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リアルコバさん

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隠れ家

13/01/09 コンテスト(テーマ):第二十二回 時空モノガタリ文学賞【 お寺 】 コメント:0件 リアルコバ 閲覧数:1812

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 大銀杏の葉はあらかた落ちたが、境内は綺麗に掃き清められている。総瓦だった本堂の屋根は真新しい銅板葺が鈍く光っている。それ以外は変わらぬ寺の風景が懐かしく思われた。本堂の左手の母屋の横に竹薮に隠れて庫裡がある。俺の足が自然とそこに向かうのは、この寺の檀家でも知人の墓があるわけでもなく、慣れ親しんだ想い出の場所だからだろう。その庫裡には蜘蛛の巣が枯れたように揺らいでいる。



 「お前何中?おぉヤツと一緒か」
 30年前に通った高校は、進学校とは名ばかりの一流にも足りず不良にもなりきれない中途半端な公立校だった。高校デビューとばかりにツッパる者、一応受験を目指す者、何も考えず飄々と過ごす者。その何れにも属さない少数派が、そう、幾つかの高校のそんな奴等がこの庫裡に夜な夜な集まるようになったのは1年の夏ごろだったろう。
 庫裡の住人は同級生の修である。七人兄弟の末っ子は産まれながらに寺を継ぐ運命を背負わされた唯一の男子だ。故に親からは高校卒業まで半分ひとり暮らしのような自由を与えられていた。
 そこで何をするわけでもなく、漫画を読む者、勉強をする者、たまに麻雀だったり、バンドの真似事だったり、述べ10数人程がいつも誰かしら屯する、秘密の隠れ家の様なものだった。

 2年の夏、町は夏祭りを迎えていた。興味のない俺達はやはりこの庫裡にいて麻雀に興じていた。突然電話のベルが鳴る。
「あぁ居るよ・・・ほれ奥さん」
修に促され受話器を取ると
「大変、来て、高史君がカラまれて連れてかれちゃった」
公衆電話から緊張した彼女の声がする。
「何で?」「わかんないけど多分S高の人だって」「誰だよそれ」「わかんないよ、淳君達が追いかけてった」「わかったすぐ行く」
 S高に通う浩二が手をひらひら振る。
「止めとけ相手は健児さん達だ。なんかお宅の誰かと女で揉めて探しまくってたぞ」
「健児さん・・・やべぇな」
修がリーゼントに櫛を入れて俺を見て頷く。
「しゃーねーなほっとけねぇか」
俺と修は庫裡の横にあるKAWASAKIを参道の外まで押してから跨がりセルを回す。
「5分で着ける」
独特の金属音を響かせながら町を目指した。

「ねぇcherryだって」
青ざめた彼女が余り踏み込みたくない喫茶店の名を告げる。どんな連絡網なのか集まってきた馬鹿共がcherryを遠巻きに見据えていた。
「どうした?」「わかんねぇ、でも結構人数居るよ」
淳がまた公衆電話に走って行った。
「行かなきゃしゃーねぇだろ」「俺はやだよ」「じゃ止めとけ」「いや・・・行く」
修がドアを開ける。俺の後ろには5人ほどが着いて来ただろうか。
「なんだぁお前ら」
10人程がテーブルに座る中、高史が床に正座して震えている。
「先輩もういいっしょ」「なにが」「だからもういいでしょ」「なめてんのかこらぁ」
誰かの声をきっかけにその乱闘は始まった。無我夢中で暴れたがしこたま殴られる。 「パトだぁ逃げろ」
蜘蛛の子を散らすように相手が逃げる中、高史を抱えあげた時警察官が入ってきた。
「お前ら何してるんだ」

 開け放たれた本堂の中は風ひとつなく、それでもだだっ広い分涼しかった。頭を五厘刈りにした俺達は、正座して修の父の読経を聞いている。香の匂いが纏わり付く。
「お前達のせいではないにしろ命がひとつ消えたんだ。せめて夏休み中は喪に服しなさい」
 静かな住職の声が蝉時雨にかき消されていく。あの乱闘の後、S高の一人がパトカーに追われてバイクで事故り死んだ。

 3年になっても庫裡にはいつもの顔が集う。墓地にある桜が散り、また蝉時雨が襲い、大銀杏が黄色く燃え、俺達は相変わらずグズグズと燻っている。
 薄っすら墓石に雪が積り消え行く頃、集まる顔がひとりふたりと減って行く。なんの言葉も無くそれが必然であるように、ただ見かけなくなっていく。
「修はいいよな将来が決まってて」
「馬鹿云うな、選択肢が無いだけだ。坊主なんかに誰がなりたいもんか」
 それは初めて聞いた修の本音だったのだろう。

 

 (こんなに小さかったろうか)色褪せ朽ちかけて煤けた庫裡を一周すると、
「やぁいらっしゃい」
 胡麻塩五厘頭の住職が柔かに合掌して頭を下げた。
「修・・・か」
 30年の年が過ぎても、坊主としての風格が出ても、彼の出迎え方は変わっていない。あの頃も笑顔で合唱して庫裡に迎え入れてくれていた。
「良くいらっしゃいました。此方へ」
 本堂へと向かう。あの広い本堂は30年の時をあの時のままで刻んでいることだろう。振り返ると冬枯れた大銀杏に夕日が溶けていく。今ではこの大銀杏だけが、俺達の秘密の隠れ家の証なんだ。


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