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hayakawaさん

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彼女のいる部屋の中

18/08/12 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:302

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「おはよう」
 耳元で彼女が問いかける。
「もう仕事に行く時間だよ」
 優しい声が耳元に響きわたる。僕は目をぱっちりと開ける。窓の外から日差しが射しこんでくる。2LDKのマンションの一室で僕は目を覚ました。目の前にいる彼女はすっかり、仕事に行く身支度を整えている。
「おはよう。今起きる」
 僕はベッドから身を起こす。どことなく体がだるい。毎朝、起きるたびそうだった。
 身を起こして彼女の用意した朝食を食べる。朝食はパンとサラダと目玉焼きだった。
 僕はまるで一つ一つを確認するようにそれらを食べた。
「朝から調子悪そうね」
 彼女はそう言った。
「確かにあまりよくないね」
 僕はそう言って笑った。
「私はそろそろ仕事に行かなくちゃ」
 彼女は食品会社の営業をやっていた。僕はアルバイトで塾の講師をやっている。僕は目覚めるたびに彼女が調子がよさそうなのを見て安心する。
「じゃあ、仕事行ってくるね」
 彼女はそう言ってスーツを着て、部屋を出て行く。僕は午後から夜まで仕事だった。
「いってらっしゃい」
 僕は精一杯の笑顔で彼女にそう問いかける。彼女のいない部屋で一人、朝食を食べた。なんだかおいしいのに味を感じない。
 彼女の魅力も僕には薄れて見えた。僕はふいに寂しくなった。
 朝食を食べ終えると、僕は食器を洗った。アルバイトで暇な時間が多い僕は家事をやることが多かった。
 一人になると僕は彼女のことを思い浮かべる。彼女の残像が頭によみがえってくる。皿を洗いながら、僕は彼女のことを考えていた。
 皿を洗い終えると、僕は洗濯をした。今日は快晴だった。窓の外から強い日差しが射しこんでくる。洗濯籠の中の衣類を僕は丁寧に干した。
 初夏の日差しを浴びながら、僕はマンションのベランダから街並みを眺める。車が遠くを通っている。様々な人が働いている。そんな様子を見ていると、僕は自分自身がこれでいいのかと自問した。
 このままアルバイトで塾の講師をやっていって、将来はどうなるんだろう。特に夢もないし、やりたいこともない。ただ今の生活に満足しようとしている自分。
 昼ごはんは近くのイタリアンの店で食べた。主婦と思われる女性二人が隣の席で話をしていた。
 午後に僕は塾のアルバイトに出かけた。
「こんにちは」
 同僚の大学生に声をかける。
「こんにちは」
 大学生はいかにもやる気がありそうな学生だった。
「君は確か高校の教員を目指してるんでしょ?」
 僕は休憩室でそう問いかける。
「そうですよ。大学卒業したら教員になる予定です」
 彼ははきはきとそう答えた。
 講義が始まると、僕は六人の中学生に問題の解き方を教えた。皆黙って僕の話を聞いていた。
 夜に部屋に帰ると彼女が待っていた。
「おかえり。夕食作っておいたよ」
 テーブルの上にはカレーとワインの瓶が置いてあった。
「一緒に食べようか」と僕は言った。
 食事をして、二人でワインを飲んだ。
「私のこと好き?」
 彼女はふいにそうつぶやいた。
「好きだよ」
 自分の放った言葉が自分でも嘘くさく感じた。
「私も好き」
 その言葉はどうやら本音のように聞こえた。きっと彼女は僕にこの先も片思いをし続ける。
 僕は恋をしたことがない。彼女と一緒にいるのは彼女に興味を持ったからだった。
「今日は仕事、すごく暇だったの」
 彼女はそう言った。
「すごく頑張っているみたいだね。応援してるよ」
 僕の放つ言葉はどうも心と離れている。心はどうやら乾いたままだ。それでも僕は精一杯彼女のことを愛していた。極力、優しく接しているつもりだった。
「僕と一緒にいてくれてありがとう」
 僕は本音をつぶやいた。
「急に何?」
 彼女はそう言って笑った。
「君と過ごしているとなんだか安心する。自分がここにいてもいいんだっていう気がする」
 僕はまた適当なことを口にしたなと思った。
「別にいいわよ。そんなこと言わなくて。私はあなたと一緒に過ごせて幸せよ」
 彼女がそう言って微笑んだので、僕もなんだか嬉しくてそれで、少し怖かった。きっと本音を全て話してしまえば彼女はいなくなってしまう。それがすごく悲しい。でもそんなことにも慣れている自分がいる。
 食事が終わると二人でテレビを見た。テレビを楽しそうに見ている彼女を見ていると、なんだか居心地が悪かった。
 本当に僕は変な性格だと思う。彼女は僕に寄り添ってきた。僕はそういう彼女の行動や言葉を半信半疑に受け止めていた。
 窓の外は真っ暗だった。僕は寝る前に外の景色を見て、そして本当に自分はこの世界にいるのだと再確認した。


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