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chihoさん

ニックネームが 「ちほ」から「chiho」に変更しました。 「ちほ」の作品も読んでいただけると嬉しいです。ほとんどが「優しさ」をテーマにした作品です。このテーマは、これからも続けます。よろしくお願いします。

性別 女性
将来の夢 童話作家になること。
座右の銘 「たいせつなのは どれだけたくさんのことをしたかではなく どれだけ心をこめたかです」

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リンドリン王国の薔薇園にて

18/08/16 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 chiho 閲覧数:132

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 リンドリン王国の東塔の窓から薔薇園が見える。朝霧の中に浮かび上がるように姿を現す至宝の楽園。
「完璧な薔薇園には、完璧な庭師が必要だわ!」
窓際の椅子に深く腰掛けて、そう言い放ったわたしに「歩いてごらん?」とアークは意地悪を言った。
「完璧だなんて、きみには似合わないよ」
「この頃、よく顔を見せるわね」
「きみのお姉様に会いに来ているだけだよ」
「王子様としてのお仕事があるでしょうに」
 彼は、にやりと笑った。
「妬いてる?」
「……シグ、薔薇園へ行くわ!」
 壁のように立っていた足役のシグに声をかけた。シグの太い腕に抱き上げられて部屋を出るとき、アークにあっかんべした。
「あなたの相手をするほど、わたしは暇じゃないの」
「リジオが好きかい?」
「嫌いじゃないわ」
 庭師のラズルは無口な老人で、見習いとしてリジオを連れてきたのが一か月前。華奢な手足に、真珠色の肌。目鼻立ちに誰をも引きつける魅力があった。小悪魔的な個性も感じ取れて、見る者を夢中にさせる。朝一番の薔薇を、彼はわたしに差し出してくれた。彼の柔らかな巻き毛に絡んでいるピンク色の花びらを、人差し指と中指でそっと取ってやる。それだけのことが、言葉にならないほどの喜びになっていた。
「あちらに見たことのない薔薇が咲いていましたよ。見に行きませんか?」
わたしは、夢見るようにリジオに右手を差し出しかけた──。
「いけません!」
 ラズルの声が、わたしを夢から目覚めさせた。リジオの綺麗な顔が、泥水を飲んだかのように歪んだ。そして、悪戯っ子のようにペロッと舌を出してみせる。その舌が引っ込むのとほぼ同時に、目の前が赤く染まった。生き生きとした緑の葉や朝露を受けてキラキラしていた薔薇の花びらに赤い水滴が振りかかっていた。わたしの足元で、ソリル王国の紋章入りの短剣に一突きにされて、ラズルが死んでいた。シグが、呆然としているわたしを抱き抱えて走り出す。城内への石段に足をかけたとき、彼は止まった。わたしを石段に座らせると、振り返って短剣を抜く。シグは、リジオと向かい合っていた。
「リジオを殺さないで! 足の使えない王女なんて簡単に殺せるのに、いままで彼はそうしなかったの!」
すると、シグでもなくリジオでもない声が降ってきた。
「姫、あなたは馬鹿ですかっ!」
 怒りのアークだった。
「初恋よ! 片思いだったの!」
わたしは、声を張り上げた。
「じゃ、しょうがないか!」シグとアークが同時に答えた。そこから先は、舞台劇に巻き込まれたような感覚で展開した。
「ぼくは、あなたに恋なんてしていません」
リジオは、冷たい言葉をわたしにぶつけて姿を消した。失恋の痛みが乾かないうちに、アークも淡々とした口調で打ち明けた。「おれは、きみのお姉さんが好きなんだ」彼を引き止める理由はなかった。血だらけで死んでいたはずのラズルがむくっと起き上がって「どうもどうも」とわたしに頭を下げて、何事もなかったように立ち去っても、あまりのショックで何も感じなかった。わたしは、石段に腰を下ろしたまま、ぼんやりしていた。シグに話しかけられて、ようやく顔を上げた。
「リジオは、嘘つきではありませんよ。人を殺すような人でもありません。ただ、あなたに恋をしてはいなかっただけです。アークもです。──リジオの見つけた薔薇を見に行きませんか?」
その薔薇は純白だった。力強さと可憐さを持ち合わせた匂いを漂わせていた。シグが、わたしをこの薔薇の傍に座らせた。彼は、薔薇を挟んでわたしと向かい合った。
「恋は、片想いから始まります。どんな終わり方をしても、初恋は大切な想い出となります」
 シグの優しい言葉に後押しされたように、たくさん泣いてしまった。しばらくすると、落ち着きを取り戻して笑えるようになった。
「シグは、好きな人いるの?」
「はい。でも、この想いは彼女には伝えられません。私の身分が、想いを伝えることが許されるようなものではないからです」
「辛くない?」
「不幸ではないです。──誰よりも彼女の傍にいられますから」
 朝霧が薄れてきて、彼の顔がはっきりと見えてくる。いつもの優しい笑顔のシグだった。わたしは、片想いなどしなかった。片想いを飛び越えて、両想いになったからだ。すぐ脇の群生している薔薇の後ろから、アークとリジオが満面の笑みで拍手しながら現れた。ラズルも「こんなお芝居は、もうごめんです!」と愚痴りながら、如雨露を片手に現れた。
「お芝居だったの?」
「シグの片想いを卒業させてあげたくてね」と、アーク。
「信じられる? 十五年間の片想いだよ!」と、リジオも続けた。
 わたしは、シグを見上げた。
「わたし、0歳だったんだけど?」
「とっても可愛い赤ちゃんだったんです」
 シグは、幸せそうに頬を染めた。


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