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夢と君とミステリー

18/08/29 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 55 閲覧数:157

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 その日は照り返すような太陽の熱が、道路に反射して、目の前が揺れていた。僕は桜子の歩く道の先が、揺ら揺らしているのが不安で、首に伝う汗を拭った。

 僕はよく夢を見る。同じように夢を見る人には理解できると思うが、夢は必ずしも心地の良いものじゃない。身近な人間から、過去の他愛ない風景まで、ごちゃ混ぜになって出てくる。大体の場合、そんな舞台の中心に立つのは、心配事だ。
 桜子の父親は警察だ。重役であるらしく、ごくたまに逆恨みをした犯罪者が、武器をもって押しかけてくる場合があるらしい。だから、大きな家の周りは有刺鉄線で囲まれて、監視カメラがそこら中に仕掛けてある。
 そんな家からひっそりと出てくる桜子が気になって、僕は夢にまでその姿を見てしまうのだと思う。一度だけじゃない。けど、昨日の夢は特別不思議だった。あの厳重に保護された家のポストに、一枚の紙が届くのだ。

 ――■■■■年。■月■■日。■■■■が、

 どうして僕が、桜子の家のポストに届いたその紙を見られるのかわからない。続きがあるから、僕は見てしまう。

 ――■■される。

「太一? 大丈夫?」
 僕はハッとして、桜子を見た。眉を寄せて、二つ結びにした長い髪の先を左右でずらしている。耳の下からリボンが垂れていた。

 学校の授業はいつも通りだった。僕の机は廊下側の後ろから二番目で、桜子の机は教卓の前。桜子は身をかがめて、一生懸命にノートを取っている。先生が振り返ると、桜子も顔を上げる。
 集中する気になれなくて、夢の中のあの紙に書かれていた日にちと内容について、思索する作業に入った。どうにも嫌な予感がして、たまらなく不快な気分になる。
 紙を見る前、僕は何かに追われていて、必死に走っていた。夢は夢であって、現実じゃないのはわかっている。けれど見た以上、きっと現実の何かが、無意識に関係している。追われていたのは僕が焦っていたからだ。何に? 桜子との別れに。
 桜子は、冬に引っ越すことが決まった。桜子の父親に捕らえられた一人の男が脱走し、もう一ヶ月以上見つかっていないからだ。僕はその話を昨日聞いた。
 男は、常に酩酊しているような違和感があり、反抗的な態度は見せないものの、何を考えているのかわからない気味悪さがあったらしい。施設で過ごす間、不自然に笑顔を見せ、何を見て笑ったのかわからないことが多くあった。精神鑑定が行われたが、受け答えには特別な異常は見つからなかった。
 脱出された原因も未だわかっていない。監視の人間が居眠りしていたわけではなく、施設内の警報やセンサーが壊れていたわけでもない。奇怪な事件に警察本部は混乱し、桜子の家族も、万が一に備えて避難することを勧められた。
 避難をするのだから、桜子は安全になる。そこに僕の焦りの理由は見つからない。けれど奇怪な事件の恐ろしさの本質は、酩酊した男が捕まった理由にある。

「金山。答えてみろ」
 先生に呼ばれて、ハッとした。また現実に引き戻された。桜子が振り返って此方を見ている。机上にあるプリントには、空白のマスが浮いている。

 ――□□□□年。□□□□が、惨殺される。

 思わずもう一度桜子を見た。桜子は少し眉を寄せると、困ったように首を傾げる。桜子の背後、黒板の隣に貼り付けてあるカレンダーを見る。七月二〇日。

 ■■■■年。■月■■日。■■■■が、■■される。
 二〇一八年。七月二〇日。大城桜子が、惨殺される。

 黙り込んだ僕の肩を、先生が丸めた教科書で叩いた。

 結局、僕が先生に心配されたこと以外は、変わらずに一日が過ぎた。帰り道、桜子は心配そうに僕の顔を覗き込む。
「ねえ、なにかあったの? 私、何か悪いことした?」
 驚いて首を振った。僕が勝手に、いつまでも昨日の夢に引きずられているだけなのに、桜子は優しすぎる。
「違う、桜子は何も悪くないよ」
「じゃあなに?」
 桜子はそう言うと立ち止まった。いつも寄り道して話をする公園の前だった。僕の足は何も疑わずに、そこへ向かっていたらしい。
「ごめん、癖でこっちの道に来ちゃったみたいだ。昨日の話もあるし、今日はもう帰ろう」
「待って、どうして?」
 桜子は僕の腕を掴んで引き止めた。僕だって本当は帰りたくなかったけれど、桜子が悲しい事件に巻き込まれるよりは、少しばかり喋れない方が良い。
「どうしてって、危ないよ」
 僕は手を離そうとしたけど、桜子は離さなかった。
「あとちょっとしかないんだよ。わかってよ」
 そう言われて初めて、桜子の耳が赤らんでいることに気付く。

 ――■■■■年。■月■■日。■■■■が、■■される。

「好き」

 桜子の声に、僕の時間が止まった。夢の中にいるようだった。


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