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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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片想いビジネス

18/07/23 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 文月めぐ 閲覧数:306

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「時間の感じ方って、人それぞれなの」
 窪田さんの言葉に俺は力強くうなずく。
「自分の好きな話をしているときは短く感じるけど、つまらない話を聞いているときは長く感じる。ここで必要になるのが、大事なことだけシンプルに伝える技術よ」
 一分で話せ、と窪田さんはいつも言っている。一分間で相手に刺さる伝え方ができれば、ビジネスにおいてかなり優位になる、と。
 俺はその言葉を信じて、プレゼンでは最初の一分に力を入れるようにしている。きっと今回のプレゼンは成功だ。

「鎌田くん、今回、あなたの企画が通りそうよ」
 プレゼンから一週間後、窪田さんにそう声をかけられ、俺は自分の見立てが正しかったことを知った。企画部に配属されて一年、ついにここまで来たか。同期だけでなく先輩たちまで俺を拍手で称えている。だけど、今回の成功は自分の力だけではたどり着けなかった。
「窪田さんの力があってこそです。ありがとうございます」
 俺は思わず窪田さんの手を握り締めた。彼女が驚いたのは一瞬。すぐに俺の大好きな鮮やかな笑顔に変わった。そう、俺はこの笑顔のために仕事をしているのだ。
 窪田さんはみんなの憧れの的だ。仕事ができる上に美人。モテないわけがない。彼氏がいるという噂は聞くけど、ただの噂だ。俺は信じるつもりはない。俺は優秀な人間になって、彼女に釣り合うようになったら、自分から告白するつもりでいる。

 配属一年で企画が通った、ということで、俺はすっかり注目を浴びた。上司の目にも止まり、出世確実とまで言われるようになった。仕事では有能な窪田さんと組むことが多くなり、ああ、これで彼女の役に立っているんだ、一年前の足手まといとは違うんだ、と思った。同期からも「窪田さんとお似合いだね」と言われ、ますます自信につながった。
 一方の窪田さんは、俺と一緒にいることが嫌ではない様子だ。ランチに誘われることもしばしば。もちろん話の内容は仕事に関することだが、好意がなければ食事を共にしよう、とは思わないだろう。そんなこともあり、俺はすっかり有頂天になっていた。

 俺はとうとう決心し、ある日窪田さんを「話がある」と言って夕食に誘った。もちろんこれはデートのつもりだ。窪田さんはあっさりと「いいわ」とうなずいてくれた。これは成功したな、と確信した。
「俺、この会社に入って、企画部に所属して、本当によかったなって思ってるんです」
 同期の三原が教えてくれた和食を提供しているお店だ。グルメな彼が紹介してくれた店、味は文句ないはずだ。そして落ち着いた雰囲気の個室。彼に感謝せずにはいられない。
「同期も優秀な人材に恵まれたし、上司もみんな人がいいし。そして何よりも窪田さんに会えたことが一番大きいんです」
 食事に手をつけることなく、窪田さんは微笑んでこちらの話を聞いてくれている。やはり聞き上手だ。彼女の笑顔で俺の硬くなっていた表情も少し柔らかくなっていく気がした。
「一緒に仕事していて、安心するんです。もちろん、あなたを頼っているばかりではありません。心の底から信頼できる、という安心感なんです。その信頼関係があるから俺も百パーセントの力を出し切って仕事に取り組めるんです。だから、本当に窪田さんに会えてよかったです」
 俺はここで一度話を区切り、お茶を飲んだ。ここからの言葉が重要だ。
「俺、窪田さんのこと、信頼しているだけじゃないんです。その……好きなんです」
 「よろしければ、俺とお付き合いしていただけませんか?」と締めくくった。その言葉
を聞き終わっても、窪田さんの表情に変化はなかった。驚かないのか、と思った。もしかして、俺の気持ちを知っていたのか。それならそれでうれしい。俺の気持ちを知っていて、今日の食事だって承諾してくれたのかもしれない。しかし、その考えはすぐに打ち消された。
「話はそれで終わり?」
 窪田さんは相変わらず鮮やかな笑みを浮かべたままだ。「え?」と俺は思わず声に出してしまった。俺の反応を見ても窪田さんの微笑みは消えない。
「だから、あなたの話ってそれで終わり?」
 ええ、と俺はかすれた声でつぶやくのがやっとだった。窪田さんがふーっと大きくため息をついた。
「あなたの話、長くて退屈だったわ」
 長い髪をかき上げる窪田さん。
 俺は自分の顔から表情が消えていくのがわかった。


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