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キップルさん

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サプライズ好きの彼

18/08/26 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 キップル 閲覧数:157

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 マンションのエレベーターから降りて右へ曲がり、いつもの廊下を歩く。最近立て続けにバイトの子が辞めたのでたくさんシフトを入れられて辛い。角部屋のひとつ手前が私の部屋だ。いつもならすぐにドアを開けて、靴を脱ぎ捨てソファにダイブするのだが、今日は違った。ドアの郵便受けに白い封筒が刺さっていたのだ。

「何だろうこれ?」

封筒には切手が貼られておらず、差出人の名前もない。多分誰かが直接入れたのだろう。広告か何かかな。不思議に思いながらも封筒を破ると、中に手紙が入っていた。


 「 ○ ま き ○ の へ ○ ○ ○ る


   1 2 3 8


   1 = − ○ + ○ ÷ ○ × ○ 」


「えぇ、意味わかんない…。っていうかあたしの名前まきじゃないし。」

 一行目に伏字の入った文章。二行目に五つの数字。三行目にこれまた伏字の入った数式。

 どう読んでいいか分からなかったが、差出人には検討が付いた。彼氏だ。彼はサプライズが好きで、これまでも私がいない間にたびたび郵便受けにプレゼントを入れておくことがあった。この前はしょうが焼きを作って取っ手に掛けておいてくれたんだけど、液漏れして袋の中が酷いことになっていた。今回も何か思いついちゃったんだな。しょうがない付き合ってやるか!

 数字と数式の関係はすぐに分かった。数字を○に当てはめて、式を成立させればいいんだ。私、数学得意じゃないんだけどな…。


うーん、ここはこれかなぁ。いや違う。


じゃあ、これをこうして、あれっおかしいぞ…。


あ、そうか、ここが割り算だから2と1を入れて…。あれれ?でもいい感じかな。


…。


やった、分かった!!


しばらく数字と格闘した末、答えが出た。


  1=−3+8÷2×1


「はぁ、なんか疲れた。でもまだ終わりじゃないのよね。あいつ、今度会ったら高いものおごらせてやる!」

 私は再び手紙に取り掛かった。あとは一行目の文章の謎だが、あることに気づいた。文章の伏字は5つ。数式に出てくる数字も5つだった。そっか、ここに数字を当てはめればいいんだ。あ、そういうことね。私は文章の意味を理解した。まったくサプライズ好きの彼にも困ったものねと、小さくため息をついた。

「いるんでしょ?出てきてよ!」

 私は声を張り上げて呼びかけた。しかし、返事がなかった。「びっくりした?」とか言って笑いながら出てくると思ったんだけど。仕方ない、こうなったら…。スマホを取り出し、彼に電話かけた。プップップッとダイヤルされた後、プルルルルと呼び出し音が聞こえた。でも、部屋の中では物音がしなかった。妙だと思ったが、きっとマナーモードにしているのだろう。

「もしもし、何?」

 彼が電話に出た。聞きなれた声を耳にした私は妙に安心した気分になった。

「もう、何じゃないよ!手紙読んだよ!いるんでしょ?」
「え、いるってどこに?」
「とぼけないでよ、部屋によ。」
「そりゃ、部屋にはいるけどさ。」
「じゃあ、出てきてよ。」
「出てくるってどういうこと?」
「もしかして、本当に分からないの?」
「分からないって何が?」

話が噛み合わない。これは嫌な予感がする。もうふざけないで聞いてみることにした。

「ねぇ、あなた今どこにいるの?」
「何でそんな事聞くんだよ。俺の部屋に決まってんだろ。」

その瞬間、私は背筋が凍りつくように寒くなるのを感じた。と同時に、寝室の方からスーッと押し入れの戸が開く音が聞こえた。

 私は駆け出した。叫んでよろけながらマンションを飛び出し、一目散に彼の家を目指した。あの時私の部屋に何がいたのか、今となっては知る術もない。


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