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安藤みつきさん

また、執筆活動再開します。
性別 | |
---|---|
将来の夢 | 想像を形にして世の中に出す。 |
座右の銘 | 君が魚を見ているとき、魚もまた君をみているのだ。 |
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また、執筆活動再開します。
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将来の夢 | 想像を形にして世の中に出す。 |
座右の銘 | 君が魚を見ているとき、魚もまた君をみているのだ。 |
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私は放課後の誰もいない教室で小説を読むのが好きだ。
この誰もいない空間では、自分という存在を忘れて小説の登場人物になりきり、物語に没頭することができた。
そんな空間で突如不釣り合いな音がなり始めた。
学生生活で何千、何万回と聞いただろうチョークで黒板を叩く音だ。
小説を読んでいたかったが、音が気になり黒板に目を向けた。
(ほにゃららを教えて)
黒板にはそう書かれていた。
辺りを見回しても人の気配を探ってみても誰もいない。
チョークの音は気のせいで、文字は誰かのいたずら書きが残っているだけだと思った。
いたづら書きのことは気にしないで小説の続きを読み始めた。
5ページほど読み進めたところで、またチョークの音が聞こえた。
今回は気のせいではない。はっきりと聞こえた。
黒板に目を向けると
(君は○ページを読んでいる)
と書かれていた。
ほにゃららとはきっと伏せ字の事だろう。
『誰かいるの?』
私は教室の中に潜んでいるだろう誰かに声をかけた。
返答はない。
黒板の質問以外には返答する気はないのだろう。きっとそうだ。からかわれているのだ。
『64ページ』
とりあえず答えてはみたものの返答はなかった。
相手をするのは止めて、小説を読もうとした。
しかし、付箋を入れ忘れていたせいかどこまで読んだのかわからなくなっていた。
パラパラとページをめくり、読み途中のページを探した。
目当てのページを見つけたところで、
チョークの音が聞こえた。
またか……とイライラしながら黒板を見た。
(主人公の苗字は○○)
今読んでいる小説の主人公のことだろうと咄嗟に思った。
登場人物達は名前で呼びあっているので思い出すのに時間がかかった。
『鈴木』
思い出して直ぐに言葉にした。
からかわれて苛立っていたし、なによりも小説の続きを読みたかったからだ。
凄いね。君はいろんな事を教えてくれる
主人公の名前を答えてから直ぐに黒板に浮かび上がった。今回はチョークの音が聞こえなかった。
君がなかなか僕に気づいてくれないから、チョークで黒板を叩いたの
『読書の邪魔をしないで』
その文字が誰かのいたずらだろうと、幽霊や妖怪の仕業だろうと私には関係なかった。
とにかく小説の続きが読みたい。
その感情から出た言葉だった。
(そんなことより、君の事をもっと教えてよ)
(君の名前は○○)
『高瀬みずき』
正直かなり面倒くさかったが答えてしまった。
休み時間のほとんどを読書に費やしていた私は、誰かに興味を持つことも持たれることもなかった。
興味があるのは小説の登場人物だけでいい。それでいいのだと思っていた。
でも、少しだけ寂しさや心細さがあった。
たとえ人ならざるものであっても、私に興味を持ってくれることに少しだけ喜びを感じた。
(素敵な名前じゃないか)
(君の年齢は○○)
『12』
(同い歳だね!君とは気が合いそうだ)
(君は○人家族)
『三人家族。一人っ子だよ』
そのあとも黒板に書かれた伏せ字を答えた。
私の事を少しずつだけど知ってくれるのが嬉しかった。
黒板の文字と上手くいけば友達になれるのではないかと考えるようになっていた。
伏せ字を答えるごとにその考えが強くなる。
黒板の文字を書いている人ならざるものについて知りたい。わかりあいたい。友達になりたい。
黒板が文字で覆いつくされた頃、思い切って黒板の文字に問いかけてみた。
『今度はあなたのことを教えてよ』
(高瀬みずき)
黒板の端っこに残ったわずかな場所に小さく浮かび上がった。
『素敵な名前ね。いつからここにいるの?』
私の問いかけに対して返答はなかった。
それ以降、幾度となく黒板に問いかけたが文字は浮かび上がることもなかった。
問いかけをしても無駄だとわかった頃、私は気が付いた。
自分の名前も年齢もすべてわからなくなっていたことに。