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ぜなさん

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アーベントロート

18/06/26 コンテスト(テーマ):第1回 時空モノガタリ短編文学賞 コメント:0件 ぜな 閲覧数:338

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 夕焼けに反射して、雪で白い山肌が赤くなる。まるで火の海になったかのように綺麗な赤色に染まり、僕と明美はその中心にいた。心中でもするカップル如く、僕たちは今、この火の海に飲み込まれようとしている。

「赤いわね」
「赤いね」
「寒いわね」
「寒いね」
「眩しいわね」
「眩しいね」

 木霊するように僕たちは同じ言葉を繰り返す。同じものを見ている、同じものを感じているんだから自然と言葉は同じになる。ゴーグルの中でも目が開けていられないほどに夕焼けは眩しく、神々しかった。
 明美が突然僕の手を握った。お互いに手袋をしているし、雪山の中で寒くて手が悴んでいるので、あまり明美の体温を感じられない。明美は更に僕の手を力強くしっかりと繋いだ。何かに怯えているようで、手が少し震えていた。


「いけないわ、変なこと想像しちゃった」
「どうしたの?」
「夕日が赤いせいね。このままこの夕焼けに飲み込まれたら、あなたと離れ離れになっちゃいそうだって思ったら怖くなったの」
「……僕は絶対に明美と離れないよ」

 僕はそう言うと、明美の方へと向き、手を握り返した。そして、僕は膝を立て、明美の手袋に一つキスを落とした。明美はキスをされたことに驚いて手を離し、自分の背中に手を隠した。ゴーグルであまり明美の顔が見れないが、夕日のせいもあって、いつも以上に顔が赤く見えた。
 照れている明美がかわいくて、彼女にわからないように小さく笑った。それなのに、明美の勘は鋭いようで、立ち上がろうとした僕を思いっきり押し倒した。背中に当たる雪が冷たい。それなのに明美は更に僕を雪に埋もれさせようと、体の体重を乗せてきた。笑ったことを怒っているようだ。

「ごめんごめん。明美が可愛かった、から――」
「……こっちこそごめんね。あまりにも夕日が赤かったから…………」

 ゴーグルを外し、顔をあげた明美は、今までの中で一番綺麗に笑った。だけど腹部に広がる熱が増してきて、体が思うように動かなくなっていた。明美の温もりを感じることもできなくなり、僕の意識はどんどんと遠ざかる。最後に目に写ったのは、明美が夕焼けのように頬を赤く染めて、笑っていたことだ。






 とある警察の事情聴取の部屋で、白いワンピースを着た女が顔を俯かせていた。警察は、何度も一昨日の夕方のことを聞き返していた。しかし、女は何も話そうとしない。ただ、じっと机の上を見つめているだけで、警察の言葉にも耳に届いていないようだ。

「屯倉明美(みやけあけみ)さん。あなたの彼氏である坪井慎司(つぼいしんじ)さんは、一昨日の夕方雪山で腹部を刺されて、大量出血でお亡くなりました。もう一度聞きますが、あなた、一緒に雪山に行きましたよね?あなたが殺したんじゃないのですか?他にいないんですよね。あなた以外に殺せる人なんて――」

 じっと黙り、女は口を割ろうとしない。
 すると事情聴取の部屋の窓から、夕焼けの赤い色が漏れてきた。それを見た瞬間、女は、にたりと不気味そうに笑った。それに警察は何も喋ろうとしなかった女がいきなり笑ったことで、恐怖を感じた。女の口が静かにゆっくりと開いた。

「……夕日が赤いのがいけないの」

 女はぽつりぽつりと事件について語り始めた。


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