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笹原 琥太郎さん

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堂々巡り

18/08/12 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 笹原 琥太郎 閲覧数:117

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 肩を叩く、影の中から。人は振り返る、そして首を傾げ再び歩き出す。その瞬間、影で覆い尽くし体内に取り込むだけ、それだけ。

 真っ暗闇の体内で、問いかける。「叶えたい願い、あるんだろう」醜い欲を、曝け出してしまえよ。囁きに怯えるように、暗闇を手探りで歩く。道なんてない、扉なんてない、歩いてなんかない。全てはただの、思い込みにすぎない。
 泣き出した人間が蹲り、神の名を呼ぶ。「願いを、叶えてあげよう」優しげに神は問いかける。「聞かせてごらん」理性の保てなくなった人間は生命をこう。
 「違う、」声に、人間は驚く。「違う、本能の願いじゃない」続ける。「理性の願いを教えてごらん」続ける。「君が普段、願っている願いだよ」そう、貪欲だよ。
 戸惑いがちに、人間は声を出した。「会いたい、」

 ぴ、と鳴る、ぴ、ぴ、ぴ、一定の間隔で。過去の中へ潜り込み、静かに微笑む男に近づく。目の色、髪の色、ふうん。確認が終わると、すぐに過去を飛び出した。

 明くる朝、あの男と同じ容姿で、人間に会いに行った。不自然さを少しでもなくそうと、優しげな手で抱きしめると、人間は幸福そうに笑った。
 
戻ってくるわけもないのに、人間は喜んで恋人ごっこを受け入れた。手を繋いだり、抱きしめたり、時には愛欲を満たしたり、過剰に褒めてやったり。それから、気の利く男だったから、朝ご飯は必ず用意した。十分程度で出来る簡単なものなのに、異様に喜んだ。人間は、おかしい。けれど、調子を合わせた。

 「戻って来てくれて、嬉しいの」或る晩、裸で抱きしめあいながら、人間はいった。心の中では、ふうん、と思っていたけれど、ニコニコと笑った。

 悪魔は夢を見るのか。夢ではなく、過去を見ると、いえばいいのか。眠り自体、真似事のような気がする。けれども、合わせなくてはならないから、真似事を続けていたら、過去を見るようになった。

 壁に映る影。人を亡くした人間の影に入り込むのは簡単だった。まだ、覆わない。今はまだ、見ているだけだ。

 数か月経ったある朝、でかけてくる、と綺麗な恰好をして人間が出て行った。そのまま、人間は帰って来なかった。

 ベッドに潜り込む。悲しさはなかったし、人間なんてそんなものだと思っていたからだ。

 「もういないって、本当はわかっているの」でも、もう少しだけ。そう囁いて、背に腕を回す。あの男の顔で微笑み、首筋にキスを落とす。「好きだよ」人間は何かを捨てるように繰り返し呟いた。

 影に潜り込んでから、どれだけ経ったろう?夜毎に増していくのは、手に入れたい衝動だけで、もう、壊してしまおうかと思った。なんでもいい、依存でも、精神破壊でも。

 目を開く。まだ真夜中だ。「誰だ」ベッドの傍に立つ、人影。いや、本当に、人か?電気が付けられる。眩しさに、目を細めた。
 同じ姿をした、何かがいる。じっと、見つめた。「僕はいるよ、何時だって」
 「知ってたよ。知ってた。でも、」でも?と秀麗に笑って、促す。「悪魔になってでも、取り返したかった」悪魔に奪われた人を、そう口にすると、声をあげて悪魔は笑った。「奪った覚えなんてないよ」悔しげに噛みしめた俺を見て、より一層、悪魔は嬉しげな顔をした。


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