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比些志さん

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セキガエ

18/08/16 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 比些志 閲覧数:57

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冬の体育館。仲間とバスケをしていると、もやの中から学級委員の洋子が目の前に現れた。
「先生がよんどるよ」
洋子は一方的に私の右の二の腕を引っ張る。
「おい、なん、なんだよ?」
「今日はセキガエの日でしょうが」
と洋子はぶっきらぼうにそういいはなって、一人でスタスタと歩きはじめた。私はなんだか、席替えという言葉を聞いて、急にうれしくなった。
 
教室に入ると、土居チューこと土居忠が私の前の席にすわっていた。ななめ後ろには洋子の親友の武智幸子がいる。それにしても、となりはだれだろう?とおもって横を見たが、だれもいない。するとふいに背後から洋子が顔をちかづけてきた。洋子はまたも私の二の腕をしっかりつかんでいる。洋子はじっと私をにらみつけながら、なにかをつぶやいた。
「・・・・・」
 よくきこえない。しかし、への字型の薄い唇の動きは、はっきり確認できた。
 お・ま・え・も・だ

私は目をさました。――見ると胸のうえに四歳になる娘がのっている。夢だった。二十年前の夢を見ていたのだ。
――しかし、二の腕にかすかな痛みが残っていた。

きっと許していないのだ、洋子は。二十年間、ずっと洋子の思い出と四国に背を向けつづけたまま、つまらない大人になってしまった私のことを。……
 
その次の日、四国から私宛に一通の封書が届いた。そこには卒業した中学のクラス会への案内が同封されていた。十二年前に脳腫瘍でこの世を去った洋子によばれているような気がして背筋が一瞬つめたくなった。

 ――それから一月後、まよいながらも、私は最終的に旧友の土居チューの強引な誘いを断り切れず、同窓会に出席することにした。そして二十年ぶりに四国の土を踏んだ。

同窓会の翌日、武市幸子と土居チューの三人で洋子の墓参りに電車で出かけた。 
伊予鉄の車窓から眺める景色はみなやさしかった。お城山と沖にうかぶ島並みが、まるでお帰りなさいと自分をむかえいれてくれているような気がした。

私がこの町に住んだのは、ほんの四年あまりだった。小学校六年生のとき、父の転勤で縁もゆかりもないこの町へひっこしてきた。中学にあがってからも、部活にもクラスにもなかなかなじめず、結局、中学卒業と同時に逃げるようにして東京にまいもどった。

私の中学生活はさえないものだった。そんな私の対局にいたのが鶴本洋子である。洋子はいわば非の打ちどころのない優等生で、私など何をやっても歯が立たなかった。だから私にとって洋子は、あこがれの存在であると同時に、忘れ去りたい存在でもあった。

墓参りのあと、三人で学校の教室にむかった。教室に入るとなにもいわないのに、三人とも夢で見たとおりの席に腰かけた。そのときはじめて、二人とも自分と同じ夢を見ていたことを知った。
私はだまって空席となっている私の横の席を見つめていた。

「洋子だよ、洋子。ちゃんとわたしのまえに座って、うれしそうに教科書広げとったよ」
「なんで鶴本がおまえのとなりなんぞ!」
幸子はそんな土居チューのやっかみには、一瞥もくれず、じっと私の目を見ながらいった。
「しらんかったん?洋子、あんたのこと気にいっとったんでえ。あんな性格やから、素直にはよういわんかったけど」

そして幸子は、私へ一通の白い封筒をさしだした。
「洋子から送られてきたんよ、今年の正月に」
それは中学三年生のホームルームの時間に書かされた二十年後の自分宛の手紙だった。
洋子の手紙も、二十年後に約束どおり自宅に配達されてきたが、その中に、幸子宛の手紙と、どういうわけか私宛の手紙が入っていたらしい。
「洋子のお母さんから預かってきたんよ。読んでやって」
促されるままに渡された茶封筒の口を切ると、石鹸のにおいが私の鼻先をくすぐったような気がした。だが――書かれていた文字は、たった一行だった。

『元気にしてますか?しっかり、がんばってくださいや。おおよもだくん』

おおよもだ――ひねくれものとか、なまけものとか、お調子ものとかを意味する伊予の方言である。当時もあまり使ったおぼえはなく、この二十年間はまったく耳にしたことすらなかったので、その意味さえ一瞬思い出せなかったが、思い出したあとも我が目をうたがいたくなった。

 ――これで、おわりかよ。
 内心、さらなる衝撃の告白を少なからず期待していた自分がほんとうのよもだである。
 
が、そこで、はたと気づいた。そうか――夢の中で聞いた洋子の最後の言葉は、「おまえもだ」ではなく、「おおよもだ」だったのだと。洋子は私のことを恨んだり憎んだりしていたのでなく、あの世に行っても、おもいっきり親しみを込めてガキ扱いし、馬鹿者呼ばわりしてくれていたのだ。   
 
ふいに真っ黒に日に焼けた洋子のいたずらっぽい笑顔が鮮明にまぶたの裏にうかんだ。了


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