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逢原冴月(あいはらさえつき)さん

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音楽妄想掌編 THE GODDESS

18/08/16 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 逢原冴月(あいはらさえつき) 閲覧数:68

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         ・・・カッチーニの作曲「アヴェ・マリア」によせて
 ぼくはおまえより何でも持っている。ただ一つのものを除いては。
すべての約束された王道はぼくのために開かれる。ぼくにはその資格があるし、あらゆる力がぼくをサポートしてくれる。
おまえと二人、留学の話が来たとき、嬉しかったけど、実はほんの少し悔しかった。
やはりおまえなんだな。皆がその存在に気づいてしまうのは。

 その後、噂好きのクラスメイトが教えてくれた。不幸な出来事がおまえの父親の身に起こったと。
あの子煩悩な男性が、病室で息子にどのように謝ったか、目に見えるようだ。そして、その時のおまえの様子もぼくには手に取るようにわかる。
「平気だから、心配しないで。お父さんは自分の体のことだけ考えて」
おまえはそう応えただろう。そして……
おまえはいつもの、あの目をしたろうな。まっすぐで透徹した、どこか哀しげな眼差し。ぼくの苦手な眼差し。そんな目をしているから、運命にノメされるんだよ。
いつもおまえは透明な表情で、自分の道を行こうとする。

 話を聞いていたから、おまえがここを去ると聞いてもそんなには驚かなかった。留学の話だって立ち消えだろう。
人の不幸を嬉しいと思うほど、ぼくは不幸ではないし、荒んでもいない。でも、ぼくはおまえを憐れむことはしない。だっておまえはぼくが欲しいものをもう手に入れているから。

おまえの周囲の空間が色を変えたことに気づいた時、皆がおまえに喝采した時、おまえが彼らの
心の扉を開いたのだと確信した瞬間……あれがぼくの懊悩の始まりだった。
それはぼくにとっても、心の中の新しい扉が開いた経験だった。後に後悔する経験だった。

 可哀想でなんかあるものか。ぼくが欲しくて仕方がなくて、でもどうしても手に入れられない
ものをおまえは持っているんだから。
これから、おまえの隣にはいつも『あのひと』が寄り添っているんだろうから。
ぼくはずっと憧れていたよ、あのひとに。でも、いつも決定的にすれ違ってしまうんだ。
ぼくの望んだ魂の片割れをおまえは拐って行ったんだ。ぼくはこれから永遠に半身のみで生きてゆかなくちゃならない。お膳立てされ、飾り立てられた舞台の上で半身のみで。

 おまえたちは何も知らない。ぼくはそんな気持ちを微塵も気取られたりしないもの。プライドにかけて。
あのひとはぼくのことを太陽のようにしか思っていない。自惚れで言うのじゃないよ。
明るすぎて、眩しい……あのひとはいつもそんな感じで僕との対話を打ち切ろうとするんだ。ぼくはこんなに求めているのに。

ぼくは昔話の中のミダース王だ。手を触れるものは皆、黄金に変わる。ほんとに欲しいのは、あの、透き通った水晶なのに。
ぼくはそれに触れることは出来ない。きっと黄金に変わる代わりにそれは、粉々に砕け散ってしまうから。

 ぼくは気づいている。おまえの切なさも苦悩も。
何もかもが次元がちがうんだろう、まるで生まれる星を間違えた人のようだ。
おまえの夢も憧れも、愛している世界も分かってくれる人はいない。おまえはそう思い込んでいる。
だけど、あのひとはおまえを望んだんだ、そういうおまえを。それこそが、一番大切な何ものにも優る答えだ。

 最後の日、ぼくは見送りしなかった。でも、校舎の二階の窓からおまえが出てゆくのを見ていた。
おまえはしばらく行って振り返り、窓辺のぼくの姿に気づいて、眩しそうに微笑んだ。あのひとそっくりに。そして、腹立たしくなるほどさわやかに、小さく手を振った。
ぼくは知っている。校門前の坂を下り切ったところで、あのひとが待っている。そして、静かに寄り添って二人は消えてゆく。

 おまえとはどこかでまた会うだろう。その時、ぼくは何を語るだろう。
ぼくの周りの華やかな風景を誇ってみせるだろうか。時とともに移ろう儚い風景を。
おまえの額には明らかに星がきらめいているのに。
その揺るがないポーラスターのような星を目の当たりにして、一体何が僕に言えるだろう。

ぼくにだって身を捧げる覚悟はあるんだよ。
スポットライトを浴びる予定の未来と引き換えにしても、あのひとが傍にいてくれるならと
願ったんだよ。……でも、ぼくは選ばれなかった。
砂上の楼閣に君臨する以外、行く道は無かった。

 ぼくは空っぽの花道を歩き続けてゆく。花吹雪はぼくの中で枯葉に変わる。
どのような賞賛にも満たされることはない。あのひとでなければ駄目なんだ。
時の流れにも風化しない、何物にも壊せないもの。
この世のどんな権力にも屈することはないもの。全く嘘のないもの。
ぼくはわかっているのに。あのひとといっしょに歩めるのでなければ、栄光も賞賛も意味がない。

命を懸けて共に歩む特別な者でなければ、あのひとには愛されない。そう、あのひとは――


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