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向本果乃子さん

目をとめて読んでいただき嬉しいです。読者としても、自分には書けないジャンル、アイデア、文体がたくさんあって、楽しみながらも勉強させて頂いてます。運営、選考に携わる皆さんにはこのような場を設けて頂き感謝しています。講評はいつも励みになります。

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永遠に片思い

18/08/09 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:1件 向本果乃子 閲覧数:100

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 初めからこの想いは一方通行。願うのは、いつか誰かを愛するあなたの幸せ。

 今日も私の部屋のHDDはフル稼働。ドラマにバラエティに歌番組。録画してもいつ観れるだろう。溜まった雑誌の切り抜きもしたいし、まだ一回しか観ていない去年のコンサートDVDだってリピしたい。

 中学二年になった瞬の部屋から電話で話す声がする。
「母親がアイドルにはまってるとか恥ずかしいよ」
 私は廊下に掃除機をかけ始める。そりゃ恥ずかしいよね。二十年前、いや五年前だって自分がアイドルに夢中になるなんて想像もしなかった。若い時は恋愛や仕事に、息子が生まれてからは育児に夢中だった。それが今ではアイドルグループAのことばかり。39年の人生で初めてファンクラブというものに入った。CDやDVDを買うためにパートを始めた。寝る時間を惜しんで録画した番組やDVDを観る。仕事で帰りの遅い夫とは瞬の夜泣きが大変な頃から寝室が別だった。そして今私の部屋はAで溢れている。自分の部屋をもてる家に住んでパート代を全部Aにつぎ込めるのも夫が朝から晩までどころか週末まで出張だゴルフだと働いてくれるおかげだ。仕事で成功することが家族のためでもあると信じる夫の稼ぎで瞬も中学から私立に通うことができている。結婚して十五年。私たちはお互いを必要とし大切に思っている。

 瞬の中学受験が終わった時のことを思うと今でも胸が苦しくなる。泣いて喜んでお祝いしたその夜に、参考書を整理しながら全ての気力が抜け落ちていったあの日。小三から始まった中学受験が終わった。気づけば息子はママにべったりつきまとう時期を過ぎていた。参考書を積み重ねながら突然ポロポロと涙が流れて呆然とした。妊娠して仕事を辞めてから瞬を育てることが生きがいで私の存在意義だった。瞬が満たされていること、それが私がやるべきことをやれている証だった。瞬が憧れの中高一貫校へ入学し、やりたいことを思う存分やっている今、私の仕事はほぼ終わったようなものだ。あとは適度な距離で見守ることしかできない。何かあったらいつでも助けになれるように、けれど瞬が自分の人生を自分でしっかり歩いていけるよう、口や手を出すのは最小限に。あの日、喜びと同時に私を満たしたあの寂しさを思い出すと、今でも息が止まりそうになる。

「Aの何がそんなに好きなの?」
 瞬と一緒に歌番組を見ながら夕飯を食べていた。
「もっと若くて格好いいアイドルもいるじゃん」
 確かにAはもう皆三十を超えている大人のグループだ。若い子に比べれば肌も体つきも全然違う。
「幸せな気持ちになるんだよ。子供の頃から一緒に成長してきたAの五人が愉しそうに仲良くしてるのを見てると、平和で穏やかで幸せな気持ちになるの」
「格好いいから好きなんじゃないの?」
「格好いいのはもちろんだよ。瞬もそのうちこんな格好良くなるかなと想像したり」
「は?」
「いや何でもない。でもね、格好いいだけじゃないんだよ。全く違う個性や考え方の五人がお互いをリスペクトして、自分のいいとこを見せようとするんじゃなくて、メンバーのいいところを引きだすことに喜びを感じている気がするの。だから五人一緒にいる時が一番輝くし、見ていて幸せになれる。何かこの世にあり得ない美しいものを見せてもらってる気がするんだよ。瞬のサッカーチームもそんな関係になれたらもっと強くなるんじゃないかな」
「アイドルなんてどんなに想っても空しいだけじゃん」
「同じように想ってもらおうなんて妄想でも望んでないもの。幸せでいてくれたらそれでいいの」
「キモっ」
「そうよ、キモいほどの想いなの」
「じゃあお父さんへの望みは?」
「えー、それは私が想う以上に想ってくれないと嫌だな」
「それって愛が足りないんじゃない?」
「きれいごとじゃない、泥くさいけど深い愛です」
 私はふふんと笑う。テレビの中ではAの五人がハモりながら踊っている。
「奇跡みたいな仲間と一緒に愉しそうに笑い合って、陰ではいっぱい努力して真摯に仕事に向き合って、いつか誰かと恋をして家族を作って幸せに輝いて生きていくのを見ていたい。そのためにずっと応援したい」
「結婚してもいいんだ?」
「幸せならいいよ」
「本当に好きなの?」
「何で?」
「好きだったら誰かのものになるの嫌じゃない」
 私は瞬を見つめる。
「何?」
「瞬もそんなこと言うようになったんだ。好きな子でもできた?」
「は?」
 耳を真っ赤にしてご飯を詰め込む瞬を見る。
「誰かのものになったって、私より大切な人がいたって、幸せそうに頑張るきらきらした姿を見せてくれるならそれだけでいいよ」
「永遠に片思いじゃん」
 つぶやく瞬を私は見つめる。
「でも、それが私の幸せなんだよ」

 初めからこの想いは一方通行。願うのは、いつか誰かを愛するあなたの幸せ。


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このストーリーに関するコメント

18/08/16 みゆみゆ

私自身のことのようで読みながらニヤニヤしてしまいました。片想い経験の入り口に立ったばかりの瞬くんの、「は?」が可愛かったです。

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