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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで5年目に入りました。今まで以上に良い作品が書けるよう頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。エブリスタでも活動中。ツイッター:@fuyugaki_hinata プロフィール画像:糸白澪子さま作

性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

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片恋フェードアウト

18/08/19 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:417

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 お隣りのまりなママが亡くなったのは、僕が小学4年生の頃だった。誰もがすすり泣く中、満里奈はお通夜の席でひときわ大声を上げて涙を流していた。綺麗で優しくて、お料理やお菓子作りが上手なママは、幼馴染の満里奈の自慢だった。
「シュンちゃんはいつも頼りになるわ。満里奈と仲良くしてあげてね」
 にこやかに笑うまりなママからはいつもいい香りがして、僕は嬉しいとともに胸が弾むように高鳴った。それが初恋だと知った時には彼女は棺の中で、満里奈を残して天へ召されてしまったのだった。
 僕が満里奈をきっと守ってみせるから。その誓いは、5年経った今でも変わらず、僕らは毎日一緒に中学校へ通っている。


 朝日の光る海が見える通学路は、トラブル多発地帯だ。
「瞬くんの意地悪」
 僕は眼鏡をかけ直し、ふてくされる満里奈の表情をそっと窺う。
 好奇心旺盛な満里奈の報告を、右から左へ聞き流すことの何が悪いのだろうか。男性アイドルが熱愛発覚しただの、野球部の先輩が格好良くて人気だの、僕には全く興味の沸かない話だ。
 まあ、元気ならそれでいいんだけどさ。お喋りな彼女の隣にいるだけで、学校に行く間は退屈しない。
「ねえ。ちゃんと私の話聞いてた?」
「ああ。モズリルの谷から157年前に旅立った主人公が、何故現代の日本にやって来たかという疑問だろ」
「ほら。やっぱり、うわの空だったでしょう」
 クラスメイトの中には、僕たちが付き合っていると勘違いする人もいるけど、そんなことはない。気さくな満里奈は友達の少ない僕が放っておけないだけだし、男子に告白してはフラれる満里奈を僕は心配しているだけだ。事実を説明すると、「保護者同士みたい」とさらに茶化されるのも嫌だが。 
 それ以上に僕の頭の中は、執筆がはかどっている小説のことで一杯だった。
「いいなぁ、瞬くんはやりたい夢があってさ。私なんかちっとも思い通りにならないわね。ある日突然神様が目の前に現れて、全部夢が叶っちゃったりしないかな」
「そんな都合の良いことは世の中にないさ。デウス・エクス・マキナみたいだ」
「何、その舌噛みそうな言葉は」
「古代ギリシャでの劇の手法だよ。どうにも収拾のつかなくなった事態を、突然機械仕掛けで登場した神が解決してくれる。『夢オチ』もそれにあたるけど、それまでの登場人物の苦悩や努力がなかった事にされるんだから、物語としては全くつまらないだろ」
 ふうん。と、満里奈は隣で跳ねるように歩いた。
「瞬くんって、意外とロマンチックなんだね」
「当たり前だろ。これでも小説家を目指してるんだ」
 僕は努力家であることを否定しない。満里奈が「頑張れ優等生!」と丸まった学生服の背を叩き、痛いと同時に微かな胸の疼きを覚えた。
 僕は、満里奈に恋をしているらしい。
 けれど歳を重ねるごとに、彼女はまりなママに似てきて、初恋を忘れさせてくれない。しかもまずい事に、この感情が自分の心の産物か、まりなママの死によるインプリンティングなのか、僕は判別できずにいた。
 夏休み明けの海沿いの道は人が途切れて、二人きりになる。日に焼けた満里奈の顔に八重歯が白く光って可愛かった。


 今更、好きだと満里奈に言い出せやしない。
 僕たちが隣の家に生まれついた偶然や、まりなママが突然死んでしまった悲劇が神とやらの舞台装置の一つだとしたらどうだろう? そんな神なら蹴とばしてやりたい。女の子の心につけ込む、都合の良い男になれない僕が、恋に素直じゃないのは当然だった。
 さっさと消えてしまえよ、デウス・エクス・マキナ。
「いい彼氏ができるといいな」
 僕のお決まりの言葉を、今日の満里奈はスルーした。 
「私は瞬くんといると一番退屈しないんだけど」
「……それは良かった」
「じゃ、デウス・エク……何とかっていうのを倒す旅に出ようかな、瞬くんと一緒に」
 僕は目を丸くした。何かのファンタジーRPGと勘違いしているらしく、愉快そうな満里奈を見て、危うく吹き出しかける。
「無茶苦茶言うなぁ……」でもそれも悪くない。
 彼女は勉強が苦手な代わり、運動は得意で友達も大切にしている。意外と涙もろくハンカチなしで映画を見られないし、炭化した手作りクッキーをプレゼントされたこともあったけど、なんだかんだ言って素直な満里奈を、僕は一番信頼できる女子だと思っている。
「そっか、ありきたりのハッピーエンドじゃつまんないよね」
 納得したような満里奈は僕の手を握り、通学路を無視して砂浜へ走り出した。


 猛スピードで、書きかけの小説が頭の中から吹き飛ぶ。
 砂まみれの今なら、人生の台本を投げ捨てられそうだ。
 機械仕掛けの舞台を抜け出して、僕らの心は行儀良い片側通行をやめる。
 初めて気づいた校則違反の香水は、まりなママとは違う、爽やかな花の匂いがした。


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このストーリーに関するコメント

18/08/21 冬垣ひなた

≪補足説明≫
・左の画像は「写真AC」からお借りした写真を合成しました。
・右の画像は「Pixabay」からお借りした写真を合成しました。

・同テーマ投稿作「純愛フェードイン」は満里奈視点での続編になります。

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