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佐竹竹之助さん

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将来を

18/08/22 コンテスト(テーマ):第160回 時空モノガタリ文学賞 【 伏字 】 コメント:0件 佐竹竹之助 閲覧数:186

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夏の夕暮れは蝉時雨と蜃気楼を連れて訪れる。白昼夢のような光景を見つめ膝を抱えていた。
「なぁ、芥生よ」
僕、榊健二郎は陽が沈みかける校庭の木陰で、隣に座る芥生恭助に声をかけた。
「なんだぁ、榊。こんな暑い日に校庭で夕陽を見るだなんて」
返ってきたのは気怠げな声色の文句であったが、それを無視して僕は問うた。否、問おうとした。
「僕らはこれから……」
「その先、言うんじゃないよ」
鋭い視線と強い口調でぴしゃりと僕の言葉を遮る。芥生はそういう男だった。聞きたくないと思ったら嵐のように言葉を奪ってしまうし、言いたいと思ったら話を遮り話しだしてしまうのだ。反抗や反論は常に無意味だった。彼は頭が良い。反論を口にしたところで上手く丸め込まれるだけである。授業中に背筋を伸ばしている姿は見たことがないのだが、試験期間後に張り出される順位には彼の名前が先頭に輝かしく載っている。
「お前は、そんなつまらない事を考えるためにわざわざ俺を呼んだのかい。エェ?」
卒業を間近に控えた高校生にしては幼い顔立ちを顰めて言う。癖のある前髪が風に揺れて沈黙を攫った。ざわ、と枝が鳴くと蝉の声を一瞬かき消す。
「そんなつもりは無かったよ。無かったが、夕暮れってのはどうにもあれやこれやと考えさせる」
「そうかい」
僕の言い訳に短く応えると、不機嫌な顔を校舎へ向けて黙り込んでしまった。これといった話題も無いため、蝉と遠くの鳥の声ばかりが僕らの周りを賑やかにしている。
 しかし、意外にも芥生がその沈黙を破った。顔は校舎へ向けたままだが、はっきりとした声で僕に話した。
「榊、聞けよ。僕はそれはそれは優秀さ」
「知っているとも」
「……でもなぁ、これからをこれっぽっち、そう!これっぽちも!考えちゃぁいないのさ」
僕は目を丸くした。僕が尋ねた時は遮って黙らせたくせに、彼は自分から将来を話した。それでも、その形のいい口から発せられた言葉は僕が望んでいたようなものではない。まさか、あれ程優秀な男が将来を考えていないなんて!刹那、一種の絶望に似た感情を胸の辺りに生じた。
「あは、驚いてやがる。でもな、本当さ。考えてない」
「如何して」
「如何しても何も!考えられないものは仕方ないさ。……お前もだろう」
切れ長の目をこちらへ向けて問う。見透かしたような物言いに、ずん、と喉が重くなる。からからになった口の中が応えを出せずヒュゥと間抜けな音を出した。
「図星なんだろう。そうだ。そんな顔をしている」
意地の悪い笑みを浮かべながら、芥生は手で顔を仰いだ。僕はといえば、未だ応えを出せず俯いてしまった。彼は気にしていないようであるが。
「……もう言うなよ。言うならそんなつまらない二文字を使おうとするんじゃない。嫌いだ、その言葉」
「……あ、あぁ」
漸く出た相槌は頼りないものだったが、芥生は満足そうに微笑み「よろしい」と呟いた。
「伏字にでもしておけ」
芥生の吐き捨てるようなその言葉を最後に僕らは黙り込んで校舎を眺めるばかりになってしまった。夕陽を見ようだなんて言ったのに、その夕陽に嘲笑われているような気がして、そちらへ顔を向けることも出来なかった。


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