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戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

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将来の夢 積極的安楽死法案
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後カノ

18/07/23 コンテスト(テーマ):第159回 時空モノガタリ文学賞 【 片想い 】 コメント:0件 戸松有葉 閲覧数:51

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 日本でもストーカーの存在が認知され、警察も対処するようになった……という事実はない。どんなに法を整備しようが、実際に扱うのが現場の警官である以上、警官が変わらなければ旧来と同様である。もし目立つストーカー事件が起きてマスコミが騒ぎ立てたら、ほとぼりが冷めるまで頑張っているふりをするくらいだ。ふりであり、理解していないわけなので、たとえ事件性がないものでも事件に発展させてしまうくらい無能でもある。
 今回、ある生活安全課の警官が動いたのも、個人の主観に依るところが大きい。ストーカー相談は他にもあるし、被害届が出ているものもあるが、それらは相手にせず、その件だけに反応したのだから。
 何故選んだかと言えば、第一に自分が安全そうだったからだ。相談は男性からのもので、対象は若い女性。警官だからと特別鍛えてはいないものの、危険はないと思えた。第二に、その女性はとても可愛いらしく、スケベ心が働いた。個人情報はたとえ事件でなくとも取得できるため、住所や家族構成その他も把握済みだ。
 こうした事情で動いているため、数あるストーカー被害相談のなかから本件を選んだにも関わらず、相談内容を把握していなかった。女性宅を訪れる前に、被害男性と話すことすらしていない。適当に想像するか、それもしていないか、といったぼんやりした認識だ。
 それが悪かったと気付いた時には、もう遅かった。とてつもなく訳のわからない件に巻き込まれてしまった――。



「私はストーカーではありませんよ」
 女性は動揺する素振りも見せず、否定する。
「でもこういうのは相手方の気持ちの問題だから」
 被害者がストーカーだと思ったらストーカー、なわけがない。そんなことが通るなら法は要らない。ストーカー規制法に抵触しているか否かで分かれる。だからストーカーではない相手を公然とストーカー呼ばわりすれば、名誉毀損のなかでも酷い罪だ。しかしこの警官は法の中身も知らなければ、「法とは何か、法治国家とは何か」から何もわかっていないので、不毛なやり取りしかできない。
「彼だって私をストーカーとは思っていません」
「いやいやいや、思っているから警察に相談したんだ」
 とはいえ、相談内容は把握していないため、これ以上は突っ込めない。女性側の言い分を聞くしかない。
「いいですか? ストーカーというのは、いわゆる片想いだからストーカーなんです」
「まあそうだな。直前までは違っても、ストーカーだと訴えられている時には片想いになっている」
「私は現在、彼に片想いではあります」
「うん?」
 ならストーカーで合っているのではないか。
「しかし私は彼の元カノではなく、アトカノなんです。これをストーカーと言いますか?」
 聞き慣れない言葉があった。
「アトカノ? すまん、若者言葉やネットスラングはわからん、どういう意味だ?」
「元カノの反対ですよ。前の彼女ではなく、後の彼女」
「そんなものが……」
 初耳にも程があった。男性に現在付き合っている女性がいるかは知らないが、とりあえず女性の言い分としては、今後付き合う予定らしい。訳がわからない。
「後カノというのは、君が言っているだけなんだよな? それを彼は迷惑に思ってストーカーだと……」
「違いますよ。後カノになることは、彼も同意しています。現在付き合ってはいませんし、片想いではありますが、それは時間の問題なんです」
 仮に本当だとしたら、女性の妄言以上に訳がわからない。自分が古い人間だからわからないのか、彼女もしくは彼女たちが異常なのか。
「しかしね、ストーカー被害相談がある以上は、君も自重してくれないと」
「後カノの約束を反故した上でならまだ理解できますが、そのままなのに、今は迷惑だというのですか。あくまでも後カノだから後にしてくれと。彼の真意がわかりません」
「俺もわからん」
 男性のほうにも話を聞いたほうが良さそうだが、それだと本件を扱う動機――要は若い女性へのスケベ心――がなくなる。さっさと本件からは手を引こうと考えていると、
「私からも相談があります。彼の真意を確かめてください。それに、ストーカーではない相手をストーカー扱いで警察沙汰にまでするなんて、それこそ罪に問えるのではないですか」
「まあ、その、男女の問題だから、二人でよく話し合って。警察は関知しない、民事不介入」
 現在ではあらゆる面で通用しない言い分で逃げようと図るも、女性は食らいついてきて、その後被害相談の男性のほうも引き下がらず、警官は忙しい日々を送る羽目になった。

(了)


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