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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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コエテル

18/07/23 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:191

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 コエテルはこの地上で、最大のいきものだった。姿かたちは人間のようだが、その大きさたるや、まさに山のようだった。
 じじつ、あたりにすむおおくのいきものたちは、かれを山か丘ぐらいにおもって、なにもしらずにそのうえを、歩いてゆききするぐらいだった。
 コエテルが子供のころは、それはよくたべた。草も木の葉も樹木も、クマも馬も猪も、ときには象を、海にはいってはクジラを、まるごとわしづかみにしては、口のなかにほりこんだ。水もよくのんだ。空になった池があったとしたらそれは、コエテルが一晩のうちにのみほしたからにほかならない。おかげでコエテルは、いまのように山のような姿にそだったのだった。
 それからもほしいままにたべつづけていたら、この地上からいっさいの植物も動物も遠からず消滅していたことだろう。 そのことに気がついたコエテルは賢明にも、動物たちを追いかけることはやめにして、かれのすむ森に繁る、木の葉だけをたべることにした。その木の葉も、日に日に減らしていって、いまでは数枚たべるだけで生きてゆくことができるようになった。そのかわり動作はじつにスローモーになって、ほとんど一日じゅう、おなじところにじっとしていた。
 動くことをやめてからというもの、コエテルは、川の流れを目で追いかけたり、夜は満天にちらばる星を数えたりしながら、できるだけ省エネ生活をつづけるようこころがけた。
 そんなときだった、ひとりの少女がコエテルのいる森のなかにやってきたのは。
 少女は、川のほとりにしばらくたたずんでいたが、そのうち岸辺に咲く草花をつみはじめた。
 コエテルはそっと、できるだけ人目につかないようにしながら――おお、それは不可能というものだ――少女のいるところにちかづいていった。
 いたずらにコエテルを恐れる人間たちは、めったにこの森をおとずれることはなかったので、コエテルは少女をものめずらしげにながめた。
――なんてかわいらしいんだ。
 コエテルがじっと彼女をみつめていると、その気配をさっしたのか、彼女のほうもこちらに目をむけた。
 コエテルはたじろいだ。じぶんの姿にてっきり、彼女がこわがるとおもったのだ。とっさに岩山の背後に身をかくすと、そのまま少女がかえっていくまでじっとしていた。
 これまで意識して人間たちを遠ざけてきたかれだった。これまで一度だって人間を襲ったことはなかった。じぶんの物差しでしかものをみない人間の目にはコエテルは、得体のしれない怪物としかみていないことがかれにはわかっていた。
 そんなコエテルの毎日が、そのときをさかいにして、大きく変化した。 かれは、少女に、ひとめぼれしてしまったのだった。
 それからも少女は、、川辺に咲く花をつみに、たびたび森をおとずれた。
 そのたびにコエテルは、高鳴る胸をおさえながら、森の影から、岩山のうしろから、かくしきれないからだをむりにもかくして、花をつむ少女の姿をじっとながめるのだった。
 いまのこの気持ちを、なんとか彼女につたえたかった。だが、本人のまえに姿をあらわしたらさいご、きっと彼女はこわがることだろう。少女の目にもじぶんは、怪物としてうつっているにちがいないのだから。
 まもなく少女は、つんだ花を手にして、森からさっていった。
 コエテルはやるせないあまり、あたりの大地をゆりうごかすような、溜息をついた。
 もう少女はこの森に、やってこないのではないだろうか。少女がたちさるといつも、そんな不安に胸をかきむしられた。
 かれは、また少女がくるようにと、岸辺にもっとたくさんの花をうえることにした。毎日、毎日、不器用な手つきでせっせとうえた草花が、たちまち岸辺という岸辺をうつくしくかざりつけたころ、あの少女が森をおとずれた。
 その可憐な姿を目にするなり、コエテルはうれしさのあまり、おもわず小躍りしそうになった。
 好きだといいたい気持ちをけんめいにおさえてかれは、例によって、相手をこわがらせたくない一心から、岩山の影から、そっと少女をながめた。 
 少女はつんだ花を胸にかかえて、しばらくコエテルのいる方向に顔をむけていたが、まもなく目をふせるようにしながら、たちさっていった。
 森の出口でまっていたともだちが、少女にたずねた。
「どうだった、心はうちあけられたのかしら」
 少女はうなだれがちに首をふった。
「だめだったわ、こんども」
 少女は、このまえはじめてコエテルをみたとき、胸にときめくものをおぼえて、その気持をいつか彼にうちあけようとおもいながら、足しげく森にかよっていたのだった。
「いつかきっと、気持がつたわることを信じて、お花をつみにいくつもりよ」
「がまんできるの、それで」
「片思いでも、恋は、恋よ」
 少女はちいさい胸を、ほこらかにふくらませながら、いった。



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