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ケンさん

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あとがき殺人事件

18/07/19 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:0件 ケン 閲覧数:209

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   ■作者あとがき

 作家の山田三郎です。この小説『終極』が読者の元に届いている頃、私はもうの世にはいません。このあとがきを書いた後に自殺します。つまりこのあとがきは遺書です。
 私は10年前に妻と出会い結婚した。妻は私より20も若く美しかった。今でも彼女がなぜ、私のようなオヤジの、しかも売れない小説家を夫に選んだのかと不思議に思う。妻との時間は私の幸せそのものだった。しかし三年前の突然の別れは私から生きる気力を奪った。もうこの世に未練はない。
 とはいえ一点、心残りがある。せめて一作ぐらいはヒット作を書きたかった。しかし世間で注目されるには、実力だけではなく話題性やある種のセンセーショナリズムなるものも必要だった。話題性だけが売りの空疎な作家がちやほやされる昨今だが、私のプライドはそんな安っぽい真似を許さなかった。
 とはいえ遺作となれば多少は注目もされる、自殺となればなお更だ。まさに最後のチャンス。私は命を削ってこの小説を書いた。初の私小説である。実に赤裸々な内容になった。死を目前にしなければ、このようなものは書けなかっただろう。着飾った小説で読者の心を掴む事は出来ない。本作こそが本物の小説である。
 さて、前置きはここまでにして。おそらく読者諸君が一番関心を持っているのは最終章「告白」における『失踪したと思われていた妻を、実は夫である主人公が殺害していた』という、くだりについてであろう。
 読者諸君は当然こう考える。「私小説の主人公はその著者の投影であるのだから、つまりは著者が妻を殺したということか?」もちろん私小説とはいえ、すべてが真実ではない、あくまで小説は小説だ。しかし、だからといって殺していないとも言わない。謎は人々の関心を呼ぶ。実にセンセーショナルな仕掛けではないか。ではそろそろ疲れた、逝かせてもらうよ。

【編集部補足】本書はその内容の特殊性から、出版について何度も検討しました。結果としてはあくまでも小説に過ぎないとの結論となり、出版に至りました。



   ■(補強版)出版に寄せて

 本書の著者である山田三郎先生の自宅の床下の地中から、その妻の白骨化した死体が発見された事を踏まえ、編集部としては法律的、倫理的見地から出版の妥当性を検討してまいりましたが、その社会的意義はあるとの結論に至り、事件の検証記事を加筆した補強版を出版することにしました。



   ■(正規版)出版に寄せて

 山田三郎先生の妻の死体遺棄事件の真犯人である『龍ヶ崎亜空』の逮捕を踏まえて、本書出版の経緯を説明します。
 龍ヶ崎は著者宅の近所に住む作家志望の学生で、たびたびその自宅を訪れていた。そのうちその妻と不倫関係となった。事件当日、著者の取材旅行中に龍ヶ崎と妻は密会、情事の最中に妻が持病の発作で突然死する。彼は死体を検死され不倫がばれるのではと恐れ、死体を居間の床下の地面に穴を掘って埋め、そして失踪したかのように偽装した。
 その後も約三年間、何食わぬ顔で著者宅に出入りするが、ある日、自殺している著者を発見する。同時にパソコンに小説『終極』の原稿データを見つける。彼はこう考えた。この家は古いので、建て替えられるかもしれない。そうなれば死体が発見され、その疑惑が自分に向きかねない。そこでその疑惑を著者に向けるために、原稿の最終章とあとがきの一部を改竄することを思いつく。
 ではなぜ、その事実が発覚したのか? それは編集部が感じた原稿に対する違和感だった。プロの目から見ると、最終章は文体こそ似せてはいたがは明らかに著者のタッチと違った。つまり最終章は別人による改竄との結論に至り、結果、龍ヶ崎の逮捕に繋がった。
 幸い著者のパソコンからデータ復元が出来たことで、本来の形での『終極』を正規版として出版することになりました。



   ■(完全版)出版に寄せて

 編集部がはじめて龍ヶ崎先生の作品に触れたのがこの小説『終極』の原稿でした。その原稿は最終章だけが異彩を放っていた。文体こそ、それ以前の章に似せてはいたが、その構成力、表現力は圧倒的に優っていた、まさに天才的だった。結果的にはその才能故に、改竄がバレてしまうという皮肉な結果となったのだが。
 我々は『龍ヶ崎亜空』逮捕の一報を聞きつけて、すぐに面会に行き、その場で執筆依頼をしました。それが処女作となった『原稿改竄したら人生変わった』です。その出版に至るまでの経緯は人々の関心を呼び、瞬く間にミリオンヒットとなりました。まさにセンセーショナルな論壇デビューでした。
 そしてこの度、龍ヶ崎先生の出所を記念しまして、先生の実質的デビュー作とも言えるこの『終極』の龍ヶ崎バージョンが、読者待望の完全版として出版の運びとなりました。また付録として山田三郎バージョンも収録してます。


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