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とむなおさん

とむなお――です。 ちょっと奇妙な小説を書きます。どうぞ宜しく!

性別 男性
将来の夢 作家
座右の銘 ふしぎ大好き

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一輪の教え

18/07/25 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 とむなお 閲覧数:555

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 ある夏の終り――

 巨大な台風が上陸し、僕が住んでる街も洪水に襲われた。
 普通のサラリーマンで、独身の僕が住んでいる街の近くの川も決壊し、大量の水が押し寄せた。

 この地域の、ほとんどの家屋は浸水被害や倒壊被害にあった。
 中でも僕の自宅と隣の廃屋は、最も低い地域に在ったため、倒壊はしなかったが完全に床上浸水した。

 特に僕の寝室は、最も低かったため……
 朝、目覚めると、ベットのすぐ横は小物類がプカプカ浮いている状態で、まるで池だった。

 水が大キライだった僕は、ベッドから降りて、水の中を歩いてドアまで行くなんて、絶対にイヤだった。
 ――ので、僕は、ベッドから思い切りドアに向かって跳んだ。
 こうやって、少しはマシなキッチンで、なんとか食事できた。
 テレビのニュース番組を見ると、北部の地域の中には、全壊した家屋が何軒かあるようだ。

 やがて浸水は、徐々に引いていった。
 が、後の始末は、なかなか個人では無理だったので、役所に相談に行った。
 すると係の男は、
「家屋が全壊した方が最優先となりまして、順に進めていますので、お待ちください」
 その言い分も、もっともだが、僕も困っているので、
「分かりましたが、出来るだけ早くお願いしますよ!」
 と、はっきり言って、ホームセンターに向かった。

 僕はそこで、スコップなどの道具を買って帰った。
 目的は無論、めちゃくちゃになった床等を撤去するためだった。

 僕は、作業を明日以降にすることにして、夕食を済ませると、就寝しようとした。
 ……すると何やら、ささやく声が聞こえているのに気がついた。
 それは隣の廃屋からで、
『困ったわ……。突然、洪水に襲われたから、この家に逃げ込んだけど……。食事も何も出来ない……』
 それは、どう考えても若い女性の声だった。
 僕は、一考すると、さっきの夕食の残りを器に取り、お茶をペットボトルに入れ、それらをビニール袋に入れると、隣の廃屋の窓の、破損した所から中に入れてやった。

 しばらくすると、その女性らしい声で、
「あら、嬉しいわ……。できれば液体の物がほしいな……」

 翌日、僕は、会社からの途中、スーパーに寄ると、その女性用にジュース類を買うことにした。

 そんな見えない相手に、食料を届けるという奇妙な生活が、こうして始まった。

 僕は、自分の食事の後、夜中になってから彼女への食事を、いつもの方法で届け続けた。
 すると、その後で、しばらくしてから、
『どなたかは分かりませんが、ありがとう御座います』

 そして翌朝、僕はウキウキした気分で出社するのだった。

 これがキッカケで、彼女と仲良くなれればイイな……と、いつも想っていた。

 しかし、なぜ彼女は、僕の家に入らなかったのかな……?
 と思ったが、それは、やはり独身女性だからだろう……と理解した。

 そんな奇妙な同居生活が始まって、数日たった頃――
 僕は、ついに我慢できなくなった。
「もう、そろそろ対面しても良いだろう……」

 ところが翌日、仕事から帰ると、自宅の周りが騒がしかった。
 何人もの作業員が来ていて、業務用の大型車両もあった。
「お待たせしました。ようやく順番がきましたので、隣の廃屋を
撤去してから、お宅の見積もりにかかります」
「えっ、今日ですか?」

 僕は当然、あわてた。
 が、拒否する訳にもいかなかった。
 僕は、いそいで廃屋の玄関に回ると、彼女が出てくるのを待った。

 ブルドーザーが、見る見る内にその廃屋を崩していった。

 屋根などが全て崩れ落ちても、彼女は現れなかった 。

 僕は、作業が終了してから急いで、あの声が聞こえてきていた部屋の所に行ってみた。
 そこには、一輪のバラが咲いている1本の枝が、無残な姿を見せていた。

「……そう言えば、学生時代に片思いだったあの子……バラが好きだったっけ……。元気にしてるかな……?」

 僕は、自宅の見積もりが済むと、自室に入ってスマホを取り出した。
 片想いだった、その子の電話番号を訊こうと、旧友に電話するためだった。


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