〉も大好評発売中です。この書籍は追加されたリストを適宜差し替え可能なシステム(加除式)を組み込んだもので、購入者は更新されたリストのみを都度買うだけで視覚的にもわかりやすい最新の一覧表をお手元に置いておけます。
 ぜひ一度、購入をご検討ください。

     *     *     *

 検察官が堂々たる体躯を揺らして起立し、付箋で埋め尽くされた訴訟資料を法廷の歴史あるデスクに叩きつけた。「被告人根岸善幸は公共の場で〈望ましくない日本語〉を乱発し、その場の治安を擾乱せしめたことは明白であります」
 裁判官は無表情だった。この手の刑事訴訟にはとっくに飽きているのである。懸命にあくびをこらえながら、「検察官は証拠を提出してください」
「八月三十一日、被告人は名古屋駅前の歩道において、右の文言を三十分間にわたって叫び続けました」ばつが悪そうに壇上を見やる。「あー、裁判官?」
「法廷の証拠調べにおける特例として、検察官の発する〈望ましくない日本語〉を許容します」
「ありがとうございます」彼は大きく息を吸い込んだ。「被告人は次のような言葉を臆面もなく使用した疑いがあります。すなわち――おま〇こ、フェラ〇オ、オ〇ニー、セッ〇ス」
 傍聴席から失笑が漏れた。
「こうした公序良俗に反する文言だけにとどまらず、被告人はあえて物議を醸す単語をなんの脈絡もなく使用した疑いがあります」助けを求めるように壇上を見上げる。「あー、裁判官?」
「特別に許可します。以後検察官は法廷の許可を省略してよろしい」
「ありがとうございます。すなわち――めくら、つんぼ、白痴、黒んぼ、知恵遅れ、痴呆。その他数え切れないほどの使用禁止用語が無思慮にばらまかれたのです!」
 傍聴席は凍りついた。〈望ましくない日本語〉が人口に膾炙して久しい昨今、罰当たりな言葉を短時間のうちに連続して耳にする機会は激減している。全員がいっせいに十字を切った。「アーメン」
 猛り狂った検察官の要請で、現場に居合わせたと主張する有象無象が矢継ぎ早に召喚され、被告人が神をも恐れぬ不敬の言葉を確かに吐いたと請け合った(法廷で特例的に許されているのをよいことに男性の証人は例外なく、性的な言葉を遠慮なくぶちまけた)。
「以上のことから被告人の有罪は明らかです」憤然と検察官は腰を下ろした。
「弁護人はなにか陳述がありますか?」
「ひとつ、よろしいでしょうか」
 弁護人はごま塩頭の背の低い男で、並みの台風でも上陸したが最後、そのままフランスまで吹き飛ばされそうな風体。立ち上がるのも青息吐息、手元の資料は薄い冊子だけだ。
「検察官は被告人がこれらの言葉を『無思慮に』あるいは『なんの脈絡もなく』使ったと主張しておられるが、彼にはれっきとした意図がありました」目をしばたいて霞を振り払う。「彼はあえて法律に盾突くことにより、昨今の言葉狩り社会、伏字社会、なんでもよろしいが、ともかくそうした傾向に一石を投じたいという政治的意図があったのです」
 傍聴席から痛烈な野次が飛ぶ。裁判官は槌をふるった。「静粛に、静粛に!」
「異議あり! 弁護人は趣旨から逸脱しています」
「検察官の主張を認めます。弁護人は要点を整理してください」
「法廷は現今の状況に疑問を感じないのでしょうか。依頼人はそうでなかったからこそ行動に移した。そして実を申せばこのわたしも」老人は厳かに自身を指した。「依頼人と同意見です」
 裁判官はいましましげにうなった。「当法廷は被告人の訴訟を扱うものであり、社会情勢を議論する場ではない。したがって弁護人の主張は無意味である」槌を二回。「本日はこれにて閉廷とし、後日判決を言い渡す。以上、閉廷」

 被告人は社会擾乱罪で絞首刑を言い渡された。
 いっぽう、日本語適正化機構は〈望ましくない日本語〉(十月度分)の編集に大忙しだった。


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このストーリーに関するコメント

18/09/16 hayakawa

言葉が制限されている。深いテーマだと思いました。

18/09/18 本宮晃樹

はやかわさま
コメントありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたのなら、幸いです。
ありがとうございました。

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