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クナリさん

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将来の夢 | 絵本作家 |
座右の銘 | 明日の自分がきっとがんばる。 |
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このストーリーに関するコメント
18/08/27 海見みみみ
拝読しました!
謎解きの意外性と絶妙さ、そして独特の後味が素晴らしいの作品でした。
冒頭から主人公を排水溝にぶち込むセンスがさすがです。
奇妙で怖くてでもユーモアがあって、とても作者の個性があふれていますね。
勉強になりました。
18/08/28 村野史枝
謎解きが見事でした。
すごく面白かったです。
18/08/29 クナリ
海見みみみさん>
謎解きをメインに考えていたのですが、殺人トリックとかではないので、地味かな〜とか思っている内に、どんどん登場人物が変人になっていきました(^^;)。
狭くて暗いところ、好きなんですよね。。。
コメント、ありがとうございました!
村野史枝さん>
ありがとうございます!
なるべくシンプルな解答にしようと思っていたのですが(字数もとるし(^^;))、楽しんでいただけた嬉しいです。
ピックアップ作品
僕は道端の排水溝の中に入って仰向けに寝転がり、蓋を閉めて、その隙間から空を見るのが好きだった。
小学校の頃にこの趣味を自覚し、高校一年生になった今でもそれは変わらない。
しかし、この行為はとても卑劣な覗き行為と不可分だ。
いくら僕にその気がなくても、それはまごうかたなき犯罪だ。
だが僕は僕で、この趣味をやめるわけにはいかない。
排水溝に入らないでいると、段々落ち着かなくなり、体が奇妙な動きを始める。
それでも我慢していると、奇声を上げながら人に襲い掛かってしまうのだ。初めてそうなった時は小学生だったから大問題にはならなかったが、高校生の今ではかなりまずいだろう。
だましだましこれまで排水溝に入り続けてきたが、何か抜本的な対策が必要だ。
そこで僕は、なるべくさびれた、人通りの少ない路地を選んだ。
時間帯も真夜中にした。何度か下見したが、全く人間は通らなかった。
本当は青空が見たかったが、それは我慢することにした。僕がやっているのは異常な行為なのだ。何でも希望をかなえるというわけにはいかない。
かくして、僕の排水溝ライフは、その裏路地で送られた。
ぴったりと溝にはまり、狭い覗き穴から漆黒の夜空を見る。
最高だった。全ての辛さや苦しさを忘れて、僕は忘我の境地に至っていた。
そんな排水溝ライフに異常が生じたのは、この生活を始めて二ヶ月ほどした頃だった。
いつも通り仰向けになっていた僕だったが、ふとあることに気づいて、悲鳴をあげかけた。
僕の頭のすぐ横に、こう落書きがしてあったのだ。
「私は○□△。私は次のうち誰?」
暗闇でも読めるよう白いチョークで書かれている。
こんなところでまともな体勢では書けないからだろう、字はひどくいびつだ。
こんなものが書かれたということは、僕の排水溝ライフを知る者がいるということだ。ぞっとした。
なお落書きは、その後は何も書かれていなかった。次とは一体……?
翌日同じように排水溝に入ると、続きが書かれていた。
「小田サイマル。丸道お田。七角トシマサ」
全員知り合いだ。小田は写真部員の同級生、丸道は書道部の後輩、物理の七角先生は僕の担任だ。
これを書いたのはこの中の誰かということなのか……。
小田は写真部員。盗撮の趣味があって、ここを使っているのか? しかしこんな人気のないところではその目的は果たせまい。
丸道の名前は「おでん」と読む。九州は久留米カスリの創始者にあやかったらしい。
名前が三文字で、伏せ字と一致しているのは山下だけだ。しかし、これだでは弱い気がする。問題として簡単過ぎる。
七角先生ということはありうるだろうか。先生のことなんてろくに知らないので、犯人当てなんて無理に近い。ただ、喫煙者だということは知っている。
この伏せ字はなんなんだ。三文字であることに意味はあるのか? それとも並び? 形?
記号を縦に並べてみたり、英語名に直してみたり、鏡文字にしてみた。だが三人の誰を指すこともできない。
どんなに考えても、この日、答えは出なかった。
あの三文字にどんな答が隠されているというんだ?
翌日。
「伏せ字ではない。これでヒントは全て出た。答えろ。外せば殺す」と落書きされていた。
バカな。そんなことなら先にそう言ってくれ。そうすれば別のところに行ったのに。
僕は排水溝の中でついうめいた。
しかも、伏せ字ではないだと!?
もう一度まじまじと○□△を見て、そして僕はようやく気づいた。
伏せ字でないのなら、これは文字そのものなのだ。
筆跡はいびつだった。
○はやや縦長に伸びている。□は少し丸みを帯びていた。△は両足が少々下へ突き抜けている。
確かに伏せ字ではない。
記号のチョイスがおかしいとは思っていた。普通記号を使って伏せ字にするなら、○×△のようにバツを使うはずだ。なぜ□と△なのか。
これは、○□△ではない。
いびつな、ODAなのだ。
「小田」
僕はその名を読んだ。
排水溝の中、僕の頭の先の方から「おう」と声がした。
首を反らせて見ると、そこにうつ伏せで排水溝に横たわった小田がいた。手にはナイフを持っている。
僕は絶叫して、排水溝の蓋をはね飛ばして立ち上がった。そのまま脱兎のように逃げ出す。
いつからいたんだ。どうしてこんなことをしたんだ。
いくつもの質問があふれる。しかし、きっと答はないのだろう。
僕がこういう人間であるように、小田もああいう人間なのだ。
夜道を走りながら、僕は明日のことを考えた。
小田は何食わぬ顔で登校するだろうか。
僕はどうにかされるのだろうか。
闇の中、ちらりと振り返る。
ナイフを持ったまま静かに、小田はただ排水溝の上に、こっちを向いてたたずんでいた。
終