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鞍馬 楽さん

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大切な話があるんだ。

18/08/15 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 鞍馬 楽 閲覧数:156

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 葉書の裏に印刷された地図を見直して、目の前にあるペンション風の建物を眺める。
 思っていたよりも、会場はずっと落ち着いた雰囲気だった。大衆酒場のような場所を想像していたが、どうやら予想は外れていたようだ。
 思わず口角がつり上がる。騒がしいよりは、こういう雰囲気のほうがずっと好みだったからだ。はやる気持ちを抑えきれず、丸太を模した階段を駆け足で上って入り口の扉を開く。
 広いフロアには、かなりの人数が確認できた。
 個人が開催した同窓会にしては、手が込んでいる。俺は素直に感心した。

「お、来たわね。純一」

 懐かしい声が聞こえた。

「久しぶりだな。葵」

 こちらに寄ってきた女性に、軽い調子で挨拶をした。
 黒縁のロイド眼鏡に、くせのついたショートボブの黒髪。大きな栗色の瞳……昔と何も変わっていなかった。
 俺と葵は、幼少期からの腐れ縁である。大学進学を機に県外へ出たのをきっかけに、しばらく疎遠な時期が続いていたが、同窓会が開かれることが決まった数か月前から、再び連絡を取り合うようになっていた。

「いてっ」
「もう、遅いっ。とっくにみんな来てるわよ」

 鼻の頭を指で弾かれ、俺は涙目になりながら葵の後ろをついて歩いた。勝気な性格の葵にはいつも頭が上がらなかったが、そんなところも昔のままだった。
 等間隔に並んだテーブル席の一角に、自分のクラスの集まりがあった。

「よっ、純一。遅刻癖は健在のようだな」
「うるせえ」

 悪戯な笑みを浮かべて肩を組んできた道彦に、同じく笑みを浮かべて言い返す。
 どっ、と笑いの渦がテーブルを包んだ。
 道彦の他にも、共にバカなことばかりやっていた面々がずらりと首を揃えている。思い出話が尽きることはなさそうだ。

「久しぶり、純一くん」

 その中でも、一際目を引く存在がいた。
 艶やかなロングの茶髪に、長い睫毛を携えた眼。そこらの女優にも負けない美貌の持ち主……茉莉だ。

「……ああ、久しぶり」

 俺は絞るように声を出した。
 ……やはり、来ていたのか。
 茉莉は俺が三年もの間、片想いを続けた相手だった。卒業を間近に控えたあの日……見事に玉砕したあの告白の瞬間は、今でも脳裏に焼き付いている。
 気まずさを拭いきれず、茉莉とはそれっきり言葉を交わさないまま、時間が過ぎていった。

 *

 星が瞬く夜空に向けて、煙草の煙を吐き出した。
 このレストランは基本的に禁煙だったが、唯一南側に設けられていたバルコニー席では、喫煙が許されていた。手すりに腕をかけて、俺は一人物思いに耽っている。

「なにやってんの。こんなところで」

 ふと、背後から甲高い声が聞こえてきた。

「考え事だ」
「ふーん……」

 葵は俺の右隣りに陣取って、手すりを背にしてしゃがみ込む。
 暫くの沈黙のあと。

「あんたさ、まだ好きなんでしょ。茉莉のこと」

 葵は囁くように言った。

「えっ?」

 思わず裏返りぎみの声が出る。

「分かりやすいなぁ、もう。引きずってるのバレバレ」
「そ、そんなわけないだろ」
「あのときはしょうがないわ。茉莉は好きな人がいたのよね」

 葵は眼鏡の位置を直して、立ち上がった。
 人差し指を俺の眼前に突き立てて、子どものように歯を見せて笑う。

「でも大丈夫。茉莉ね、彼氏とは別れたらしいわ。攻めるなら、今しかないよ」

 そう自信満々に宣言し、葵は俺の再告白計画を練り始める。そんな彼女の姿を見て、ひどく懐かしい想いに胸が苦しくなった。
 ──ああ、同じだ。
 あのときと、全く同じ。
 思い返せば、いつもそうだった。ガキの頃、逆上がりが出来なくて補習になったときも、近所のいじめっ子と遊び場の取り合いになったときも、部活が思うようにいかなくて辞めることを考えたときだって。葵は……なんの得にもなりはしないのに、いつもそばにいて、こんな俺の背中を押してくれたんだ。
 夜空に瞬く星々は、いっそう輝きを増している。それに呼応するように、心臓の鼓動は際限なく高ぶっていく。そう、葵の言う通りだ。チャンスは今。今なんだ。

 いつしか、同窓会はお開きの時間になっていた。
 次々と店から出ていく同級生たち。中には、二次会に出発する者もいるようだ。
 丸太を模した階段を下りると、タクシーでも待っているのだろうか、道端に佇む茉莉の姿が見える。

「ほらっ。頑張りなさい」

 俺の背を葵の小さな手が叩いた。
 俺にもう迷いはなかった。とる行動は既に決めていた。
 そう、まずは勘違いを正すところから。
 振り返り、俺は葵の肩にそっと手を添える。

「……へっ?」

 掌に体温が伝わると同時に、半開きになった口から驚きの声が漏れる。彼女の頬にさっと朱みがさすのを見届けて、俺は言った。

「大切な話があるんだ。葵」


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