1. トップページ
  2. パンとスープ

つつい つつさん

twitter始めました。 @tutuitutusan

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

パンとスープ

18/07/15 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:131

この作品を評価する

 うつぶせになり崖の下をそっと覗きこんだ。林の中にいくつかの建物が見え隠れする。そこが僕の目的地だった。背中に背負ったパラシュートはちゃんと開くか心配だったけど、それは実際飛んでみないとわからないことだった。僕は覚悟を決めて周りにいる仲間に「行くよ」と告げた。みんなは僕の肩をそっと叩き、「お前は村の英雄だ」、「お前のことは忘れないよ」と、励ましてくれた。
 思えば僕の人生のほとんどは役立たずだった。村のみんなからいつも白い目で見られていた。それは、僕だけじゃなかった。ママも妹のナーシュルもそうだった。でも、それは村の人が悪いんじゃなかった。長い間隣の国と戦っているこの村で必要なのは兵士だった。けど、僕のうちにはパパがいなかった。体が弱くて寝込みがちなママと、子供の僕とナーシュルだけ。これじゃ、村の人に必要ないって思われても仕方なかった。だけど、本当の理由は五年前に死んだパパのせいだった。
 僕が覚えているパパはいつも優しくて穏やかだった。畑で朝から晩まで働いてあまり顔を合わせることはなかったけど、たまにゆっくり出来る日には絵本を読んでくれたり、近くの広場でボール蹴りをして遊んでくれたりもした。それに、自分の畑の仕事もあるのに朝早くから知り合いの農園の収穫の手伝いをして、野菜や果物を分けてもらってくれたりもした。僕がパパの貰ってきたぶどうを見て、はしゃいで喜んでいるの見て、嬉しそうにニコニコしているパパの顔を覚えている。嫌いになる前のパパは本当に世界一のパパだった。
 五年前、右足が少し不自由で走れないからという理由で今まで戦争に参加してなかったパパも兵士として駆り出されることになった。その年はひどく戦況が悪くて、降伏寸前までいっていたらしい。だから、これまで兵士として認められなかったものも動けるならと戦場に送りこまれた。
 元々気の弱かったパパは戦場の恐怖と緊張感に耐えられなかったらしく、敵の部隊へ奇襲しようと物音を立てずに移動している最中に突然パニックになり、泣き騒いだらしい。当然敵に見つかり猛攻撃を受け、味方を七人も失う大惨事となってしまった。当のパパは早々と村の兵舎まで逃げ帰り、その後、散々みんなに失態を責められたあげく、次の日兵舎のトイレで首を吊って自殺した。味方の命を奪ったばかりか、簡単に自分の命さえ捨ててしまったパパに村の人はみんなカンカンだった。そして、パパの行動のせいで本当に村は降伏するしかない状態まで追いつめられていた。でも、それを救ったのは三人の英雄だった。
 三人の英雄は背中に爆弾を背負いそれぞれ単独で敵の村に潜入し、武器庫や兵舎で自爆し、敵に大損害を与えた。そのおかげで僕の村も持ち直し、今なお、戦争は続いている。あれから五年経った今でも、村では英雄の話はずっと語り継がれている。それと、パパの話も。
 ピスケルさんの農場で朝から晩まで働いた後、僕は配給の食事を貰いにいった。戦争中のこの村では、個人の所有なんてものはなく、食料も武器も生活用品も全て村が管理してみんなに配っていた。そこは融通を利かすこともあったのだろうけど、僕の家にはなかった。一年ほど前までは、配給はママと二人で行ってたけど、今では体の弱いママに負担かけないように僕一人で行くことにしていた。
 配給の列には十人程待っていた。まだ四、五人は来そうだから、僕は並ばずに待つことにした。暗黙の了解でやっぱり最初に並ぶのは兵士の家族だ。その後に戦死した兵士の家族、最後に僕。ただ、英雄の家族は最初に並んでもみんな何も言わない。言わないどころかみんな和やかに迎えてくれる。もし、僕が最初に並んだら、どんな目で見られるかわからない。毎日、並んでいるだけでよく平気で配給を貰えるなって目で見られているのは痛いくらいに感じていた。だけど、ママやナーシュルの為にも僕は頭を下げ黙って並んだ。今日もそうやって並ぶと、ほとんど野菜の切れ端しか浮かんでないスープと、焼き焦げたパンを配られた。まだ、パンがあるだけラッキーだった。配給が少ない時にはパンがない時もあったけど、文句なんて言えるはずがなかった。
 家に帰ると、ナーシュルが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、お帰り」
 僕はナーシュルの頭を撫でると、「ご飯にしよう」と声を掛けた。病弱なママにいっぱい食べさせてあげたいけど、ママは最後に残ったほんの少ししか食べてくれない。「僕はそんなに食べなくていい」って、何回言っても「お前は畑で働いているんだから、ちゃんと食べなきゃだめ」って聞いてくれない。
 食事が始まると、ナーシュルはいつも僕にいっぱい聞いてくる。
「今日どんなことしてたの?」、「今年の収穫はどう?」、「ケガしなかった?」、「お兄ちゃん無理しちゃだめだよ」
 僕は一つ一つ丁寧に答える。
 ナーシュルは毎日ママと二人っきりで家の中で編み物をして過ごしている。あまり外に出たがらない。だから僕が話すことが新鮮なんだと思う。「ミナゲルさんの牛に子供が出来た」とか、「今年は麦の出来がいい」とか、そんなありふれた話が家の中に閉じこもってるナーシュルにとって大切な村とのつながりなんだって感じる。だけど、ニコニコして僕にまとわりついてくるナーシュルを見てると、外に出たって、すぐに友達出来るのにって思うけど、そういえば外で笑ってるナーシュルを見たことがなかった。外に出るといつも顔を強張らさせている。でも、それは僕もナーシュルにそう思われているのかもしれない。それでも、たまに僕と一緒に外を散歩すると、すごく嬉しそうだった。キラキラと輝く星空を一生懸命いつまでも見上げていた。
 十三才になり、僕も兵士として戦場に出られることになった。村のみんなは僕がパパの子だから何か起こさないか不安そうにしていた。ママとナーシュルも、すごく心配してくれていたし、ものすごく怖がっているのもわかった。だけど僕はすごくわくわくしていた。ずっとこの日を待ちわびていたから。
 戦闘に参加して最初の二、三回は、拍子抜けするほど何もなかった。土嚢に隠れて敵が来たら応戦しろと命令があったけど、新兵が待機している場所まで敵が来るほどまだ逼迫した状況じゃなかった。朝から晩まで土嚢で待っているだけだった。でも、冷静に待機していた僕は上官に褒められた。自分としては戦闘に参加した感覚はなかったけど、村での立場は確実に変わっていった。
 三回目の戦闘の後、今日も活躍出来なかったとがっかりしながら村へと戻ったけど、ふだん挨拶もしてくれなかった人達がみんな「ご苦労様」とねぎらってくれた。僕はびっくりしながらみんなにおじきをした。家に戻ると、ナーシュルも興奮した顔で僕にまとわりついてきた。
「今日ね、ママと配給貰いにいったら、お兄ちゃんが戦ってるんだからって先に並びなさいって言われたの」
 テーブルの上には、野菜がいっぱいで、その上鶏肉までごつごつ入ったスープと、焼き色がきれいなパンが並べられていた。久しぶりに遠慮しないでご飯を食べた。それは、ママもナーシュルも同じだった。僕はいつかこんな日が来て欲しいと願った日がひどく簡単に来たことに驚いていた。
 それから僕は冷静な性格を買われ、斥候として働くことになった。一人物音を立てず静かに動き回り敵の陣営を捜し当てた。僕の探索のおかげで敵に的確にダメージを与えられるようになり、だんだん戦況は好転していった。そうなると、ますます村の人は僕に優しくしてくれるようになった。この前、村に戻ると、ナーシュルが友達と遊ぶ姿を見かけた。僕はこんな日が続けばいいと思った。
 でも、やっぱりそんな願いは叶うはずもなく、僕がいつものように斥候に出ると、足下でカチッと音がした。気がついたら僕は村の病院で寝ていて、両足は吹っ飛んでいた。ベットの傍ではママとナーシュルが泣きじゃくっていた。そして、多くの村の人が同情の目で僕を見てくれていた。だけど、それはいつまで?
 何ヶ月かして、僕はなんとか車椅子を使って動けるようになった。だけど、戦闘に参加することは不可能だった。病院から家に戻る途中、何人もの人が「大丈夫かい?」と声を掛けてくれた。家に戻ると、ママとナーシュルが「お兄ちゃんが生きてて良かった」と、僕を抱きしめてくれたけど、それが本当に良かったのかどうか僕にはわからなかった。夕食の時間になるとママとナーシュルが配給を貰いに行ってくれた。テーブルに並べられた食事は、野菜の切れ端しか入っていないスープと、焼き焦げたパンだった。ママとナーシュルのことだから、自分から最後に並んだのだろうとわかった。
 寝れない夜を何日か過ごした。ナーシュルが友達と遊ぶこともなくなった。ママはまた顔色が悪くなってきた。せめて僕が配給を貰いに行こうとしたけど、急にしっかりとしだしたナーシュルが「お兄ちゃんはケガしてるんだから」と、それを許してくれなかった。ママもあまり体調が良くないから、配給を取りに行くのはナーシュルの仕事となった。僕はご飯を食べる度、胸が痛くなった。ナーシュルがみんなから白い目で見られてないか心配で役立たずに戻った自分をバラバラに引きちぎりたいくらい恨んだ。
 それから僕は村長にどうにか自分に出来ることはないかと頼み込み、英雄になることにした。
 辺りが薄暗くなった頃、体中に爆弾を巻き付け、パラシュートを背負った僕は、仲間に「行くよ」と合図をして、みんなに崖下に落として貰った。落ちていく最中、なぜか温かいスープのにおいがした。ママとナーシュルは今頃、夕食かな。明日にはまた、野菜と肉がたっぷりと入ったスープと、焼き色がきれいなパンが食べられるよ。
 じゃあね、ママ。じゃあね……ナーシュル。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン