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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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あとガキ

18/07/01 コンテスト(テーマ):第158回 時空モノガタリ文学賞 【 あとがき 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:206

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 自身の小説の初出版の際、担当編集さんに「“あとがき”どうします?」って聞かれて、その意味をすぐに理解できない。
 単純に考えれば“後書き”なのに“書き”の部分が“ガキ”に頭のなかですり替わってしまい、俺はそれを反射的に断るけど。

 あとがきって確か、作品が終わった後に作者が、読者の物語に対するのめり込みや熱を打ち消すようにしれっと現れて「この本を手に取っていただきありがとうございました」って、照れ笑いするんだよな。
 あとは誰も聞いていない作品の構想や自身のエピソードを書き連ねるなんてーーやっぱり自分のことばかり話したい“ガキ”と一緒なんじゃないかと思い、俺の咄嗟の変換ミスはあながち間違っていなかったと気づく。

 そのことを夜の8時くらいに仕事から帰ってきて、料理を作っている彼女の柚葉に告げると「せっかくなんだし書いてみたら」と、俺の予測していた反応とは違うものが返ってくる。
「お前は嫌じゃないの? 作品のラストにもよるけどさ。例えば……男女が結ばれる幸せなエンディングだとして、」
「うん」
「せっかく感動してたのに、最後の最後で“エヘヘ、どうも。作者でーす!”って暢気に登場するんだぜ。雰囲気ぶち壊された気しない?」
「えー、そうかな。私、あとがき好きだよ」
「マジかよ」
「作者の作品に対する想いとか、あと日常の小ネタとか書いててさ。ミニエッセイみたいじゃない?」
「うーん」
「あとさ、小説家さんってあまり表舞台に出てこないし、読者の人もどんな人か気になったりするんじゃないかな?」
「……うん。もういい。大丈夫」
「ごめんね。素人がベラベラと」
 俺が勝手に打ち負かされた気になって話を無理矢理切ると、彼女が謝ってくる。

 それから互いにお風呂に入って、ベッドに二人寝転んで、今日は担当編集さんと会社で打ち合わせした後に、喫茶店で読書して帰ってきただけで元気な俺は、もう眠いはずの柚葉の体を求める。仕事で疲れているはずなのに彼女は、嫌がる素振りをまるで見せない。嫌なら嫌だって言えばいいのに。

 ーーそんな俺が彼氏だから、柚葉は浮気したのだ。
 
 ある日の夜、柚葉がお風呂に入っている最中に、彼女の携帯が独りでに光り始める。
 俺はそれに反応して、彼女の職場の先輩からの着信だとわかるけど、勝手に出てしまうのだ。
「もしもし、柚葉? 悪いな、こんな時間に」
「自分、柚葉じゃありません。彼氏の高典です」
「あー、あの」
 “あの”って、どのだよ。柚葉はこいつに俺のこと、なんて話してるんだよ。
「あいつになにか用ですか?」
「仕事の用件だったけど、俺あんたに言いたいことあるんだわ」
「なんですか。俺、あなたのこと知りませんけど」
 それでも構わず、相手は話を続ける。
「小説家目指してるんだかなんだか知らないけど。あんま柚葉に迷惑かけんなよ」
「もう小説家です。てか、見ず知らずの人に説教されるような覚えないですし。あと、あいつのこと下の名前で呼ぶのやめてください」
「見ず知らずじゃないよ、ヒモ男。俺は柚葉がお前のせいで辛い思いしてるの知ってるから。さっさと解放してやんなよ」

 それから俺と浮気相手の電話での口論を、お風呂から上がった柚葉が止めて、柚葉は「先輩とはなにもない」の一点張りだけど、俺はまったく信じられない。
 それで、酷い言葉とか汚い言葉で柚葉を罵りまくると、彼女は泣き出してしまう。俺もその場に居るのが気まずくて、まさか裏切られるなんて思ってなくて悲しくて、顔面が涙や鼻水やらでグチャグチャのまま、少量の荷物を抱えて柚葉の家を飛び出た。

 ーー柚葉とはそれ以来、二度と会うことはない。

 俺は小説賞の賞金で日々を食いつないでいるうちに、彼女が恋しくなって、暴言を吐いたことを後悔して、彼女に連絡しようと思ったけど、あっけなく着信拒否され、さらに彼女は引越しまでしていた。

 せめて、柚葉に謝罪の手紙だけでも書きたいと思いーーそうだ。今度発売される俺の小説の“あとがき”に、彼女への謝罪文を載せよう。それなら柚葉の目に止まるかもと、この前と言ってることとやろうとしていることが変わっていることに、俺は気がつく。

 もしかして後“書き”を“ガキ”に変換して拒絶したのは、潜在意識的に自分がガキだと認めたくなかったからじゃないかと思い、唐突に笑いが込み上げてくる。
 
 一度断ったのに、やっぱりあとがき書きますとか、簡単にひっくり返そうとするところが子どもだし、あんだけ人を傷つけたのに、まだ彼女にしがみつこうとしていること自体、諦めが悪すぎるのだ。救えない馬鹿なのだ。

 ーーそれに、あの物語の終わりのスペースは、読んでくれた人に感謝することはあっても。
 終わった後に誰かに謝って、全部台無しにするものではないんだろう、きっと。


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