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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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携帯電話を忘れないでね

13/01/13 コンテスト(テーマ):【 携帯電話 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2929

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「ねえ、亮介、私はA社の秘書、あなたは競争相手のB社の営業部長でしょ。寡占状態にある会社の社員がこのように密会してるって、しかもホテルのベッドの中よ。これって法的にも……罪を犯してることになるんでしょ?」
 阿沙子は、髪を撫でる亮介の手を振り払いながら、ボソボソと呟いた。
「ああ、立ち話しだけでも、価格カルテルの疑いで睨まれるぜ。独占禁止法違反だよ」
 こう言い切った滝川亮介、阿沙子が急に産(うぶ)に見えてきたのか、ぎゅっと抱き締めた。
「そうよね、競合会社の価格情報をUSBメモリーに取り込んで、私なんか役員の机の下に落としておくのよ。それで退社時に、オヤジが独り吐くんだよね、たまたま拾った情報によると、あと1パーセント高くした方が良いんじゃないかってね。これをまた寝物語で話して、その結果、市場では高価格が保たれてるわ。確かに今の生活は保障されてるけど、独禁法疑惑が会社に掛けられたら、亮介と私の艶事(つやごと)、どういう情報交換があったのか知りませんと連中は逃げるのでしょうね。罪だけ被せられて……。亮介、私たちこれからどうすればいいの?」
 亮介は阿沙子にこう問い詰められたが、答えを持ってない。

 亮介には妻と子供がいる。そして阿沙子にも主人と多感な娘がいる。それでも二人は互いの肉体を絡め合わせる仲だ。いわゆるダブル不倫、そのせいか世間にも会社にも負い目がある。
 だが、そんな事態にも関わらず、もっと深刻なのが闇カルテルの使い走りになってることだ。二人の行状が暴かれれば、鉄格子の中となる。
 退職も考えた。だがそれは会社にとって狼を野に放つようなもの。きっと引き留めるだろう。それでも辞めれば、消されるかも知れない。
 他の道は二人の関係を絶つこと。これは会社にとって二人の価値は無となる。後は飼い殺しの窓際に。
 いやむしろ、まんまと嵌められた男女の腐れ縁、二人ともこれに馴染み過ぎた。自らこの縁を断ち切ることができないのだ。

 なぜこんな出口が見つからない迷路に迷い込んでしまったのだろうか。それは阿沙子が撮った一枚の写真から始まった。
 ある朝、阿沙子が出勤すると、デスク上に一通の書類が放置されていた。数字が並び、極秘1級の判が押されてある。よく見ると新商品の価格リストだ。阿沙子は驚いた。とにかく秘書であれ読むことは許されない。阿沙子はなぜここにと一旦思ったが、朱印に危ない誘惑を感じた。背任に胸が高鳴り、こっそりと携帯電話で文書を写した。
 そしてその夜業界の会合があった。阿沙子は役員の世話で同行した。もちろんB社の亮介も同立場で来ていた。
 阿沙子は亮介がやり手の営業マンであり、眩しい印象を持っていた。だがすれ違いざまに、ご苦労様ですと声を掛けるくらいなもの。競合同志が挨拶以上の会話をすることは独禁法上御法度。遠くからその立ち居振る舞いを眺めるしかない。
 だがその日は違った。会合が引けた後、上司から「ホテルの部屋に、あっちの価格表を忘れた。取りに行って欲しい」と頼まれた。阿沙子はこの「あっち」の意味がわからない。それでもとにかく「承知しました」と部屋へと向かった。
 そして阿沙子はド肝を抜かれることに。部屋に亮介がいたのだ。
「なぜ、ここに?」と尋ねると、亮介は目を白黒させ、「あっちの価格リストを忘れたと役員から言われて、ここに」と。
 二人ともこれで腑に落ちた。要は相手会社の価格リストを持って帰って来いということなのだ。部屋にはPCが用意されてある。阿沙子はケイタイの写真をUSBメモリーにコピーし、亮介に手渡した。そして亮介もB社の極秘文書を他のメモリーに貼り付けてくれた。それを持ち帰った阿沙子、翌朝、上司のデスクの下に落としておいた。この辺が上級秘書の技なのかも知れない。
 その後というもの、二人は時々情報交換のため秘密裏に会うようになった。だが互いに好意を抱いていた二人、業務の枠を超えてしまうことに。ねんごろの仲になるのにそう時間は掛からなかった。
 もちろん会社にとっては目論み通り、愛欲に縛られた会社の犬に、二人をしてしまったのだ。

 仕組まれた愛ではあった。それでも抱かれたまま「私のこと、好き?」といじらしく訊く阿沙子。亮介はその返事の代わりに、人差し指で阿沙子の唇に触れてみる。柔らかい感触が伝わってくる。
 そんな時に、ドアがピンポーンとなり、大きな声が轟いた。
「捜査当局です。ドアを開けてください」
 亮介は無言で阿沙子に軽いキスをした。そして「この迷路から抜け出せる出口がやっと見つかったよ。さっ、二人でそこの窓を突き破って、向こうの世界へ行こう」と促した。
 この言葉に阿沙子は大きく頷いた。そして秘書らしく、亮介に助言する。
「向こうは不便そう、だから携帯電話を忘れないでね。行ってらっしゃいませ」


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このストーリーに関するコメント

13/01/13 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

これは大人のラブストーリーですね。
なかなか艶っぽいお話でした。

向こうの世界って・・・もしかして!?

13/01/14 石蕗亮

鮎風遊さん
拝読いたしました。
いつもながら男女間の描写がすごいですね!
このまま答えの無いままでも良かったような・・・・・。

13/01/14 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございます。
向こうの世界って、窓の外です。
だから、女は行ってらっしいと。

最後の下りをもうちょっと書き加えたいかな。
女の言葉に、これが最善かも、って。
だけど2000文字に収まりませんし……。

13/01/14 鮎風 遊

石蕗亮さん

ありがとうございます。

そうですね、ちょっと最後を書きすぎましたかね。
書き足したいところもあり、書きすぎるんも余韻が残らず、
ホント難しいものです。

捜査当局です、と言ったところで終われば、
いろいろとその後の想像が膨らみますよね。

男より女の方が現実的というところを表現したかったのですが、
くどくなったかな?

ありがとうございました。

13/01/14 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

大人の、それも策略の愛ですか。でも当事者はお互いを気遣っている。そういうとこが、また大人なのでしょうね。

携帯を忘れないで、でもね、向こうは……ですよね、意味深な終わり方ですね。

13/01/16 鮎風 遊

草藍さん

この女にとって、男が消えてくれることが最善だったのかも知れません。

大人というより、悪がなせる技でしょうか?

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