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さくってさん

サラリーマンしながらイラスト描いてます。 たまに趣味で小説っぽいものを書いたりしてます。

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魔法使いマホガニー

18/07/11 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:2件 さくって 閲覧数:170

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その日マホガニーは学校の帰りに本屋に立ち寄り、いつものように小説の表紙だけを見ていた。

マホガニーには特技があった。
それは、表紙を見ただけで、つまりタイトルと表紙イラストを見るだけで、その小説の内容が6割方わかるという特技だ。
マホガニーは想像力が豊か。
それも結構的を得たものだった。

マホガニーは将来小説家になればその想像力で売れっ子になれるかもしれなかったが、
本人は普通のサラリーマンに憧れていた。
ギャンブルは大嫌いなのだ。
なぜかというとギャンブルは小説と違って想像力があまり及ばず、筋書きのない良くも悪くも予期せぬ事態が起こり得るからである。

だから人生無難に生きたいと考える、悪く言うとお堅い奴だった。

今年高校を卒業するマホガニーはすでにその辺の無難な大学に合格済みで、その大学でいくつか資格を取り、そして無難な企業に就職し、営業をこなしながら、家庭を持ち、子供を育てる。
それがマホガニーの人生設計、
つまり自分の物語を想像した結果だった。

店内をぐるぐる回って大方表紙に目を通したマホガニーは、ある一冊の本の前で立ち止まった。
表紙のタイトルは
「魔法使いマホメット」
マホガニーが嫌いなジャンル、ファンタジーな小説だ。無難な文学系の本を好むマホガニーはその本を通りすぎようとしたが、なぜか気になってしまう。

その本の内容が想像できなかったからだ。

マホガニーはいつもそうやって想像力が及ばない小説を見つけるとそれを購入し読む。それがマホガニーの小説選びのスタイルだった。

予期せぬ事態は嫌だが
予期せぬ小説に出会うのは好きだった。

そして気は進まないがその本を購入し、家路につく。家に着くと、まずうがい手洗いを済ませ服を着替える。トイレで用をたしたあとお風呂に入り、出たら冷蔵庫にある野菜ジュースをコップに注いで飲む。
そして母親の作った晩飯を食べ、二階にある自分の部屋に戻る。

マホガニーは無駄が嫌いだった
とにかく効率よく、素早く計画的に。
それがマホガニーのモットーだ。

机に座る。まだ肌寒い季節だが、
外はまだほんのりと明るい。
マホガニーはなんともいい心地になり、
先ほど買った想像のできない小説を開いた。
そして読み始めた。

しばらく読んだが、なぜ想像できなかったのか
よくあるファンタジーな小説じゃないか。

小心者のマホメットが悪の魔法使いを倒すため、魔法の修行をする。陳腐で安っぽい、どこかで見たことあるような物語だが、マホガニーは不思議とその陳腐な物語から目が離せなかった。

その小心者のマホメットは
マホガニーそっくりだったからだ。

予期せぬ出来事が嫌いで、物事を合理的かつ迅速に実行する。魔法の修行も無駄を一切省き、悪の魔法使いを倒せる魔法を最短修行時間で身に付けようとする。

おそらくマホガニーがこの主人公でもそうしただろうな、と。マホガニーはすっかりマホメットに感情移入してしまったのだった。マホガニーは一気に読み進めた。

修行を終えたマホメットは、身に付けた魔法で悪の魔法使いを倒そうとするが、側近の1人に阻まれる。
悪の魔法使いを倒す魔法しか身に付けていないマホメットにとってその側近は手強かった。側近に次第に追い込まれて行くマホメット。

マホガニーは気が気じゃなかった。
「仲間くらい引き連れて行けばよかったのに」

しかし小心者のマホメットは仲間を作れなかったし、その必要性を感じなかった。そしてマホメットは側近の放った強力な魔法によって、氷漬けにされてしまったのだ。

マホガニーはなんともいえない絶望感と、
気のあう兄弟を失ったかのような喪失感に苛まれた。

なぜマホメットが悪の魔法使いを倒さねばならなかったのか?無難な人生を選んでいれば氷漬けなんかにされなかったのに。

だがマホメットには倒さねばならぬ理由があった。
マホメットは恋をしていた。小心者でお堅いマホメットがある日出会った少女に恋をした。だがその少女は悪の魔法使いによって言葉を封じられていた。
言葉を取り戻す為には、悪の魔法使いを倒さなくてはならない。マホメットは生まれて初めて他人の為に命を懸ける決心をしたのだ。

そして…

マホガニーは恋なんか一生するかと心に決めた。
恋なんか、マホガニーが嫌いな予期せぬ事態そのものじゃないか。だが自分の分身とまで思っていたマホメットは、その予期せぬ事態に巻き込まれたあげく、氷に封じ込められてしまった。マホガニーは本にしおりも挟まず閉じた。まだ物語は中盤。

「僕ならマホメットみたいな間違いは冒さない。」

一気に感情移入できなくなって読む気が失せてしまった。時計を見るともう日付が変わり、すっかり夜も更けていた。いつもなら寝ている時間に起きていることに苛立ち、無駄な時間を過ごしたことを後悔しながら、ベッドに入り、目を閉じた。

そして夢を見た。

どことも知らない異国の街にいて、何者かわからないフードを深く被った顔の見えない禍々しい雰囲気の漂う奴に追われる夢だ。
マホガニーは逃げた。建物の間を、その先の森の中を
とにかく走った。途中木の枝か何かにつまづきそうになりながらも走った。ふと後ろを見る。その瞬間、追ってきたフードの男の指先が光り、マホガニーは氷に閉じ込められてしまった。

ジリリリリ

目覚まし時計を止めて、マホガニーはまだ眠たい体を起こした。体は少し汗ばんでいる。

マホガニーはただでさえ朝が苦手だった。
昨夜夜更かししたあげく、気分の悪い夢を見たマホガニーは最高に憂鬱だった。
だがこのままベッドに潜っていたら遅刻する。下から朝食を催促する母親の声も聞こえてきた。
仕方なくマホガニーは制服に着替えて部屋を出た。そして朝食を済ませ、学校に向かう。

俯きながら歩いていてふと気付く。
マホガニーはどうやら寝ぼけていたようだ。
靴下の左右の色が違っているのだ。
いつもの几帳面なマホガニーなら考えられないことだった。引き返そうかと思ったが、それでは遅刻する。
無遅刻無欠席がマホガニーの目標だ。
だから朝が苦手だろうが学校に行く。
誰にも気付かれないさ、と自分に言い聞かせまた歩き始めた時、

「そこの白黒くん」

と声をかけられた。

振り返ると、マホガニーが今まで見たことないくらいカワイイ女の子が立っていた。
目はクリッと大きく、肌は透き通るような白さ。
金色の長い髪を横でくくり、愛嬌のある笑顔を向けている。
マホガニーは顔が赤くなるのを感じた。

「ねぇ白黒くん、南高校への道知ってる?
迷っちゃったの」

金色の髪の少女が話しかける。
南高校はマホガニーの通っている学校だ。
転校生だろうか?卒業まであと少しのこの時期にまさか同学年は転校してこないだろう。ということは後輩?

「白黒くん?」

答えようとするマホガニーだったが、
緊張と靴下を履き間違えたことを知られたことへの恥ずかしさから何もしゃべられなかった。
ただでさえ女の子とまともに話したことがないのだ。

「ねぇ白黒くん聞いてる?」

何か言わねば。でも言葉が出てこないので、おどおどしながら高校の方角に指を指した。そして胸にある高校のバッチを見せた。

「なんだ一緒の学校じゃない。てか君、しゃべれないの?まぁいいわ。じゃあついて行っていい?」

!!!!!

冗談じゃない!!
これまで目立たず無難に学園生活を送ってきた。こんなカワイイ女の子と一緒に登校なんて、目立ってしょうがないじゃないか!!

とか思いつつ、無言で頷くマホガニーであった。

だが勢いで頷いてしまって困った。
ここから学校まで約15分。
案内するのが校門までとしても、
それまでに他の生徒に目撃されるだろう。
人の噂は怖いものですぐ広まる。

『あの目立たないマホガニーが美少女と仲良く登校』

想像力豊かなマホガニーは、ことの結末まで読めてしまう。
マホガニーはゾッとした。
注目を浴びるなんてまっぴらだ。すると自然と足早になる。
なるべくこの美少女から離れて歩かなければ…
一緒に肩を並べて歩くのだけは避けようとした。
また少し早くなる。

「ちょっと白黒くん!待って!歩くの早いよ!」

マホガニーは聞いていない。

「白黒くん!待ってってば!!」

マホガニーは振り向かない。

「白黒くん!!!」

マホガニーはついに走り始めた。

「ちょっと白黒くん!?なんで走るのよ!!!」

美少女も走り出した!!

マホガニーも負けじと全速力で走る!!!

「ハァ!ハァ!!白黒くん!!!
待って!!!」

校門が見えて来た。

「白黒くん!!!待って!!白黒くん!!!」

「僕は白黒くんじゃない!!!マホガニーだ!!!!」

マホガニーは校門前で自分の名を美少女に向かって叫んだ。

「あ…」

他の生徒の注目を一気に浴びるマホガニー。

「はぁ…はぁ…それが君の名前?
変なのw」

マホガニーは死にたかった。
他の生徒の注目を浴びながら、
美少女に笑われたのだ。

これからのことを想像するのも嫌だった。
なぜこんなことになった?
やはり引き返して靴下を履き直し、今みたいに走って登校すれば間に合ったんじゃないか?
いや、昨日あんな小説を読まずにちゃんと寝ていれば…
マホガニーはなんとかこの場をやり過ごせないかということと、後悔の念に苛まれていた。

美少女はそんなマホガニーの様子を見ながら、まだ笑顔のままだった。そして、

「私も名前変だけどね。私はマホメット。
案内ありがとうマホガニーくん」

そう言って微笑んだ顔に、
マホガニーは予期せぬ出来事との遭遇を予感するのであった。


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このストーリーに関するコメント

18/07/13 クナリ

マホガニーというネーミングの面白さから始まり、テンポのいい文体で楽しく読ませていただきましたが、靴下の色違いを、知られて動揺するシーンは、キャラクタとしてとても魅力的でした。
一気に彼の存在に血が通ったようでした。
そこからどんどん愛嬌が増していくのが魅力的ですね。

18/07/14 さくって

>>クナリさん
コメントありがとうございます!
機械的なキャラが人間味を帯びていくって構成が好きで、そこを伝えられたらと思って書いたのでとても嬉しいです^_^
名前は本当になんとなくリズムで浮かんだ感じです笑

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