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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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真っすぐ立って真っすぐに進む

18/07/16 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:2件 むねすけ 閲覧数:566

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 メルちゃんの右目。曲のタイトル、夜のギターケース。駅に聴こえる初心者コードみっつのメロディー。
 メルちゃんの右目。小説のタイトル、更新される夜の十時。回るアクセスカウンター、読まれるストーリーは幸福な未来を友達に語りかける。
 メルちゃんの右目。パンの名前、早朝四時の寝ぼけた眼が目を描く。中身は美味しいウグイス餡。友達は春が好きだと左目で見ていたから。
 メルが右目の視力を失ったのは一歳半のこと。刺さった鋏の感触も、流れた血の色も、自分よりも泣いた兄の泣き声も、なにも覚えていない。覚えているのは病室で走らせたロボットの掌。コップ置きになっていて、いつだってカルピス。メルのぼんやりした右目のピントに青の水玉はなんとか捉えることができた。
「あんなロボット、高かったろうに」
 今は壊れて動かないそのロボットを部屋の隅っこで時々撫でる。壊れた右目と壊れたロボット。私はこれ以上壊れるわけにいかないと、メルはギリギリのエッジを踵に感じた。

 ゴウの左目のためだ。誰彼構わず殴りとばした。
 ゴウの左目のため、ネットバンクを失敬。
 ゴウの左目のため、チケット、限定生産、漁って転売。
 ゴウが左目の視力を失ったのは一歳半のこと。七晩続いた高熱に、死なないを選んだら左目をとられた。ゴウはハッキリ記憶している。あの夜、ズラされた左目のピント。小学校の理科実験室で、顕微鏡のピントを回して溜め息をついても、忘れられなかった記憶。

「メルちゃん聞いた?」
「なに? 食堂の冷やし中華今日からだって?」
「ちっがうよ、食いしん坊。朝のニュース、目の移植手術!!」
「あぁ、それ。ねぇアイちゃん。それより今日から冷やし中華。食堂行こうね、お昼」
「どうしてそう素っ気ないのさ」
 メルは右目の眼帯をアイに触らせる。アイは少しギョッとして、でも耐える。意味は言葉でくれるだろうと、我慢の数秒。友達の時間。
「手術の費用、たくさんだよ。それに、怖いじゃないか。目の玉くり抜くなんて。タコ焼きじゃないよ。私の右目」
 あぁ、そういうこと。怖い時、一人でいたくないもんね。大丈夫。と、アイはメルの眼帯を撫で続ける。
「お金なら、私たちでなんとかするから」
「え?」
「だから、怖い方はメルちゃんに任せます。なんとかしてちょうだい」

「やったな、ゴウ」
「ん?」
「病院、隣の市じゃん。やってもらえよ、お前はいいやつだから一緒にいるけど、やっぱちょっとお前の左目、キモいんだよ。わりーけど」
「まぁ、そうだろうな。俺が鏡見て気持ちわりーんだから、しょうがねーよ。でもな」
 ゴウはぼやけた左目のピントでなにかを回すように、見える右目を閉じた。上下運動は意識の外。じっとしないのは安定を拒絶するからだ。それは正しいと、ゴウは右目を閉じ続けた。
「俺んちかーちゃんだけだし。無理言えないよ。自分で稼げるようになってからでも遅くないし。キモくても付き合ってくれるツレはいるし」
「いい加減そっちの目だけで物見る癖やめろよ、マジで友達失くすぞ。あのさ」
 タツはゴウの壊れた左目を見据えて言った。
「金は俺らでなんとかするから。心配すんな」
 ゴウのぼやけたピントの視界に、多分頼もしい友達の姿があった。

 それから一年の時が過ぎて、メルは高校二年になり、ゴウもまた高校二年になった。達した金額。うっちゃり勝った恐怖心。施術は二人ともに成功する。経過は良好。二人は包帯の内側で隔たっていた未来がすぐそこにあることを感じていた。
「わぁ」
「へぇ」
「こんな風に見えてたんだ」
「あぁ、だぶって一個か。へぇ」
「ありがとう、右目。みんなよろしく。これから私の右目です。眼帯ないと軽いな、左のどっかの毛そろっか?」
「おおー、鏡気色悪くねーじゃん。よ、男前、久しぶり」
 二人は夢をみるようになる。

 夜の始まり、駅から吐き出される疲労と残りかけの元気。開かれたギターケースと覚えたての中島みゆき。友達の眼球移植手術費用をお願いします。お気持ち、助けてください。アイは唄う。へたっぴなスリーコードで、メルちゃんの右目。足を止めて聴いてくれているお客さん。投げられるお金。百円、五百円、千円、五千円、一万円。体育祭の集合写真で眼帯姿の私を丸で囲ってある。
「ヘタクソ!!」酔っ払いのおじさんに叫ばれて、アイはきっと気丈にやり返すんだろうなと、夢の中で思ったのに、アイったら「よよー」と、途端に泣き出す。すると俄かの正義がおじさんを叩き伏せて、やっぱりアイは「よよよー」と泣いた。今度、アイを抱き締めようと、夢から醒めても忘れないでいたいと、メルは夢の中で笑った。
 サキは小説を書く時、あんな変な踊りを踊ってるんだね。
 シュウはパンを焼く時、必ずラジオを聞いてるね。
 メルの夢に、手術費を稼いでくれた友達の一年が繰り返される。
「あぁ、嬉しい。でも、不思議。病院に行かなくちゃ。先生に、話してみないと」
 夢みる不思議に、メルは病院を訪れる。

 ボッコボコのボコ。やめてくれよ、その金は。
 被害届も泣き寝入りかよ、どーなってんだよネットバンク。
 元値五千円が六万って、まーでも買ってしまうのがコレクターのサガですなぁ。
 ゴウの夢に、手術費を巻き上げられた被害者の怨念が繰り返される。
「勘弁してくれよ。毎日毎日、こう責められたんじゃ、たまんねーよ。病院行くか。でも、話したところでどーにもしてくんなさそーだな」
 悪夢に耐えかねて、ゴウは病院に駆け込む。

 ゴッツン。ぶつかった片目の十七年がふたつ。
 お互いに顔を知っていた。眼球移植手術成功例十三と、十四。報道されたアップの片目。名前は伏せてもらえませんか? せめて苗字だけにできねー? 通らない匿名希望。ラジオのDJなら謝ってくれるのに。読んじゃったごめんなさいの謝罪もないままに刷られる新聞、地方ワイドショーのナレーション。畑中メル、第一高校二年。東堂ゴウ、第四高校二年。
 きっと待たされる再診の下手すれば二時間以上。二人のよっつの目玉がゴッツン。自販機横のベンチでゴッツン。
「あら」
「あれ」
「あなたは」
「あんたは」
「東堂、さん?」
「畑中って名前、だったよね?」
 メルの飲みかけだった乳酸飲料が出会いの奇跡にちょっぴり揮発する。
「そう、畑中メルです。おはようございます」
「あぁ、東堂ゴウです。おはよう」
 ゴウが押した自販機のボタンは間違いなくコーラ。だったのに、出会いの奇跡がコーラをアクエリアスにすり替える。あれ? 隣だし間違ったかな。ゴウは一瞬首を捻っただけ。アクエリアスのキャップも一緒に捻って、メルの隣に座る。
「術後の検診、ですか?」
 メルは仲間意識を感じて気軽に話しかけた。
「ううん。なんか変な夢をみるようになっちゃったんで、先生に相談」
 ゴウも仲間だ、と、気軽に返事をする。この人になら、話せることがいっぱいあると、ゴウは心を弾ませていた。
「わぁ。私も、同じ。夢をみるようになったから、来たんです」
「あぁ、そうなの。俺だけじゃないんだ。みんなこーなるのかな」
「そうなのかも、しれないですね」
 私の右目と、東堂さんの左目。私の左目と、東堂さんの右目。メルはよっつの今ある目と、ここにはもうないふたつの目を思った。私が話したいのは、ここにはもうない目の話。東堂さんとなら、話せる話。と、メルは語る。ゴウも受けて語る。共鳴し合う言葉と記憶と時間の波紋が、二人を高揚させ、モーションをストップさせた。
「かくれんぼしてさ、俺、こっちのぼんやり見えるのは俺だけのオマケの力だと思ってたから、左目出して見てたよ。あれ、バレバレだったんだよな」
「片方だけ馬鹿みたいにレンズが分厚いメガネ、かけませんでしたか?」
「かけたね。今もある。子供用の、漫画キャラのメガネケース。なんかちょっと悲しくなる」
「バドミントンが苦手で、別に、ずっと片目しか使ってないしって思っても、やっぱりダメなんですね。空振り連発」 
「小学生の頃、3Dの下敷きがあって、兄貴が俺の分まで買ってきやんの。教室で人気者になって、俺の机にみんな集まってきて、寄り目にして見えた見えたってやってんの。持ち主の俺だけ見えねーの。どーやっても」
「真っすぐ立ってられないんですよね、ジョジョ立ち好きだねって、友達は言うの。違うの」
「あぁ、水泳のコーチに真っすぐ!! って、頭捻られたよ、真っすぐやってるつもりだったのに」
「え、泳いでる途中で、頭を?」
「あぁ、ビート版、バタ足」
「あぁ、クロールのバタ足意味ないって、最近聞きましたよ」
「そうなの?」

 夢をみる原因はわからなかった。それも、二人以外の移植成功者にはみられない現象だったし。
「不思議なことだけど、君たちの場合、移植した目よりも、君たちの感受性が夢に影響を及ぼしているんじゃないだろうか」 
 先生はありふれたドラマのシーンを口パクするように語っただけだった。
「そうじゃないのよね。アイに聞いたら全部あった出来事だったし。私、知らなかったのに」
「違うんだよな。絶対目が関係あるんだよな」
 メルとゴウは二人で寝るようになる。
「あの夢をみなかったよ」 
 朝、ゴウは頭を掻きながら言った。
「スーパーマンになってタコ焼き焼く夢みた」
「それは、それは良かった。きっと美味しい」
「メルは?」
「私は、やっぱりみた。いつもの夢。アイはリクエストで長渕剛を唄った。練習したのね。とっても上手だった」
「俺だけ、なんでなんだろう」
「どうしてかな」  
 よっつの目を開けたままくっつけあっても、わからない夢の行方を二人で追おう。
 二人は真っすぐ、進む。

  


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このストーリーに関するコメント

18/07/28 文月めぐ

拝読いたしました。
片方の目しか見えていない二人の登場人物が見事にリンクしていました。
夢と現実がないまぜになったような不思議な物語でした。

18/07/29 むねすけ

文月めぐさん
独白だと重たくなってしまうので
二人登場させて二人のみる夢をメインに書きました
二人を一人として、交錯するシーンが勝負どころ、でしたので
ご感想とっても嬉しいです
コメントありがとうございました

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