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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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おじさんの本と猫のあとがき

18/07/22 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:2件 待井小雨 閲覧数:433

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 猫のぼくがこの本のあとがきを書いているのは、おじさんが代わりに書いていいって言ったからです。ペンを持つのが辛いので、代わりに書いてほしいそうです。
「おそらくこれが最後の本になるでしょう」というのが、おじさんの伝えたいこと。もうすぐおじさんは眠るよりももっと深いところで眠って、起きてこられなくなるそうです。おじさんは知っていました。ぼくも知っていました。おじさんは近いうち、誰も会いに行けなくなるところに行きます。
 ずっと本屋さんをやっていたおじさんは、本当はずっと本を書く人になりたかったそうです。小説家? 作家? そういうの。
 だけど叶えることができないまま病気になって、お店も閉めるしかないなぁと思っていた時に出会ったのがぼくです。これは、おじさんの本を読んでくれた人たちならきっとよく知っていることですね。
 のら猫だったぼくはおじさんの家族になりたくって、ぼくの素敵なところを本に書いておじさんにアピールしました。最初は断られていたけれど、おじさんはぼくのふくふくの前足に負けて家族になってくれました。
「君の本はすごいね。うんと素敵な猫だってこと、伝わったよ」って。
「私も本を作ってみたかったなぁ」って言うから、「作ってよ」とぼくは言いました。おじさんのファンの人たちは、ぼくに感謝してもいいかもしれません。「おじさんとぼくの毎日を書いてほしいな」ってお願いしたの、ぼくだもの。
 ぼくは、念願だったおじさんとぼくとの暮らしを素敵な本にしてもらいたかったんだ。
 だんだんお店に立てなくなってきたおじさんは、文章を書くことにしました。色んなこと。ぼくと会った日のことや、ぼくの本の素晴らしかったこととか!
 できあがった原稿を、ぼくは出版社に持って行きました。
「これは君が書いたの?」
「ううん、おじさんだよ。ぼくの家族」
「色んな絵が描いてあるねぇ」
「それはぼくが書いたの。おじさんが『挿し絵がほしいな』って言うから」
「そう。とても素敵だね」
「素敵だよ。ぼくとおじさんの毎日だもの」
 それで本が出版されることになって、おじさんはとても驚いてました。
 おじさんの病気はゆっくり進んで、その間に本は何冊か出ました。具合のいい時に外へピクニックに行った日のことを書いた「ぼうけん編」は大変な反響で驚いたな、とおじさんは言います。ふたりで林や川に行っただけの話なのに、好きだって言ってくれる人が多くて嬉しいねって笑います。きっと僕が魚を獲ったりするのが良かったんじゃないかなってぼくは思うけれど、「私の石集めの話も良かったと思わないか」とおじさんも譲りません。ぼくはおじさんに一番大きな魚をあげて、おじさんはぼくに一番丸い石をくれました。ひんやり気持ちのいい石で、ぼくもこれはお気に入りです。
 最近は外に出るのも辛いんだ、とおじさんは言います。最初の本をめくれば、元気に本屋さんをやっているおじさんがそこにはいるのにね。
 ペンを渡しても、おじさんは枕から頭を上げずに首を振ることが多くなりました。
「お医者さん、どうですか?」
 お医者さんに鞄を渡しながら聞くけれど、答えはいつもおんなじです。ぼくは悲しくなっておじさんの手を舐めます。
 おじさんの家族になりたかったのは僕で、「君にあげられる時間が少ないんだ」と断られても諦められなかった。おじさんと一緒にいられるなら、時間が少なくてもきっと幸せだって信じてた。
 楽しいことぜんぶ、嬉しいこともぜんぶ、おじさんはぼくと分け合ってくれました。そういうのがぜんぶ、おじさんの本に詰まってます。
 この本は楽しかったですか? おじさんの書いた本は素敵でしたか? これを読んでくれたあなたがそう思ってくれるといいなって思ってます。
 残念ながらおじさんの書く本はこれが最後です。「ごめんなさい」っておじさん言ってます。ぼくからも、ごめんなさい。
 本には寿命があって、どんな本でもいつか本屋さんには並ばなくなる日が来るんだって。だからぼくは、他のどんな本屋さんにおじさんの本がなくなったとしても、ぼくだけは、おじさんから継いだ本屋さんにおじさんの本をずっと並べていようって決めています。

 ……おじさんが「ペンを貸して」って言ってるから、代わります。



 受け取った原稿を読み、咳き込みながらも笑う。
「絵本みたいだ」
 一生懸命書いた文章のあちこちに絵が描いてある。あの頃見せてくれたあの本のよう。
 あとがきの最後に数行を、震える手でようよう書き加えた。

『――私の本を読んでくださった方ならきっとご存知でしょうが、この子はとても良い猫です。素晴らしい猫です。
 どうかどなたか、この子の家族になってはくれないでしょうか。
 私と過ごしてきた以上の幸せな生活を、どうかこの子と過ごしてはくれないでしょうか。』


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このストーリーに関するコメント

18/07/24 滝沢朱音

ふくふくの前足で書かれる挿絵を想像して、涙が出そうになりました。
今回のあとがき…この物語も、かわいい絵で彩られていたのでしょうね。
おじさんの最後の祈りは、絶対に叶うはずだと信じたいです。

18/07/26 待井小雨

滝沢朱音様

お読みいただきありがとうございます。
おじさんとの日々を思い出しながら、うんと頑張って猫は絵を描きました。涙が出そうになった、との感想がとても嬉しいです。
猫にあとがきを書かせることで、おじさんはこの子の素敵さを読者の方々にアピールする気持ちもあったりします。祈りが叶うことを願って下さり、ありがとうございます。

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