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岬のふたりと散弾銃

18/07/16 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 mokugyo 閲覧数:170

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「この世に言葉があるからこそ、人は不幸になる」

こう言うのだ、佐々木は。その視線の先には広大な海が広がっている。しかし、佐々木の目には海の青さもむなしい色にしか見えないのだろう。

狂いそうになる程の夏の暑さとは裏腹に佐々木の表情はきわめて冷静である。それはもう憎らしいほどに冷たい。仮に5秒後に彼女と吉田が立っている岬が崩れてふたり揃って仲良く落下しても、佐々木は表情を変えないだろう。

隣で聞いていた吉田はそう感じた。

「お前はすぐそうやってネガティブなことを言うな。まあ、ネガティブなのは慎重とも言えるので悪いことばかりではない。ただ、生きているうちに、やっぱり人は何かを残しておきたいと考えるだろう。だから人は、言葉で、文字で、自分そのものを記録するんだよ」

吉田はこう言って、佐々木の横顔を眺めるのだが、佐々木は吉田の言うことに一向に関心を示さない。無関心の表情を描けという研究があったら確実にモデルとして選ばれたであろう、画に描いたように無関心の表情の佐々木。

佐々木と吉田が会話する背後には森が広がっている。この森から蝉が正しく夏らしく鳴く声が聞こえてくる。今日の気温は32℃の予報だ。じっとしているだけでも暑くてしょうがない。

「吉田、私がなぜこういうことを言うのか分かっているのか?私は言葉が無力だと痛いほどに感じてきたんだ。特に吉田、お前の言葉は軽い。軽すぎるよ。そんな浮輪不要な軽い言葉で沈んでいく私の心を浮き上がらせることができるのか?」

佐々木はこう言って、無表情で水平線の上にのびていく入道雲を眺めている。

「俺が吐く言葉はそりゃ軽いかもしれねえよ。否定はしねえ。でも俺はお前みたいに弱っている知り合いを見殺しにするほど冷たい人間でもねえ。」

吉田はそう言って、ハンカチで額の汗をぬぐった。彼が持つハンカチは緑色で、端っこに小さく熊が描かれている。この熊の名前は、カートという。

「見ろよ。ハンカチの上にいる熊のカートもお前を応援してるぜ。フレーフレー人生クマクマとな」

「くだらない。吉田よ、それで私を励ましているつもりか?私は、もう心底呆れているんだよ。4千字の小説コンテストに応募する為にとりあえず男女ふたりを岬で会話させて展開を無理矢理考えているような虚しい現実に。私が何を言いたいか分かるか?」

こう吐き捨てながら、佐々木が自身の顔を吉田に向けた。吉田は佐々木が自分の方を向いてくれたことは嬉しかったのだが、佐々木が何を言いたいのかはいまいち分からない。

「コンテスト?何を言ってるんだ。お前の例えはいつも分かりにくいな。まるで頭からバズーカがはえた坊さんがお経を唱える度に参列者に攻撃しいてくような不親切さだよ」

吉田の例えも非常に分かりにくかったが、吉田は自分のことは棚にあげて人に何かを言いたいタイプだったので、しょうがない。

「この世は常にコンテストの連続だよ。小さい頃からあらゆる場面で優劣を競わせる。女は特に序列に厳しいくせに、表面上は仲良く振る舞おうと無理をするからな。3オクターブ上げて会話するにはもう疲れたんだ、私は」

佐々木は低い声でそう言った。佐々木の地声は女性としては低めであり、それが彼女の口調と合間って、非常に威圧的な印象を与えている。吉田は、そんな彼女の悩みを、吉田なりに理解していた。

「まあ3オクターブ上げて話さなければいけないような状況は確かに社会の中に存在するよ。でも、それはそれで高くハキハキした声で話すスキルとして役立つじゃないか。人生は何事も経験だと思うぜ」

吉田はそう言って、自身がしょっていたリュックからぬるくなったペットボトル飲料を取り出した。ペットボトル飲料のラベルにはベアーズメロンソーダと書かれており、ここにも小さく熊のイラストが描かれていた。

「メロンソーダ飲もうぜ。俺はきちんとふたり分買っておいたんだ。ちょっとぬるくなっちまったが、まあ飲めるだろう。しかし佐々木は汗かかないな」

吉田がそう言うように、佐々木はほとんど汗をかいていない。夏の太陽が暑く照り付ける日だというのに、汗まみれでベタベタな吉田に対して、佐々木はさらさらである。

「炭酸は嫌いなんだ。シュワシュワと喉を攻撃されるのが苦手でね。無理矢理ビールを飲まされた会社の歓迎されたくもない非効率な飲み会を思い出すだけだ」

佐々木が吉田をにらむその目の中には、確かにシュワシュワ感を喜びそうな輝きはなかった。吉田は力無く笑うしかない。

蝉の鳴き声がやんだ。

ふたりが話している背後の森から何者ががさがさと音をたててやってくる。

思わず、二人は会話をやめて背後を振り返る。

そこにいたのは小さい熊一頭。小さい小熊であるが、都会育ちの二人には脅威であった。

「熊が出た!おい、逃げるぞ!」

吉田はそう言ってペットボトル飲料を投げだし、佐々木の手をひいて走り出した。

佐々木はあっけにとられ、とりあえず必死に走るしかなかった。そういうものだ。

必死に走って逃げた結果、小熊から逃れることはできた。ふたりは国道に出て、息を整えていた。

「やばかったな。実際の熊はハンカチやペットボトルの絵みたく可愛くはないわ。結構大きくて脅威に感じるわ」

吉田はそう言って、佐々木の顔を見る。

さっきまでちっとも汗をかいていなかった佐々木が冷や汗をかいていいた。

「自分なんてもう死んでいいと思っていたけど、いざ恐怖を感じると、生きたいと思うもんなんだな」

佐々木はそう言って笑顔を見せた。吉田は、握っていた佐々木の手が震えているのを感じていた。

突然、今走ってにげきた森から銃声が聞こえた。

驚くふたりの前に、森から男が現れた。ぼうぼうのヒゲ面の男は猟銃を構えている。

「なんだてめえらは!アベックか?アベックでこんな立入禁止の岬に入ってきたんか?撃たれてえか!てめえら、撃たれてえか!」

ヒゲ面の猟師は目玉をひん剥き、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。猟銃を向けられたふたりは謝るしかない。

「どうも、すみませんでしたー!」

吉田と佐々木はそう言って共にこうべを垂れて謝罪した。

すると、驚いたことに突風が吹き、猟師は転がってしまう。

猟師が転がった隙を見てふたりは国道を走って逃げ出した。

「見たか。今のが48の謝罪技のひとつ!謝罪突風だ。謝罪した勢いで風を起こして相手を転ばすんだ!」

吉田は暑さと逃げているテンションでおかしなことを口走っていたが、佐々木は無視して走り続けた。

やがてふたりは、小さな駅にたどり着いた。

「行きは勢いでこんな田舎の駅で衝動的に降りたが、この駅は1時間に1本しか電車が来ないんだな」

佐々木は無人駅でそう言ってため息をつく。吉田が励まそうと笑顔を振りまき、こう言った。

「夏の無人駅のホームってのも、新鮮で面白いだろ?いつもは都会のコンクリートに囲まれてるし」

吉田がそう言って笑っていると、ふたりが電車を待つホームに、唐突に人がやってくる。

メガネをかけ口ひげを蓄えた紳士的な雰囲気の男はこう言った。

「僕は評論家だよ!全く、君達は何もんだ?どういう関係だ?なぜこんな田舎の駅にいるんだ?それもスーツ姿で!」

「ああ、会社の同僚でして」

佐々木と吉田はふたりして顔を見合わせるしかない。

「設定をきちんと練らないとダメだよ!ふたりの関係をわかりやすく説明できるようにしなきゃね!あと、唐突に謎の人物が現れて語りだすようなことがあってはいけない!リアリティがないんだ!リアリティが大事なんだ!」

評論家は、ふたりに向かって永遠とリアリティ講義をしてくる。ふたりは電車を待つ間も、何となくうんうんと頷いて話を聞くしかなかった。

「話のオチをきちんと考えなきゃ!メッセージがないと!」

そうまくしたてる評論家の顔はイキイキしている?

1時間後、電車がやっと来た。

そこに散弾銃を持った猟師が走ってくる!

「ざけんな!」

そう言って散弾銃をぶっ放したが電車が動きだしわふたりは助かった。

「よし、もうネガティブなこと言わない」

佐々木はそう言って微笑む。吉田は安堵した。

(終わり)


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