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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
座右の銘 常識を疑え

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石橋効果

18/07/23 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:83

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 古典的な手法、吊り橋効果。吊り橋でのドキドキを恋のドキドキと錯覚させて、恋を成就させようというものだ。
 彼は片想いの彼女に、この古典的な手を講じた。理由は彼女の性質性格に依るところも大きい。彼女は高所恐怖症で、且つ元々が臆病だったのだ。
 吊り橋効果の「吊り橋」は例に過ぎないので、恐怖のドキドキがあれば何でも良かったのだが、彼は正攻法として、本物の吊り橋へと彼女を誘導した。そして告白を実行し……ようとして、失敗した。
 先述の通り、彼女は高所恐怖症で臆病。吊り橋での恐怖は強烈であり、彼からの言葉など頭に入らない、聞いちゃいない。ただ怖い想いをしただけで、こんなところに連れてきた彼を恨みもしたかもしれない――そう感じさせるほどの状態で、告白どころではなかったのだった。
 大失敗だ。それでも彼は諦めず、次の策を考えた。
 吊り橋効果の根幹である、「他の感情を恋愛感情と錯覚させる」自体はいい策だと思っている。
 恋愛は結局のところ錯覚だ。彼自身も彼女を何故好きなのかと問われれば、彼女に優しくしてもらったことで気になり始め、よくわからないが好きになるとどんどん好きになっていたとしか答えられない。彼女が特別彼に優しいわけではないことなど、とうに承知している。よくある勘違いから始まった恋だ。それでも好きなものは好き、きっかけなど何でもいいのである。
「そもそも、ドキドキしなくてもいいよな」
 大事なことに気付く。
 彼自身まさにそうだが、彼女に対して、ドキドキするような恋愛感情を抱いているふうではない。むしろ反対で、安らぐといった感覚だ。これも立派な「好き」のひとつ。
 彼女は元来が臆病なのだ、怖がらせてしまってはいけない。与えるべきは安心感。その安心感を、自分と一緒にいることでの安らぎと錯覚してくれれば……。
「しかし安心感なんてどうやって与えれば?」
 難問だ。
 行き詰まるかと思われたが、吊り橋効果を最初に試したことが影響して、いい案を思い付けた。
 恐怖感を与えるのが吊り橋なら、安心感を与えるのは石橋だ。
 石橋。「石橋を叩いて渡る」が慎重さを表すことわざであるように、石橋はそうそう壊れたりしない。まあ吊り橋もいきなり壊れたりしないが、大切なのはイメージなので。
 この頑丈な石橋の上で告白をすれば、上手くいく!
 彼女には片想い中であり付き合ってなどいないのだから、誘える機会がそう多いとは考えられない。少ないチャンスをものにしなければならない。
 日本全国を、いや世界中を、探した。もちろん頑丈な石橋を、だ。
 そうして、景色もいい、しかしながら観光客で溢れてはいない――そんなところでは告白できない――、ベストな場所を発見することができた。
 彼は意気込んで彼女を誘い、無事件の石橋まで誘導する。
 いよいよ告白だ。彼女には安らぎを感じるとはいえ、この瞬間はやはりドキドキもの。石橋の上にいてもそれは変わらない。意を決し告白しようとした、その時……彼の心拍数は更に跳ね上がった。
 彼女の様子がおかしい。吊り橋の時ほどではないにせよ、臆病さが表に出ている。少し震えてもいそうだ。
 怖がっている!
(な、どうして?)
 石橋で安心感を与えるという発想が間違っていたのか? それともまさか、自分が怖がられているのか? いやそれはない、冷静に考えろ。この石橋に来るまでそんな様子はなかったし、だいたい、付き合ってもいないのに誘いには乗ってくれているのだ。彼だって勝算があると思っているからこそ告白しようと考えている。
 ではいったい何が起きたというのか。
 それは、彼女の様子を上から下まで観察することで、判明した。
 彼女はこの日、気合の入った高めのヒールを履いていた。
 石橋の上で普段履きなれないヒールを履いていると、不安定で危なっかしい。つまり、石橋なのに、安心感ではなく恐怖感を与えてしまっている……。
 気付いてからすぐ、場所を移動した。
 今日のところは告白を諦めざるを得ない。彼は意気消沈しながら別れた。
 それからは次の策がなかなか思いつかないため、彼女を誘うこともできず、日が経ち、やがて――。
 彼女は他の男性と付き合い始めたらしい。その男性は包容力のある、安心感を持てる人のようだ。彼女にはぴったりだと彼も納得し、自らの頭を石橋に叩きつけた。

(了)


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