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55さん

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打倒! ブラックチョコレート

18/08/01 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 55 閲覧数:284

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 チョコレートはブラックから食べるようにしている。待って、僕の話を聞いてほしい。

 真夏のあの日、僕の家の冷蔵庫にはバラエティパックが冷やされていたんだ。ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、ブラックチョコレート。大学の試験も終わり、やっと夏休みに入った時だ。蝉の鳴き声が室内まで届いて暑さを煽る、あの光景を思い浮かべてほしい。

 僕は甘いものが好きだ。子供の頃からずっとそうで、齢を重ねて更に好きになった。人目を気にせず喫茶店でパンケーキを頼む僕だから、チョコレートの食べ方を恥じたりなんかしない。ホワイトが一番好きなんだ。僕にとってブラックは倒さねばならない敵であるとさえ言える。いつものようにバラエティパックの中身を漁って、ホワイトは奥に押し込み、ブラックを手前に引き寄せて整理していた。
 そこで、インターホンが鳴った。冷蔵庫のドアを開けたままだったから、ワンルームの自室から扉を一枚隔てた高温多湿なキッチンに、冷えた空気が挙動不審に混ざり込んでいた。思い出したんだ。僕は宅急便を頼んでいた。
 即日配達を指定したその荷物が楽しみで、短い廊下を走るように玄関ドアに手をついた。鍵を開ける間に、外の配達員が荷物を持ち直す擦れ音がした。中途半端に冷えたドアノブを握って押し込んで開ける。外に繋がって室内を上回る殺人的な熱気に触れると、見えたのは生白い腕だ。

「お荷物です」そう言ったのは女性だった。今どき、配達員に、女性。むしろ時代の風を感じている。今のご時世男女は平等、フェミニストという言葉すら聞かない。頼んだ荷物の中身はかき氷のシロップだ。今どき、大学生が、かき氷なのである。コンビニに行けばいくらでもアイスが売っているというのに、僕はキンキンに冷やしたチョコレートを齧りながら、キンキンに冷えたアイスミルクティーを飲み、最後の締めに自らかき氷を削って、既に冷えた口の中に甘ったるいシロップ漬けの氷を大量に詰め込むのが好きなのだ。
 何にしろこの生白い腕の女性に、重たい荷物を持たせなかったことに、僕の小さなフェミニズム欲求が満たされた。彼女に求められるべきは、おそらく重い荷物を運ぶことではない。軽い荷物も誰かが運ぶのだから、それを体格に従って分け、最終的に同じ時間で配り終えることこそ真の平等と言えるのではないか。とか何とか、授業後に教授の前で言ってみたら、教授は露骨に嫌悪感を浮かべて、「偉そうに」という視線をくれた。

 そんなことはどうだっていいんだ。つまり僕の話の本質は、「彼女の目が酷く腫れていた」ということだ。

 今どき、そんなことあり得るか? 人との繋がりが極端に薄い東京都心の安マンション、彼女無し予定無し成績悪しの僕の部屋に、額に汗を滲ませた薄化粧の女の子が助けてくれと言わんばかりの顔つきで佇んでいる。直感でわかった。僕と彼女は趣味が合う。こんな時期にこんなバイトをそんな状態でやるような彼女、悪趣味でないわけがない。
 僕は荷物を受け取ると、「ちょっと待って」と爽やかに伝えた。人間の緊張の根本は生命の危機であって、僕に危害を与えると思えないこの子に対して、例え女性であったとしても緊張なんかしない。冷蔵庫のドアが開けっぱなしになっていた。気付かなかったけれど、早く閉めろとピーピー泣き喚いている。僕は目を腫らしてしまいそうな冷蔵庫の中に腕を勢いよく突っ込んで、”ブラックチョコレート”を取り出した。

「これ、あげる」
 最高に格好良い声が出た。彼女は一口サイズ小包装のチョコレートを三枚受け取った。これが僕の最近の、一番の話なんだ。最大の敵を倒し、彼女を救い、僕はミルクチョコレートを食べる権利を得た。レベルアップしたのだ。
 ところが彼女はなんとなく曇った顔つきをして、手のひらの上の小さな袋を見つめていた。早く食べないと、氷のような鋭い舌触りがまろやかになってしまう。僕は落ち着かなくなってきて「嫌いだった?」と聞いてしまった。聞いてくれ。これが最大の間違いだったんだ。

「私、ホワイトチョコが好きなんです」
 生白い声だった。僕は馬鹿だった。”彼女と僕は、趣味が合う”のだ。

「これ、お返しします。ありがとうございました。また配達に来た時はよろしくお願いします」

 彼女は丁寧に頭を下げ、謙虚な姿勢で帰って行った。僕はしばらく呆然と立ち尽くしてしまった。もうわかるだろ? 僕は”おちて”しまったんだよ!


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