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うたかたさん

どこにでもいる高校生です!

性別 男性
将来の夢 安定した職に就くこと
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いつの日か

18/08/05 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 うたかた 閲覧数:50

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 その日、俺は草原の上をただ一人彷徨っていた。周りに広がる生え始めの草木は、心地よい風に微かにすらされている。辺りは紅の日差しに塗りつぶさせれ、途方もないこの旅路に終焉を告げようとしていた。日の入りはもうまもなくである。
 君は確かに言った。この山を越えた向こうにいると。しかし、実際はどうだ。町どころか人すらいない。さらに言えば動物の姿さえ全く見えないのである。
 俺の衣服は、冷たさを保った北風に吹かれる。遂には脚が悲鳴を上げ始めた。その場に座り込み、仰向けになった。既に一番星が夕景の飾りになっていた。
 静かに目を閉じた。



「ねえ、起きてよ……ねえってば」

「え……」

 辺りはすっかり暗くなっていた。君は僕の顔を不思議そうに見下ろしていた。風に揺れる前髪を気にしながら。

「なんでいるの⁉」

 驚きのあまり、自分の気持ちに反した言葉が出てしまった。
 頭がぶつからないように静かに起き上がり、もう一度君の顔を確認した。
 間違いない。君で間違いなかった。

「えへへ、ちゃんと探したんだよ」

「よかったよ会えて」

 このただただ広い草原の中で一人寝ていたところを見つけ出されるなんてことはありえないことだと、あの時に気付ければよかった。
 辺りからしていた草木がこすれる音はいつの間にか止んでいる。夜空には下弦の月と数えきれないの星々。幻想的な風景に俺は圧巻されていた。君の存在と相まって。

「なんで急にいなくなったの」

「だって、しょうがないじゃん」

 君がいうのならこれ以上のことは聞かないようにしようと思った。そこまで信頼していたはずなのに、あの時に聞いておけばよかったと後悔している。
 君は少しむっとした表情を浮かべながら月明かりに照らされている。夜空を見上げて俺のことには気を向けていないようだ。
 それでもいい、そう思えてならなかった。会えただけでも十分なのだ。

「この後はどうするの」

 俺は左腕を頭の後ろに回し、再び仰向けになった。
 美しい星空のスクリーン。一つひとつの揺らぎがその壮大さを増幅させている。右側で君はつまらなそうに答えた。

「んー、町に戻らないとかな」

「そっか、そうだよね」

「うん」

 軽い会話はすぐに終わってしまう。次の言葉を探し始めた俺は、君の表情が見えないことを悔やんだ。そして、少しでも涙を浮かべてくれていたら、と哀れな願望さえ浮かんだ。
 月明かりだけが頼りの草原は、全くの静寂に包まれている。なぜか、涙がこみ上げてきそうになった。
 君との別れを惜しんでいるわけではない。ではなぜなのか。その答えは自分でもわからない。

「また、会えるよね」

「うん、絶対」

 俺がそう答えると、君はこっちに顔を向けた。その表情は、月明かりを背景にしてはっきりとは見えなかった。しかし、君の瞳が月明かりを揺らしていたように見えた。きっと、笑顔であったに違いない。
 次の言葉を口にしようとした時、俺は倒れるようにして気を失ってしまった。



 目を覚ました。辺りは未だ紅に塗りつぶさせていた。日も沈んでおらず、唯一の変化とするならば、二番星が表れていたことぐらいだろうか。
 身体を起こす。地面の感触を残した背中は冷たい風に撫でられる。あれから一日中寝ていた様子はない。君に会えたのは夢だったのか。
 ふと、君のいた右隣を見る。そこの草は誰かが座っていたかのように、形が崩されていた。
 俺はもう一度左手を頭の後ろにやり、仰向けになった。これから、君と見た夜空が目の前に広がるのだろうと考えた途端、涙が零れ落ちた。
 忘れることはない不思議な想い出だ。


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