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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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テレパシストの贈り物

13/01/14 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1756

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 送迎車から南中也は、スタッフがおろしてくれたスロープを伝って、ディサービス『安楽舎』の玄関前に車いすでおりていった。
「スロープが急だから、気をつけてくださいよ」
 スタッフが注意を促した。彼が本心でそういっているのを、中也はテレパシーで知った。右半身に障害がある中也だったが、じつは精神感応力という人の心のなかを、自由にのぞくことができる能力のもちぬしだったのだ。
 それはしかし、両刃の剣でもある。世間の人が障害者の自分をどうみているか、テレパシーだとその本心を見抜くことができた。しらずにいるほうが、幸せだと思うことは、この世間にはいっぱいあるのだ。
 彼が前に通っていたディサービスのスタッフなんかは、それはひどいものだった。
 たとえば昼食を食べているとき、右手が麻痺しているために、スプーンからおかずがぽろぽろこぼれおちたりすると、
「気にすることはありませんよ」
 と口ではいいながら、心のなかでは、
【ちぇっ。まともに喰うこともできないのか】
 と、悪口をほざいていた。
 これまで中也が何件ものディサービスを渡り歩いてきたのもそんな、スタッフたちの本音がわかったからだった。
 彼が電動車いすを操作しながら、みんなのいる広間に続く廊下を移動しているとき、広間の入り口の手前で呼びとめるものがあった。
「南さん」
 顔をみるまでもなく中也には、それが畑山茂子だとわかった。
「こんには、畑山さん」
 なにかしら太陽のふりそそぐ花園から漂う優しく、爽やかな香りのようなものが彼女から伝わってくるのを彼はおぼえた。
 彼女は、中也よりすこし年配の、やはり車いす生活を送る施設利用者だった。彼がここに通いはじめたころ、なにかと親切にしてくれ、彼を一人ぼっちの寂しさから救ってくれた。そのとき彼は、彼女の内面を探るような不作法な真似はしなかった。それが彼女の本心から出た行為だということはあきらかだったので、なにもわざわざ、超能力を使ってのぞき見する必要などなかった。
「どうぞ………これ」
 きれいに包装したものを、彼女はさしだした。
「なんですか」
 すると彼女は、子供のように頬をあからめた。
「きょうは、女のほうから、殿方に、プレゼントできる日なんでしょう」
 それをきいて中也ははじめて、きょうがバレンタイン・デーだったことを思いだした。
「いただけるんですか。へえ、うれしいな」
 車いすでなかったら、とびあがって喜びたい気分だった。彼女にテレパシー能力がないことはわかっていたが、このときの中也の、手放しによろこぶ無邪気なふるまいをみたら、それがうそいつわりない気持ちだということぐらい簡単に見抜けたにちがいない。
 広間からスタッフが、大きな声で二人に呼びかけた。
「さあ、朝のレクリェーションがはじまりますよ」
 二人は顔をみあわせると、いそいで車いすを動かしはじめた。
   *    *    *   *    *    *
 昼食後の休憩時間に、畑山茂子の家族が面会にきた。
 食堂をかねる広間には、みんなにまじって中也も残っていた。彼は、離れた位置から、息子夫婦と彼女のやりとりをながめていた。
 笑顔まじりに母親と接している息子の心の中を、中也はのぞきこんだ。
【はやく死んで、おれたちに家と財産をゆずってくれよ。そんなに長生きしたら、おれたちが困るだけじゃないか】
 表面では、いつまでも達者でいてねといいながら、息子は腹ではそんなことを考えていた。
 中也は、息子の心の奥深くに自分の意識をさしのばしてみた。
 そして彼の、ずっと子供のころの記憶をまさぐった。そこにはいろいろな過去がからみあっていたが、とりわけ母親と関係したものだけに焦点をあててみた。
 ―――飛沫がとびはね、波が激しく逆巻くなかに、子供がもがき暴れている―――
 そんな彼の幼少時の出来事が、、割れた鏡にうつる光景のように断片的にみてとれた。
 いきなり大人の女性の腕がのびてきた。
 場面は一転して、彼は岸辺の砂浜に横たわっていた。
 母親の、息子の無事を一心に願う顔が自分をのぞきこむ。
 記憶はつながって、母親と川にあそびにいった彼が、野犬におそわれ、水に転落したところを母親に助けられたことが浮き彫りになった。
 彼が、そんなことをすっかり忘れているのはまちがいなかった。
 中也は、テレパシーを使って、その記憶をつっついて彼の意識のなかにありありとよみがえらせてやった。
 とたんに、彼の母親を見る目に変化があらわれた。身をすててわが子を助けようとした母親の愛情がいま、彼の心の底からわきあがってきたのだ。
「母さん、本当にいつまでも、元気でいてくれよな」
 その言葉こそ、うそ偽りのない彼の言葉だった。
 中也は、一足はやい、ホワイトデーのプレゼントを畑山茂子に贈った。


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このストーリーに関するコメント

13/01/15 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

このような超能力があるというのは、ある意味不幸なことが多いのではと思いました。でも、こんな素敵な結末ができるなら素晴らしい能力ですね。

ホワイトデイのお返しになかなか粋なことですね、自然と微笑むような明るくなる素敵な読後でした。

13/01/17 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。


 言葉をもたない動物たちには、無言で意思を交換する能力が、すくなくとも人よりははるかにあるようです。

 動物たちとは異なる進化をとげた人間たちは、犬が尾をふればすむところを、あれやこれやと表現しなければならず、そのうえいくら言葉をつくしてもつたわらないという、辛い憂き目にあうわけですよね。
 本題からはなれて、そんなことをふと、考えまてしまいました。
 

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